良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)ハリーハウゼンの温もりを感じる、特撮映画。

 レイ・ハリーハウゼンの何が凄いかといって、こういった特撮映画のビデオ・パッケージに、「特撮は、あのハリーハウゼン」とか「特撮の権威、ハリーハウゼン」などの文句が、必ず書かれていることです。普通、映画を見る時はストーリー、主演俳優、監督などで見る人がほとんどだと思います。

 が、特撮映画の世界では特殊効果や特殊メイクに「誰が、製作に関わったのか」がかなり重要視されます。有名な人だけでも、『キング・コング』や『ロスト・ワールド』のウィリス・H・オブライエン、『シンドバッド 7回目の冒険』や『アルゴ探検隊の大冒険』などのレイ・ハリーハウゼン、『ゴジラ』の円谷英二、『フランケンシュタイン』のジャック・P・ピアース、『狼男』のジョン・P・フルトンなど、枚挙に暇がない。

 映画を支える裏方で、良い仕事をした人々の名前をパッケージで見つけると、それだけで、レンタルビデオを借りたりしてしまいます。比較的新しいところでも、『エイリアン』のカルロ・ランバルディ、また人名ではないがILMが関わっていれば、とりあえず見ておこうかなという自分がいます。

 俳優や物語、監督や主題歌だけが映画ではないという、当たり前のことを気づかせてくれる、最も解りやすい映画製作者たちのうちの一部門が、特撮効果を司るグループなのです。最近でこそ、クローズ・アップされる事も多くなりましたが、当時のスタッフ達が陽の目を見ることなど皆無だったのではないでしょうか。

 とにもかくにも、特撮界の有名人の一人、レイ・ハリーハウゼンが手がけた特撮作品のひとつが、この『アルゴ~』です。ストーリーとしては、ギリシャ神話の世界の神様や英雄が多数登場し、主人公の冒険を助けるという、ファンタジー溢れる内容です。

 登場する主なキャラクターとしてはゼウス、ヘラ、タロス(DVDではテイロス)、ヘラクレス、王女メディア、ネプチューンエルメスなどがスクリーンせましと活躍します。筋書きはかなり適当なもので、王子のその後の復讐劇やヘラクレスがその後どうなったかなどは、全く無視されています。

 作品自体も唐突にエンディングとなってしまうため、「?」が10分くらい続きますが、ハリーハウゼンの仕事が見れたのだから「まあいいや」という気持ちになりました。この適当さもまた、特撮映画の味わいのひとつでもあります。

 前半には、あまり「ハリーにおまかせ!」的なシーンはなく、それを期待する特撮ファンにとっては、少々焦らされるような思いをしますが、中盤とクライマックスには特撮の山場が用意されています。その他、海の難所を通る時にネプチューンが、ジェイソン王子を助けるシーンもあります。

 ですが、脂肪太りの、ただでっかいおっさんが水浴びしているようにしか見えないので、あまり効果的とは思えません。ただ海の色が何度か映るのですが、この青さというか、紺碧のブルーがとても美しく、この映画の価値をさらに押し上げているように思えます。

 山場の一つ目は「タロスの青銅巨人」であり、彼が動き出すシーン、船を沈めるシーン、王子達に襲いかかるシーンなどは『大魔神』を思い出しましたが、こちらの方が製作は古い。素晴らしい迫力で、作品に登場します。動く時に、金属が軋む音がするのですが、この音が巨人の恐ろしさを倍増させます。銅の錆びの色合いも素晴らしく、夢に出てきそうな気味の悪さでした。この映画で、もっとも印象に残ったキャラクターです。

 そして二つ目は敵国での「七つ頭を持つドラゴン(ヤマタノオロチみたいなやつ)」、「骸骨騎士団」との戦いのシーンです。『シンドバッド 7回目の冒険』でも骸骨剣士は登場しましたが、今回は量産されていました。シンドバッドの骸骨よりもかなり速く、王子のお仲間はすべて骸骨達に殺されてしまいます。

 カクカクした独特の動きが特徴の、彼の特撮技術については古臭いと指摘する向きもあるようですが、全ての技術のうち、最も進化するスピードが速い特撮においては、3年経つと、もう古臭く見えることもしばしばです。しかし、彼の残した作品中には、当時の特撮技術の限界と芸術性を合わせ持っていた、ストップ・モーション・アニメーションの素晴らしさを大いに味わう事ができます。

 ハリーハウゼンの残した仕事と、最近のCG技術との違いの第一にして、もっとも重要なのは、ハリーハウゼン作品には、人間の体温がたしかに感じられる事です。技術そのものに、暖か味、愛情が込められているのです。たしかにチャチに見えるかもしれませんし、お粗末といわざるを得ないシーンもあります。

 しかし持てる技術を使い切っている、一所懸命さが画面から伝わってきます。これは映画への情熱と言って良いかもしれません。もっとも大切なのはこの部分であり、原点を忘れ、興行収益のみに目が向かっているハリウッド関係者が失ったのが、映画製作そのものへの情熱なのではないか。

 リアルなCGを見せられても、何か寒々しいのは、これらが、ただ機械的な作業によって製作されただけで、キャラクターに命が吹き込まれていないからなのではないか。何のための技術の進歩なのかよく解らない状況が、映画界に生まれています。特撮でも温かみを込めることは出来るのです。ハリーハウゼンや、過去の先輩達を見習うべきでしょう。

総合評価 71点