良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『大日本人』(2007)異色の才人、松本人志の映像感覚は如何に?

 今年、ヨーロッパで開催された各国映画祭で、配給会社のバイヤー中心に興味をもたれ、おおむね好評だったなどと話題先行の感があったのがこの作品『大日本人』でした。
画像
 キワモノ的な単なる思い上がりのタレント映画なのか、それとも映画ファンとしても書籍を出版するなどしている有名な才人、松本人志の独特の映像へのこだわりと感性をみせる野心的な作品なのかを確かめるために恐る恐る見ました。  カットの割り方、色彩やアングルの選択、遠近感の利用など見た目の演出についてのことをまずは中心にじっくり見ていきました。思っていたよりもオーソドックスで、奇を衒うような撮り方はしていなかったので、まずは一安心しました。  静かに、そして淡々と撮っているのがむしろ新鮮でした。彼が感情に走る人間ではなく、冷静に世界を眺めている様子が理解できる映像作りになっています。
画像
 ストーリー展開についてはおそらく筋道はあってないような映像メインのヨーロッパかアメリカのカルト・ムービーに近いものなるだろうとの予測があったからので、いい意味で裏切ってくれました。  もう一点、とても気になっていたのは出演陣でした。彼のお抱え芸人である山崎邦正今田耕司らが多数出演することも予想できましたので、チームワークが上手く行くと思惑を超えた力のある作品にも化ける可能性もありますが、正直に言うと、あまり演技も期待していませんでした。実際、演技で特筆できるものはありませんでした。   主な出演者は以下の通りです。主役兼監督の松本人志、マネージャー役のUA、ゲストとして獣たちを演じた人々に竹内力(跳ルノ獣)、神木隆之介(童ノ獣)、板尾創路(匂ウノ獣)、宮迫博之(ステイ・ウィズ・ミー)、原西孝幸(匂ウノ獣)らが特殊メイクとともに出演を果たしています。  音楽には当然のように『ナウ・ロマンティック』のテイ・トウワを起用し、監督自身も作詞作曲の『デラ・アモーレ』をカラオケで熱唱するシーンがあります。他に中村雅俊の『ふれあい』も使用していました。
画像
 彼のセンスを味わうフィルムなのだと覚悟して見るべき作品でしょう。ただ個人的には様々なジャンルの人たちが監督するのは功罪のバランスは功が6割、罪が4割だと思っています。新たな感性が加わることは長い目で見るとプラスでしょう。
画像
 松本がこの映画で描きたかったのは迫力ある特撮ではなく、ヒーローの日常そのものである。よって特撮シーンのチャチさはむしろ特撮映画でないがしろにされがちな本編ドラマに対する大いなる皮肉と受け取れる。  大佐藤の苦悩はヒーローたちの心情を代弁するものである。もしこの作品で多額の予算を注ぎ込み、特撮部門と俳優の人選をきちんと行っていたならば、誰も越えられない特撮映画の金字塔となっていた可能性もある。しかしそんなものは松本一志は望んではいなかったであろう。彼は作りたいように作っただけである。
画像
 「獣」のデザイン(怪獣ではなく、獣なのだ。なぜなら実際に格闘する大佐藤、つまり松本にとっては、相手は実体のある獣であり、怪しんでなどいる暇は無いからという論理なのです。新鮮!)や格闘シーンに関してはほぼすべての特撮ファンたちから共感を得られないほどレベルが低い。  だがそれは特撮に神経を集中するあまり、本編をおろそかにしがちな特撮映画への皮肉である。とりわけCGを使っていたのにクライマックスで実写版に切り替える荒技はファンからは総スカンを食うのは明らかであったが、思い切った演出をやり切った。支持するかしないかはもちろん別問題ではあります。  好き勝手にやって、結果は最悪という椎名桜子のような異業種出身監督作品も数多い。そのため、最初からこういった作品を否定しがちではあります。しかし、ただ否定するのは無意味なので、なんとか建設的な意見を書いていきたいと自戒する今日この頃です。
画像
 しかしまあ、スーパー・ジャスティスのお屋敷での食卓を囲んだ会話ははたして必要だったろうか。ごっつ、ええかんじのコントのような会話劇は個人的には楽しめましたが…。
画像
総合評価 48点 大日本人 通常盤
大日本人 通常盤 [DVD]