良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)素晴らしい出来栄え!過去の劇場版に不満だった人こそ是非!

 もう体感的には真夏日だとカラダが自覚している梅雨の合間の平日にバイクに乗って、自分の住んでいる町からふたつほど市をまたぎ、ある場所に向かいました。1時間ほどバイクで駆けていくと、はるか遠くの前方に、ジリジリと陽炎が立つ、郊外型の大きなシネコンが姿を現してきました。  五階建てのその建築物には情けないことに『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破』を県内で掛けている唯一のスクリーンがあるのです。『ノウイング』『ハリー・ポッター 謎のプリンス』『ROOKIES/卒業』ならば、不必要なくらい、あちこちのシネコンで、幾つものスクリーンをつぶしてやっているのに、何故『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破』は県庁所在地のある僕の住んでいる市の映画館では一軒も掛けていないのだろうか。  もっとも有名なアニメのひとつだし、今週からは夏休みに入り、小中高の多くのチルドレンの来場者も見込めるはずでしょうが、結果としてはわざわざ他都市の劇場まで来なくてはならない状況となり、多少ムカムカしながらバイクで走って、やっと劇場までたどり着きました。
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 まあ、ヱヴァンゲリヲンといったところで、そのタイトルがハートにヒットするのは20代後半から、40代前半までだけなのでしょうから、仕方ないのかもしれません。最初に映画化されてからでも、もう10年以上が経過しているので、製作側にしても、さすがのヱヴァでも再びブームを巻き起こすのは無理かもしれないという不安もあったのではないでしょうか。  テレビ放送開始時にチルドレンと同じ14歳だった人達でも、いまでは27歳か28歳になっている訳ですから、案外に熱狂的ファンやマスコミが騒ぐ割にはリアルタイムで見てきた、その層の人達は醒めているのでしょうか。興行側がそう判断した結果がこの上映館の少なさなのだろうと思い巡らせていました。  ようやく劇場の駐車場にバイクを置いて、いそいそと劇場に入って行くと、そこではなんと500人を越える黒山の人だかり(親子連れも多い!)で溢れ返っていて、「おおっ!やっぱ人気あるんじゃん!」と驚いていました。すぐにチケットとパンフを購入し、ロビーの空いてる席に座り、コーラを飲みながら、周りを観察していました。  パンフを開けてみようとしたら、そこにあったのは観るまで開けるなという英文でした。見るなと言われるとついつい見たくなるのが人情ではありますが、ここで見てしまって、本編が楽しめなくなると元も子もないのでここはじっと我慢しました。
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 しかし、その喜びも束の間、アナウンスで「ただ今より『ポケット・モンスター』の入場を開始します!」との言葉が入った途端に、500人以上いたであろうロビーの客数が半分近くに減り、しばらくしてから見回すと、残っているのは若干名の親子連れと20代前半以上の人達のみになっていきました。  しかも、そのうちの半分(それでも300人くらいでした。)もまた10分後に始まった「ただ今より『ハリー・ポッター謎のプリンス』の入場を開始します!」のアナウンスの声とともに親子連れがすべて一掃されていき、20代のカップルも激減し、最後まで残っているのは学生らしい二人組が相当数とお互いに他者にはまったく関心のないヲタばかりであることに気づきました。  そしてこのヲタたちはすべて入場OKのアナウンスとともに200名収容のスクリーンに無言で引き込まれていきました。いまから彼らヱヴァヲタとともに映画ヲタ兼ヱヴァ・ファンの自分もこれから2時間あまりを過ごすことになります。ここで自分をヱヴァ・ファンとしたのは悪意ではなく、それほどまでにはヱヴァに詳しくないからです。全話観ただけではヲタと呼べるレベルには到底達しないことを自覚しているからです。  観客は200人収容のところに150人くらいは入っていました。公開されたのが6月後半でしたので、かなりの集客能力を持っている映画であることは容易に理解できます。なぜこんなにスクリーンが少ないのだ?
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 スクリーン内の自分の席に着くと、右手側は20代前半くらいの女の子がいて、たぶんこの娘は純粋なアニメ・ファンなのでしょうか、購入したグッズを眺めていました。そして今回問題になったのが左手に来たヤツでした。彼は眼鏡をかけた、20代くらいの肥満児で、なぜか年齢の割りに異常に息づかいが荒く、すでにかなり五月蝿いので、ムッとしました。ぼくに敵対する使徒はすぐ隣にいたのです。  しかも第なん使徒かは分からない、この使徒バカメガネはなんだか知りませんが、指で始終リズムを取って、椅子の肘置きで音を鳴らし、上映中でも平気で携帯を取り出して、時間を見ているようでした。こんなヤツが劇場に来るのは許せません。  すでに映画が始まっているにもかかわらず、最低限のマナーすら身に着けていない馬鹿がいるのは迷惑以外のなにものでも無い。アニメ映画や話題の映画にくると、必ず周りに迷惑をかけるハズレの観客が混じっていますが、まさか自分の隣に使徒が来るなんて、最悪でした。  しかしいつまでもこんなバカ野郎の使徒に構っていられないので、ヤツにはATフィールドを張って対応し、画面に集中して、シンクロを心がけていきました。今回は冒頭が新製作の新たな使徒との交戦シーンから始まり、その場面で新たなキャラクターである真希波・マリ・イラストリアスが登場したこともあり、シンクロ率はアップし、一気に作品世界に浸りこんでいけました。
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 イラストリアスという名前なので、ギリシャ系かとも思いましたが、「ちょっと待て、庵野監督は船好きだった!」のを思い出し、いろいろ調べてみると、英国軍の軍艦から採ったようです。まあ、由来はさておき、名前から判断すると彼女はおそらくギリシャ系のイギリス人と日本人のハーフのようです。  眼鏡女子の彼女の投入はキャラの描き分けに失敗してしまえば、大いなる誤算としてさらなる批判に晒されてしまいそうではありますが、今回の第二部を観る限りにおいては上手く作品にはまっているように思いました。
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 ハリー・ポッターでも半純血の王子が作品世界の鍵を握りそうになっているように、ヱヴァ世界もハーフである彼女が作品世界を再構築するための触媒になるのでしょうか。彼女を上手く機能させて、それまでのヱヴァの矛盾点や欠けているパーツをはめ込んでいけたならば、完全無欠のヱヴァが成立するのかもしれません。  綾波レイとも惣流・アスカ・ラングレー(この映画では名前の設定が変更されて、敷波・アスカ・ラングレー)とも違うタイプの女の子として扱われる彼女は、登場場面自体はかなり少なく、接触したのもケンジだけでしたが、大きなインパクトを残してくれました。わざとヱヴァを暴走させるという荒業をやってのける彼女の意義はなんだろうか。  メタファーとしてのキレる少女をキャラとして持ってきたのだろうか。なにかヱヴァを乗る必然の理由と謎を持っているマリというキャラクターが以降どういった活躍をするのかには興味があります。一方で、この「破」において、廃人同様の状態になってしまう大人気キャラクターであるアスカの処遇をどうするのかにも非常に興味があります。
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 TVシリーズでも、90年代の劇場版映画においても、彼女の見せ場は後半になればどんどん減っていきましたが、今回の新劇場版でももしこのまま廃人状態で終わってしまうのであれば、昔からのファンはがっかりするでしょう。レイと人気を二分するアスカを残りの2作品で全く起用しないというのでは、またまた非難轟々となる可能性が強い。魅力的なキャラだけに、騒ぐだけではなく、人類補完計画に意味のあるキャラとして活躍させて欲しい。  『新世紀ヱヴァンゲリオン AIR/まごころを、君に』ではシンジとともにサード・インパクト後の残された人類、つまり新たなアダムとイヴを暗示させる終わり方でしたが、今回はどうなるのだろうか。また「気持ち悪い…。」という台詞を吐くのを観たい。もしくはもっと良い終り方をして、すっきりとした気分にさせて欲しい。  ヱヴァに搭乗する意義やモチベーションというのは最初の三人のチルドレン(シンジ、レイ、アスカ)にはかなり重要で、ここが折れるとヱヴァが機能しなくなることも度々でした。主人公シンジにとってはヱヴァは終始いやいやながらも、社会で生きていく上での仕事でした。レイにとっては社会と唯一繋がる接点でした。アスカにとっては唯一自分が占有できる、自分が構ってもらえる場所でした。
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 一方レイは今回、かなり人間味のあるキャラになっていて、シンジとゲンドウを仲直りさせるために手料理を作り、みんなを招いてささやかな食事会を企画したり、シンジへの気持ちを「ぽかぽかしたい。」と表現するなどTVアニメや劇場版を観てきた者からすると、ぐっと人間に近づいてきています。彼女に対抗するように、料理をするようになるアスカもツンデレ風で微笑ましい。  今までとは違う、こういった設定の変化もありましたが、それに比べると、自分のある目的のためにヱヴァに乗っているというマリはかなり異質な存在であり、今後クローズアップされてくるのでしょうか。彼ら4人の描きかたには注目していきたい。また余談になりますが、今回のキャラクター設定において、アスカの名前が敷波となったことで、シンジの周りの女の子たちがすべて「波」のつく苗字に変わりました。  旧日本海軍の軍艦の名前をとっていますが、アスカは蒼龍という航空母艦から駆逐艦へと格下げになっています。これこそが庵野監督がアスカファンへと向けたメッセージなのでしょうか。つまり、アスカは歯車でしかなく、母なる軍艦ではないということでしょうか。  言い換えれば、シンジという中心人物は名前の通り、「碇」、つまり物語を安定させるアンカーであり、その他の「波」はすべて彼を守護する役割以上ではないのだろうか。  映画自体を観ていくと、今回はかなり多くのCG技術を駆使していて、かなり綺麗な仕上がりになっています。とくにモブ・シーンや使徒の表現にかなり効果を上げていました。大画面で観る使徒の動きはとてもシャープかつナチュラルで、新たな表現の可能性を観客に示しました。  編集も素晴らしく、すべてのヱヴァ過去作を観てきた人でも十分に楽しめるように、継ぎ目継ぎ目を新シーンで埋めていたり、設定の変更があったり、台詞の変更が効果的に行われているので、飽きることはありません。それらを追っていくだけでも、何度も違いを楽しめるのではないでしょうか。
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 またこのヱヴァでは性的な描写も話題になることが多く、今回もヱヴァという形を使いながらも、思春期の性的な興味や葛藤を根底に描いていました。パンチラや胸へのタッチ、缶ビールをモザイク代わりに使ったセミヌードなどはあちこちに散りばめられていますし、最後の使徒との決戦シーンで、レイがヱヴァごと使徒に飲み込まれていったあとに、シンジが初号機に乗って、彼女を取り戻しに行くシーンがあるのです。  しかし彼女らは設定では14歳です。つまり児童ポルノ禁止法に抵触しないのであろうか。アニメだから良いということになるのだろうか。ヱヴァのお約束シーンでもありますので、これまでどおり、笑いのパターンのひとつとして、こういったシーンも盛り込んでいって欲しいのですが、妙な放送コードを持ち出して、規制好きな輩の妨害に負けないでもらいたい。  それはさておき。使徒の体内に飲み込まれたレイはシンジの呼びかけに最初は反応しませんが、ヱヴァの機体を使って、使徒の体を無理やりに、レイプをするようにこじ開けると、彼女は生まれたままの姿でシンジと交わり、一体化します。ヱヴァ初号機のなかで二人はひとつになります。これからどうなるのかは次回作『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:Q』(QUICKENING)でのお楽しみというところで、第二部は終了します。  音楽では童謡やフォークソング、そして一部には歌謡曲を用い、対位法的な効果を狙っていました。選曲では『翼をください』などがクライマックスで掛かったときにはどうかなあ、という疑問がありましたが、他の曲は結構活きていました。映画館ならではの音響設備の良さもあり、緊迫するシーンでの音の演出は素晴らしいものでした。  使徒に襲われるシーンでは前方からだけではなく、縦横無尽に館内のスピーカーから音が出てきて、基地内にいるような臨場感もありました。エンディング・テーマとなっている宇多田ヒカルの『BEAUTIFUL WORLD』もアコースティック・ヴァージョンが採用されていて、統一感もあります。
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 効果音で嬉しいのはミサトらへの連絡が入るときの着信音がウルトラ・シリーズか東宝ゴジラ映画シリーズでよく防衛軍基地などのシーンで使われる音だったのです。良いなあと思って、エンドロールで確認しようと思っていましたところ、ちゃんと『帰ってきたウルトラマン』のテロップが出てきたので嬉しくなりました。  庵野秀明は昔、円谷プロの許可を取って、『帰ってきたウルトラマン』の自主制作映画を撮影したこともありますので、今回もおそらくどこかに作品のなかに彼の好きなものの痕跡を残したかったのかもしれません。あれはあれで低予算ながらもよく出来ていますので、機会があったらご覧ください。  エンド・ロールをずっと眺めていると、次回予告、つまり第三作品目の宣伝が入り、使徒から救出したもののシンジと同化(性交?しているような描写がありました。)したレイ、新たな活躍を見せるであろうマリ、そしてTVシリーズでは最後の使徒に変貌するカヲルらが登場していました。う~~~ん…。アスカはいないのかなあ…。 総合評価 90点
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 (EVANGELION:1.11) [DVD]
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