良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『キングコング 髑髏島の巨神』(2017)次回はGとの対戦決定?

 3月の年度末決算処理が無事に終わり、年度はじめの組織改編やら面倒臭くてゴチャゴチャする雑事が一段落し、ようやく映画館に来ることが出来ました。  何とかして見たかったのは『SING』『キングコング髑髏島の巨神』の二本です。しかしながら、大阪と奈良の主な劇場ではユニバーサル製作の『SING』は吹き替え版しか上映されていません。  長澤まさみちゃんらがガンバっている吹き替え版スタッフに恨みはありませんが、基本的にオリジナル音声の字幕版しか見ないので、今回の『SING』はDVD待ちになってしまいます。  もう一方のキングコングも地元映画館では吹き替え版だけなので、今回は仕方なく、大阪まで出向いてきました。場所は昔よく来ていたラーメン屋さんがある場末のところでした。  何しろ10年ぶりだったので、まだあるかどうか不安でしたが、元気に営業されていました。ただ残念なことにすでに代替わりしており、肝心の味がかなりレベルが下がっていました。もう来ることはないなと思いつつ、店を後にしました。
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 同じくよく通っていたインド料理店もすでになく、風邪を引いたときなどに利用していた薬屋さんも三月で店仕舞いしており、近くにあった中古レコード屋さんも看板だけを残し、中はもぬけの殻でした。  時間の流れや商売の盛衰は祇園精舎の鐘の声なのだということを思い知らされます。奢れる者も久しからずとは言いますが、奢らなくとも滅びていく現実に愕然とさせられます。十年一昔の変遷にちょっと暗い気持ちになりつつ、上映の30分前に映画館につくようにしていたので、無事にチケットは欲しいところが取れました。  そこそこ入ってはいましたが、奈良ではなく大阪なので少ない方でしょう。また普段はシネ・ヌーヴォのような名画座を除いて、綺麗なシネコン・スタイルが主流になり、扉の向こうは間接照明みたいな暗めの照明で、スクリーンには座席の段ごとに傾斜があるのが普通な環境に慣れています。  なので、蛍光灯で妙に明るく、床が平面で前にデカイ奴が来ると見えなくなる昔ながらの状態に驚きました。廃れるところには廃れるだけの訳があるのでしょう。  怪獣映画の代表格であり、世界中のクリエーターに影響を与え、今でもゴジラとともに多くのファンを持つ偉大なスター、キングコングの最新版として公開されているのが『キングコング 髑髏島の巨神』です。
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 どうせ特撮映画を観るならば、映画館に足を運んで、大きなスクリーンで怪獣と一緒に時間を過ごすのが一番の醍醐味です。今回の新作ではタコ、クモ、牛、鳥、トカゲ(エヴァに出てきそうだ。スカル・クルーラーと名付けられている)となんでもかんでもデカくすれば良いという訳ではないことを改めて実感しましたが、製作側の酔っぱらいながら決めたような悪ノリのジョークだと思えばそれも楽しめるでしょう。  予告編を見る限り、水牛まで巨大化させてしまうのはさすがにやり過ぎで萎えてしまいましたが、本編では浦島太郎の亀のようにそれなりに牛さんも重要な役どころを与えられていました。肉食で捕えたオオダコもすぐに食ってしまうような大猿がなぜかヘリの下敷きになって弱っている水牛を助けてやるのは謎だが、もしかすると彼のペットなのかもしれない。  CGバリバリなので大猿とオオトカゲの動きは異常に速く、目まぐるしく躍動します。見せ場である大蜥蜴や大蛸(東宝へのオマージュでしょうか?)などとの巨大生物同士の肉弾戦は迫力があります。序盤の対戦ヘリとの戦いで見せるコングの強さは圧倒的で、『地獄の黙示録』の映像を意識しているのが誰でも分かる映像作りはパロディのようで笑えてしまう。  ナパームでジャングルを焼き払ったり、河を溯上していくボートなんてそのまんまじゃないかと突っ込みたくなりました。そもそも傭兵部隊のリーダーの名前自体がジェームズ・コンラッドというのが笑えます。『地獄の黙示録』の原作者の名前はジョゼフ・コンラッドですので意識していないはずはありません。  突然軍隊に襲い掛かるグモンガの親戚はどういう生態系で生きているのだろうか、また大アリもいるよとマーロウ(ジョン・C・ライリー)は科学者に告げるが、一匹も出てこないまま上映は終了する。
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 が、オールド特撮怪獣映画世代の僕は東宝や円谷の着ぐるみやオブライエン『ロスト・ワールド』やハリーハウゼン『シンドバッド七回目の航海』などのストップモーション・アニメ独特の温かみのある独特の動きが好きなので、イマイチ集中できないかもしれないなあなどと思っていましたが、力技満載で展開が速いのでお話の破綻などは気にせずに躍動感を十分楽しめました。  『ジュラシック・パーク』以降の特撮映画ではCGは当たり前でそれに新たな付加価値をどうやって付けていくかという段階で試行錯誤しているのは理解できますので、あまり悪く言いたくはない。あくまでも怪獣同士のガチンコ相撲を見る映画であり、理屈はおとといきやがれ!のスタッフの気概を見ましょう。  一方で、特撮シーンであまり差がつけられないならば、製作側が注力するべきなのはストーリーの作り込みの徹底や企画力(ラストで明かされますねw)と俳優陣の演技の強化であるべきなのでしょう。でも今回は理屈は気にせずに劇場で観れば、十分に楽しめます。子供さんがいる方はぜひ連れて行ってあげてください。特撮ファンになりますよ。  キングコングは何の象徴なのだろうか。ありきたりの自然への冒涜とそれへの報復というわけではなさそうです。『猿の惑星』でサルが黄色人種(つまり日本人)、オランウータンがユダヤ人、ゴリラが黒人のメタファーだったように意味を見つけるなら、巨大なサルは中国だろうか。北朝鮮はマシュマロマンだが。  音楽の選択が無駄に洒落ていて、舞台となる1973年のロック音楽が使用されています。ジェファーソン・エアプレイン『ホワイト・ラビット』、CCRの『バッド・ムーン・ライジング』、ブラック・サバスの『パラノイド』、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』などがまるで『地獄の黙示録』で使われたローリング・ストーンズの『サディスファクション』のように無駄にカッコ良く流れてくるのが嬉しい。
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 その他10曲程度ロックが掛かるのですが、ギター・リフやコーラスは聞き覚えがあるもののタイトルを忘れてしまっている曲も何曲かありました。  ただボコボコにコングにやられているのになぜ壊れてしまっているのが妥当のレコードプレーヤーをわざわざ出す必要があるのかは不明で、どうしても掛けたいなら普通にBGMで流せばいいし、文明社会から隔絶させるのであるなら、全く不要となる。  個人的には1960~1970年代ロックのファンなのでオッケーですが、醒めたファンが見れば、なんだこれとなってしまいかねない演出ではあります。  最後に掛かる1943年のナンバーでヴェラ・リンのゆったりとした懐かしめのタイトルもずばりな『ウィール・ミート・アゲイン』は28年間もの長きに渡って、髑髏島に置き去りにされていたマーロウ中尉の時間軸を家族と別れる前に戻すために必要だったのでしょう。  コングは若いブロンド娘がお好みという設定は今回も踏襲されています。全編が未開の島で展開されるため、高いところによじ登って飛行機と戦うというお約束の見せ場はありません。
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 出演はトム・ヒドルストン(コンラッド地獄の黙示録じゃないか!)、ブリー・ラーソン(ブロンドのねえちゃん)、サミュエル・L・ジャクソン(白鯨の船長みたいだ!)、ジョン・C・ライリー(ハンク・マーロウ 横井さんみたいな役回りで家族との再会も描かれる美味しい役)、ジン・ティエン(大人のお金の事情だけで出てくる無意味な中国人の女)などです。  劇中のセリフに出てきたり、エンドロールの最後に出てくるMONARCHという組織での取り調べシーンには、なんと写真での出演のみですが、ゴジララドンモスラキングギドラ(さすがにあれだけでかいのが空飛んでいれば、米軍機が見つけているだろ!)まで登場します。  なんでもありの次回作では一度は東宝のリングで対戦したゴジラとの60年ぶりの再試合が行われるようなのは確実のようで、今から楽しみです。ついでにガメラとの頂上決戦もやってくれたら、特撮ファンとしては思い残すこともない。それが良い映画かどうかは保証しかねますが、楽しい映画であることは間違いない。  いっそウルトラマンキングコングがタッグを組み、ゴジラ率いるオール怪獣総進撃で戦えば、それはタイのチャイヨーで痛い目にあったはずの『ウルトラ6兄弟対怪獣軍団』と同じ構図になり、コングが晴れてウルトラマン・ジャングルとして認定される瞬間になるかもしれない。 総合評価 70点