良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『万引き家族』(2018)映画として真っ直ぐに向き合いたい作品。だがしょせん万引きは犯罪なのです。

 何かと話題になっている是枝裕和監督の集大成ともいえる『万引き家族』がカンヌ映画祭パルムドールを獲ったことから、公開前の先週には先行上映がありました。

 用事があったので、本日観に行きましたが、さすがに話題作だけあって、観客は240人程度は入っていました。ぼくは劇場のポイントが貯まっていたので、今回はポイントを使っての鑑賞でした。いろいろ考えさせられる作品でしたのでひとつひとつ感想を書いていきます。

 ネタバレしておりますので、これから観に行く方は劇場での鑑賞後に読んでください。

 劇中のセリフで一番引っかかったのは「店に置いてある物はまだ誰のものでも無い」というリリー・フランキーの台詞です。これは明らかに間違っていて、メーカーや問屋から仕入れをした段階で仕入れ代金が掛かっています。タダ、つまり無料のものなど一つもありません。

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 スーパーで散々万引きしての道すがら、車上荒らしに使うための金槌の値段を少年に聞かれた際も「二千円くらいかな。」と伝えた後に少年は「高いね。」と答える。リリーの切り返しは「買ったらな!」でした。

 この性質の悪い冗談が語られた時、観客の一割くらいの人たちは笑っていましたが、これらの人たちは在庫やサービスとは無縁の職種に就いていたのでしょうか。

 サービス業に就いている知人に聞くと、年間で1%弱の商品が盗難被害に遭っているとのことで、例えば年商一億円で盗難被害が1%だと100万円になります。

 人件費など経費を削減するように毎年言われ続け、売り上げ目標は毎年上がり続ける中、犯罪者に利益を掠め取られているのが現状なのです。またこの手の犯罪者は必要からではなく、非日常のスリルを楽しむために行為に及んでいることが多いことが知られています。

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 捕まえてみると、意外に中高生ではなく、年金を貰っているだろう年寄りが多いというのも聞きました。年金というのは現役世代が稼いだ分を国家が社会保険と名付けた税金として略奪し、現在の年寄りに分け与えているものです。

 ただでさえ利益や収入を収奪しているのに更に現役世代に迷惑をかける輩には厳罰を与え、被害額の三倍程度の罰金を年金から差し押さえるなどの処置をすべきでしょう。

 映画で印象的だったシーンは風俗嬢役の松岡茉優の体温で良いことがあったか、悪いことがあったかを樹木希林が見抜くやり取りには本物の家族のような深みがあります。

 歩きながら、ラムネを飲み干した後に安藤サクラが城桧吏にゲップの仕方を教えるシーンが個人的に一番楽しかった。また子役では男の子の城桧吏が評価されていますが、虐待されていた女の子役の佐々木みゆの方がリアルに見えました。

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 そう、リアルに見えるというのがポイントの作品で、可笑しさと悲惨さが同居するのが喜劇の条件だとするとこの作品は必要十分条件が揃っています。

 見ていて思い出したのはロッセリーニの初期作品群に見られるネオレアリズモと幼い偽装兄妹が反モラルな行動を取る『禁じられた遊び』の雰囲気というか匂いがあるように思えたことです。

 リリー・フランキーはいつも通りのクズのダメ親父ぶりを遺憾なく発揮しています。一番面白かったのは子供たちがいない間に安藤とセックスをし終えた後に背中にネギがついているのを食べたりしてイチャイチャしているときに子供たちが帰宅してきて、大慌てで取り繕う様子が秀逸でした。

 そんなあまりにも日常的に生活しているような演技をしている彼ら以上に圧倒的な存在感を見せていたのが安藤サクラで、この作品での印象的なシーンのほとんどに彼女がいます。

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 佐々木みゆを抱きしめて、心を開かせる下りは本物の親子のような深い愛情を感じます。何といっても圧巻だったのは取り調べ室での意地の悪い池脇千鶴とのやりとりです。

 慟哭を押し殺すように、溢れ出てくる感情が隠し切れずに涙が流れるのを手で拭い、視線を外すことで冷静を保とうとする複雑な心情を全身全霊で表現した安藤サクラはこのシーンで日本一の女優に上り詰めたのかもしれません。

 もともと彼女は父親が奥田瑛二、母親が安藤和津、姉が安藤桃子という才人に囲まれています。成人してからは夫が柄本佑、義理の父が柄本明というまさに芸能一家の一員です。子供も授かり、母としての重みも加わり、ますます女優として磨きがかかってきています。

 樹木希林と並んでも遜色ない素晴らしい出来栄えでした。客観的にこの家族の行動を見ると不思議な部分があります。まずは万引きというリスクを負う必要があるのかということが第一です。

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 樹木希林演じるおばあちゃんは年金を12万円貰っていて、更に夫を奪った浮気相手の家族から毎月3万円ずつせびりに行きます。ダメ親父のリリー・フランキーは日雇い労働者として働いています。

 安藤サクラはクリーニング工場でパートとして働いています。松岡茉優はマトモな仕事をせずに時給3000円の軽めの風俗店で働いています。ざっと三十万くらいは稼いでいるのではないか。

 楽しそうな暮らしのクライマックスは六人で行った海水浴でしょう。ここをピークに偽装家族は崩壊に向かう。樹木希林は死亡し、部屋の下に埋められる。死亡届を出さないので生存していることになり、年金を騙し取り続ける。

 成長するにつけ、万引きに疑問を持つようになってきた城桧吏はわざと捕まるが、逃亡の際に骨折し、入院が決まると警察とのやり取りから逃亡を決意した彼ら偽装家族に捨てられ、ついに警察にすべてが露見する。

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 誘拐してきた女の子も実の両親からの虐待が待ち受けるアパートに帰される。幼い彼女にとっては何が幸せなのだろうか。

 このとき、リリーと安藤サクラの殺人容疑の過去が暴かれる。この辺は一気呵成に展開していき、崩壊の速さに驚かされる。

 ストーリー展開が分かりやすく、登場人物もしっかりと描き分けられている。音楽は劇中では使われずにエンディングのみに細野晴臣が手掛けたジャジーなピアノがメインの楽曲が掛かる。居心地の悪い不協和音の旋律は今まで観客が観てきた映画の本質を物語るようです。

 CMなどでは感動の大作のような安っぽい作品みたいに伝えていますが、苦味たっぷりの悲喜劇ですので複雑さを楽しむべきでしょう。

 エンディング間際にバスに乗って施設に帰って行く城桧吏を走って追いかけるリリーの姿があるが、これはロッセリーニの『無防備都市』からでしょうし、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』というのも思い出しました。体温というか、息遣いを感じる作品です。安っぽい感動ではなく、映画の素晴らしさを堪能して欲しい。

総合評価 90点

 

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