良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ワンダーウォール(不思議の壁)』(1968)ジョージ・ハリソンがサントラを手掛けた風変わりなコメディ作品。

 中学や高校に通っていたころ、ビートルズに夢中になっていた僕はまずはビートルズのアルバム群を買うために小遣いやお年玉、部費と称して親からくすねたお金を総動員していました。

 

 それが一段落ついてきたきたのは高二くらいの時で、その頃になって、解散後に各メンバーが出していたソロ・アルバムに進んでいきました。当時はジョンが亡くなってから数年しか経っておらず、惜しい人を失くしたというお通夜のような雰囲気が音楽雑誌を中心にまだ漂っていました。

 

 同い年のにわかファンのくせに、ジョンの命日には涙が出てくるとか、亡くなった日はアルバムを聴きまくったとか、嘘ばっかりつく連中がいましたが、ぼくはそっち側には付かず、今でもアルバムや新曲をリリースしてくれるポールやジョージに感謝する日々を送っていました。

 

 そうは言いながらも、もちろんビートルズの精神的な支柱がジョンであることは当然ですので、真っ先にコツコツと集めて行ったソロ・アルバムはジョンが多く、ソロ作での金字塔『ジョンの魂』『心の壁、愛の橋』『ダブル・ファンタジー』のスタジオアルバムを筆頭に、『ノーバディ・トールド・ミー』が収録された当時のニューアルバム『ミルク・アンド・ハニー』を購入しました。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223143j:plain

 

 ジョンのスタジオ・アルバムにはヒットしたシングルが外れていることが多く、生前のジョンの意志が反映されたベスト盤である『シェイヴド・フィッシュ』、死後に神格化していく過程に入る『ジョン・レノン・コレクション』なども買い揃えました。

 

 次に買い集めたのはポール・マッカートニーウィングスで、『マッカートニー』『バンド・オン・ザ・ラン』『ウィングス・グレイテスト・ヒッツ』『オール・ザ・ベスト』『パイプス・オブ・ピース』『タッグ・オブ・ウォー』『ヤア!ブロード・ストリート』を買い進みました。

 

 残るジョージとリンゴに関してはジョンとポールのお目当てのアルバムが地元のレコード屋さんや中古屋さんにない時に買っていく感じで、ジョージならば、おそらく本人にとっては不本意で屈辱的な『ベスト・オブ・ジョージ・ハリソン』、僕ら世代にとってはマドンナの方が有名な『リビング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』はレコードで持っていました。

 

 当時地元ではCDしか売っていなかった超大作『オール・シングス・マスト・パス』『クラウド・ナイン』は仕方なくレコード以外での保持となりました。リンゴで買ったのはその名の通り『リンゴ』だけでしたが、特に何とも思わなかったのはまだ彼の良さを理解できていなかったからでしょう。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223210j:plain

 

 緊急事態宣言が明けた地元奈良では人通りが戻りつつあり、駅前のビートルズ専門店のB-SELSさんに出かけて行きました。今回のお目当てはブログのお仲間、蟷螂の斧さんからいただいた『インスタント・カーマ』に別テイクがあるという情報をもとにその盤を探るということでした。

 

 オーナーとそのことをお話しながら、まずは定番となる"鰹節"のUS盤と"コレクション"を聴いていきました。コレクションが発売されるときに『ラヴ』のシングルが出て、ピアノが大幅に増強されていたこともあり、もしかすると"鰹節"のテイクと死後の発売だったコレクションでは違いがあるのかもと思い、聴き比べましたが、違いはないようでした。

 

 次に発売当時のUKシングル盤を聴いてみると、ドラムの響きが良くて、音が立っているのは分かりましたが、45回転なので、その分、33回転よりは音が良いので、その差かなあという程度でした。

 

 最後に聴いたのはUSベルサウンドスタジオ製造の初期シングル盤『インスタント・カーマ』でこれは明らかにミックスが違いました。ベルサウンドらしく、音の解像度がとてもクリアで、シンバルの音や各楽器がしっかりと分離されています。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223242j:plain

 

 再生してしばらくすると出てくるシンバルがレフト方向から聴こえて、全体的に音の拡がりが大きくなってくるのは通常のテイクを聴き続けてきた人には新鮮な感覚を味あわせてくれます。

 

 他のテイクはジョンがモノラル好きだったのを反映してか、中央に音が寄っていて、モノっぽく聴こえ、コーラス部分の「Well,We All Shine On」のところでようやく音が左右に別れていくように聴こえています。

 

 このほかに発売自体が1970年なので、もしかするとモノラルシングル盤とかがあるのかもしれませんが、今回は見つけられませんでした。それでも今回の探索により、ミックスが違うベルサウンド盤を手に入れることが出来たのは嬉しい誤算です。

 

 その後、ジョージのUS盤『不思議の壁』を聴いていて、これってたしかサントラ盤だけど、映画を見たことがないという話になり、あらすじは日本盤の見開きジャケに記載されていたので、家に帰ってから動画サイトで全編動画を探し当て、はじめてこの作品を最後まで見る機会を得ました。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223303p:plain

 

 感想としては何と言っても、ヒロイン役のジェーン・バーキンが可愛いということに尽きます。ロンドンが時代の先端だったころのファッションやメイク、スタイリッシュな容姿が魅力的で、適度にエロく、ツイッギーよりも個人的に好みです。

 

 ストーリー展開は微生物を顕微鏡で覗きながら、日々の研究に没頭する堅物で変わり者の科学者ジャック・マッゴーランが仕事をしている研究所での奇人ぶりが描かれる。ただこの描写がいかにもイギリス風なコメディセンスを連発してくるので、ぼくら日本人には可笑しさが伝わりにくいかもしれません。

 

 ちょっと面白かったのは自宅アパートのエレベーターに乗るシーンで、いったん地下に下がったので、「この研究者は地下暮らしなのか?」と思っていると、すぐに上に向かって昇り出すというフェイントが入ったのには苦笑しました。

 

 夜遅くになり、帰宅後に資料に目を通していると、隣の部屋からインド民族音楽とポップ音楽を混ぜたような奇妙で騒がしい音楽のために集中できなくなり、隣りの部屋に時計をブン投げる(このときの隣室から聴こえてくるフレーズがどうしても『ア・ハード・デイズ・ナイト』の出だしにそっくりに聴こえる!)と壁に光り輝く穴が開き、向こうの部屋が明るく、ジャックの部屋が真っ暗だったためか、マジック・ランタンの映写機のような状態になる。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223329p:plain

 

 ジャックの部屋には抜群のスタイルの若いジェーン・バーキンのシルエットが浮かび上がり、セクシーに踊り続けると、蝶の標本が何故か息を吹き返し、部屋中に舞い上がり、サイケな感じになってくる。光の穴を覗き、ジェーンにすっかり魅了されたジャックの研究対象は微生物から生身の若いジェーンに変わってしまう。

 

 どちらも"覗き"なのだが、片方は犯罪になります。まあ、武漢ウイルスをばらまいた中共の研究者は微生物やウイルスを覗いていますので、両方とも犯罪者になり得るということでしょう。

 

 その後は覗きが第一になってしまい、仕事をさぼり、ジェーンを覗くことが彼の人生の大部分を占めるようになる。妄想癖もどんどん増していくが、一方のジェーンも薬物過剰摂取による情緒不安定なためか、両者とも妄想の中で接近する。

 

 しばらくは彼女を妄想の中で求めるジャックだったが、行為はエスカレートする一方で、ついにはアパートの屋根まで上り、そこから天井に潜入し、屋根裏の訪問者のような異常行動を取り、ついに彼女の部屋に侵入してしまう。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223400p:plain

 

 そこにはたまたま写真家の彼氏と別れた後の傷心したジェーンが睡眠薬とガスで自殺を図っていて、気を失った彼女を介抱しながら、病院スタッフに預けるまでをジャックが行う。夢にまで見たジェーンの唇を奪うのはジャックではなく、人工呼吸処置を実施する役得の救急隊員だったのがなんとも皮肉です。

 

 エンディングに向かっていったときに、見ていたぼくらはこの映画でジェーン・バーキンが一言もしゃべらないままに終えようとしていたことに気付きます。ある意味、とても贅沢な使い方をしています。

 

 新聞記事の写真にはドリトル先生とか、ハリソン夫人(このころはパティ・ボイドですね)などの名前がパロディとして記載されています。科学者が彼女を助けたとありますが、なんかスペルが間違えています。他人を救っても、名前を誤記されるような、そんなしょぼくれた人生だということでしょうか。

 

 不思議な映像と音楽の組み合わせは独特でしたが、不思議に調和していて、舞台はロンドンなのにインド音楽とポップ音楽の融合に違和感はありません。

 

 まあ、音楽を手掛けているのがビートルズのメンバーで『ジ・インナー・ライト』『イッツ・オール・トゥ・マッチ』を作っていたころのジョージ・ハリソンで、彼を手伝っているのはクレジットはされていないもののエリック・クラプトンリンゴ・スターなのですから、ある程度の水準を持っているのは当然です。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223728j:plain

 サントラを聴いていると、『ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー』のような音階があったり、『ジ・インナー・ライト』や『イッツ・オール・トゥ・マッチ』に繋がるようなアイデアが散見されます。

 

 クラプトンが絡んでいると思われる曲などは『オール・シングス・マスト・パス』のD面に入れるか、ジョンの『レヴォリューション9』とともに本来ならば、ホワイトアルバムのおまけとしてEP盤にしてアルバムから除外すれば良い感じになったようなモノもあります。

 

 現在、この作品はわが国でもDVDが発売されていますが、4000円超えなので、なんとも手を出すのを躊躇してしまいます。ポップではあるが、クセがある作品なので1960年代の雰囲気が好きな人は買っても良いでしょう。

 

 同じ覗きが主題の映画ならば、ぼくは『のぞき魔バッド・ロナルド』を選びますし、モテないくん映画ならば、『ジェレミー』を選びます。

 

f:id:yojimbonoyoieiga:20200516223814j:plain

 

 総合評価 58点

 

 

ワンダーウォール [DVD]

ワンダーウォール [DVD]

  • 発売日: 2005/05/11
  • メディア: DVD
 

 

 

 

 

ジェレミー [DVD]

ジェレミー [DVD]

  • 発売日: 2004/11/26
  • メディア: DVD