『ビートルズ 33回転イギリス・モノラル盤』気になるレット・イット・ビー45回転
デビュー作『プリーズ・プリーズ・ミー』の疾走感、ハーフ・シャドウが強烈な印象を与える『ウィズ・ザ・ビートルズ』、個人的にはジョンがもっとも魅力的に映る『ア・ハード・デイズ・ナイト』、疲労がたまったなかでクリスマスシーズンに間に合わせた『ビートルズ・フォー・セール』までの初期は特に好きです。
各々の個性がはっきりと表れてくる『ヘルプ!』、芸術性という方向性が示された『ラバーソウル』、実験的意味合いが強くなる『リヴォルヴァー』、スタジオワークの極北であるとともに時代を先取りした『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、はじめての失敗と評された『マジカル・ミステリー・ツアー(EP)』までの革新的活動の時代は子供向けというレッテルを葬る期間です。
企画盤であるもののA面曲のモノラルテイクを聴くとアルバムの印象がガラリと変わる『イエロー・サブマリン』、二枚組自体が珍しかったが当時は散漫だという酷評を受けた『ザ・ビートルズ』で一応のモノラル盤発売の区切りが付けられます。
五本の主演映画である『ア・ハード・デイズ・ナイト』『ヘルプ!』『マジカル・ミステリー・ツアー』『イエロー・サブマリン(アニメ)』『レット・イット・ビー』に関してはブラジル盤をゲットしたため、すべてモノラル音源で聴いています。
その後はイギリス盤ではアルバム未収録だった『のっぽのサリー(EP)』のモノラル盤などを近所のビートルズ・レコード専門店のB-SELSさんに通いつめて、ご厚意で試聴を繰り返しながら良盤を揃えていきました。
ついでにブラジル・モノラル盤『レット・イット・ビー』、アルゼンチン・モノラル盤『ヘイ・ジュード』にも手を出していきました。ステレオテイクを無理やりにモノラル変換している強引なアルバムではありますが、マスター音源がおそらくベル・サウンド盤のようで、音が明るくクリアでカラッとした良い音を鳴らしてくれます。
サッカーでは敵同士のブラジルとアルゼンチンですが、両国ともにビートルズ・ファンは南米でも多かったのでしょうね。
目ぼしいやつで残るのはアメリカ・モノラル盤『マジカル・ミステリー・ツアー』、イギリス・モノラル盤『オールディーズ』、マトリックス2の『リヴォルヴァー』のみになってきていました。これらについてはただいまB-SELSさんにオファーしている状況で、もうすぐ入荷してもらえることになっています(すでに入手)。
英国モノラル音源自体は22枚のシングル・コレクションやEP盤があるので所持してはいますが、引っくり返す手間を考えると『オールディーズ』『マジカル・ミステリー・ツアー』はアルバムでも揃えておきたい。
『マジカル・ミステリー・ツアー』に関してはキャピトル唯一の貢献ですので、これは欠かせない。『リヴォルヴァー』はすでにマトリックス1の希少盤を持っていますが、反対に通常のモノラルテイクの『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』が無かったので、購入に至りました。
『オールディーズ』には『バッド・ボーイ』のモノラル・テイクが収録されているので、モノの音圧と迫力を考えると聴いておきたい。ドイツ語版『抱きしめたい』『シー・ラヴズ・ユー』はイギリスでは発売はなかったのだろうか。
イギリス・モノラル盤の中でノー・マークだったのが『リヴォルヴァー』と『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の合間にリリースされた初期ベスト盤『オールディーズ』でした。
かつて中高生の頃、旗帯盤の帯裏に紹介されているカタログ・リストには確かにイギリス・オリジナルの8番目にこのアルバムがあり、当時の僕らビンボー学生はリストを消しながら、「次はこれ欲しいな。」「あと5枚か?」などと考えながら、「『バッド・ボーイ』が入っているのはこれだけか?いや『ロック・アンド・ロール・ミュージック』『ビートルズⅥ』にも入っているなあ…」などとあれこれ悩んでいました。
初期ベストである『オールディーズ』には『シー・ラヴズ・ユー』『抱きしめたい』『イエスタデイ』『ミッシェル』などが網羅されていることもあり、赤盤青盤が出るまでは1枚で多くのヒット・シングルを聴くことが出来る良盤という認識だったに違いない。
しかしながら、CD化の際に『パスト・マスターズ』が出たことにより、公式リストから除外されてしまい、『マジカル・ミステリー・ツアー』のEPと共にその後はなかったことにされてしまいました。
後のCD化以降しか知らないであろう世代が『リヴォルヴァー』のジャケットを評して、「最初にイラストが使用された1枚である」などというレビューを掲載しているものを見かけました。
しかし、実際にイギリス・オリジナル・アルバムではじめてイラストをジャケットに使ったのはこの『オールディーズ』です。しかもメンバーの似顔絵ですらないというのはかなり斬新な試みであると言えます。
モノラル盤は当然モノラルテイクが収録されています。これが結構曲者でステレオテイクを無理やりモノラル化したものもあり、サントラ盤『イエロー・サブマリン』などはステレオ・ミックス音源をモノラル化しているので、今回の『オールディーズ』の収録ナンバーのテイクがどうなっているのかにも興味がありました。
結果として、すべての収録ナンバーはモノラル・ミックスで入っていて、ステレオを無理やりにモノラルに変換したものはありませんでした。
もうひとつ、ついでに気になっていたことがあったので、そちらもB-SELSさんで試していきました。それは日本盤シングル『レット・イット・ビー』のモノラル・ミックスの有無に関するものです。
一般的にビートルズのシングルはほとんどがモノラルで発売されていて、例えばイギリスの場合、ステレオは『ジョンとヨーコのバラード』『サムシング』『レット・イット・ビー』の3枚です。日本の場合、これらに『オー・ダーリン』『ロング・アンド・ワインディング・ロード』を加えることになります。
ただ今回、自宅にある『レット・イット・ビー』のシングル3枚のうち、イギリス・アップル、USベルサウンド、フランス・モノラル盤、東芝音工盤(定価500円)を聴き比べると、前者2枚は普通に左右の音の分離がすっきりと分かるのですが、東芝音工盤の音の鳴り方がモノラルにしか聞こえません。
実際、手持ちのシングル盤にはジャケット等にも一切ステレオの文字がない。ステレオ針で聴くとイマイチだったので、モノラル針に切り替えて聴いてみると、結構イイ感じな音を鳴らしてくれました。
これはB-SELSさんで確かめるしかないと思い、アップル国内盤シングルのステレオ初回盤(視聴させてもらい、購入に至りましたが、ステレオと表記されてはいるものの実際はモノラルなのではと思いました)、青盤の東芝EMI盤(こりゃ、ステレオ。)、さらについでに封印作品となった角川『悪霊島』盤など色々聴き比べていきました。
『レット・イット・ビー』の初回盤はステレオ表記、定価400円、ジャケの林檎は緑色ですが、ステレオ表記のない盤はステレオ表記がなく、定価500円、ジャケの林檎は赤色が強く出ています。
どういう理由かは知りませんが、なんらかの手違いでモノラル・ミックスを作ってしまい、チェックをせずにプレスし、印刷部門もジャケにステレオ記載してしまい、モノラル・ミックスを誤記したまま発売したのではないか。
その後に定価500円に改定される際にご丁寧にステレオ表記を消していることからも、ミスに気付いた東芝がシレッと訂正だけして出し続けたのではないか。
公式には何も言われていないので何とも言えませんが、60年代や70年代ならではのテキトーな仕事感覚がなんとなく好きです。全世界同一フォーマットなら、こうした違いは起こりえないので、目くじら立てずに各国で楽しめる状況の方が良い。