良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『シンドバッド 7回目の航海』(1958)特撮の巨匠、レイ・ハリーハウゼンの技が冴え渡る。

 1958年製作作品ですので、当然、リアルタイムで見たわけではありません。はじめて見たのは、おそらくTV放送で、二度目以降はビデオ鑑賞でした。通算で、5回ほど見たことになりますが、何故か何度も見てしまう作品です。

 では何故それほど見てしまうのだろうか。理由の第一は、特撮映画が好きだからというのが、最もシンプルな理由です。特撮というと、大まかに分けると金属製の骨格に細工をしたストップ・モーション・アニメーションや粘土などを使用する「モーション・ピクチャー物」、人間がキャラクターの中に入って操作する「着ぐるみ物」、SFの円盤、未来都市、戦争物の都市、戦闘機、戦艦などで使われる「ミニチュア・セット物」、フランケンシュタインやホラーで多用される「特殊メイク物」などが頭に浮かんできます。

 これらの特撮物は、言うなれば、映画の「華」そのものであり、醍醐味なのです。映画だけが表現できる映像世界が、特撮物の領域です。たとえば言葉で、フランケンシュタインの怪物を言い表そうとすれば、何百もの言葉が必要になります。

 しかし映画ならば、残忍だが物悲しげな表情をするボリス・カーロフによって演じられたあの怪物を見れば、ひとつの言葉も必要ではなくなります。観れば分かる、という映画が本来あるべき基本にある意味、もっとも忠実なのが、この特撮物というジャンルではないでしょうか。

 なかでもCGが登場する前に製作された特撮作品では、B級のレッテルが貼られているジャンルのためか、低予算のものが多く、さまざまな工夫で足りない予算分を補おうとするため、ストーリーや見せ方にひねりをきかせた作品が数多く見られます。

 そしてCG以前の特撮物(以下Before CG)の映画に在って、CG以後の特撮物(以下After CG)の特撮作品から消えてしまったものに、人間的な暖かさを挙げることができます。作り手の熱意が、どうしてもACGには感じられない。なにか無機質な温度を体感できるのです。

 その点、BCGでは現在の最先端の技術とは明らかに差がある、拙い技術で見ていられない部分もあるにせよ、何とか工夫して観客に見せようとする熱意と努力が確実に存在しています。ちゃちだとか、古臭いというのは簡単ではありますが、製作スタッフの努力の跡を理解できないのであれば、映画ファンとしてはかなり観方の幅が狭いと言わざるを得ない。

 特撮の世界では、日本が誇る円谷英二と同じくらい有名なのが、レイ・ハリーハウゼンであり、彼の特撮技術には目を瞠る部分があります。ミニチュアの模型や粘土で作った怪獣に、一ゴマごとに動きを付けて撮影していくというストップ・モーション・アニメーション、いわばセル・アニメの手法に近い根気の要る作業をしていくには、特撮への情熱がなければ、続けられるものではない。

 そして、こういった特撮映画こそ、なるべくならば映画館の大画面で観て欲しい。SF、怪獣物、特殊メイク物はミニチュアで作られた街並みなどを含め、予算内で細部まで作り込みがしっかりとされているものが多いので、それを確認するためにも是非映画館で観てください。

 映画館のゴジラは巨大で恐ろしく迫力があるが、小さなTVやパソコン画面ではトカゲよりも小さくなってしまいます。ビデオでしか鑑賞できない我々も含めて、これは本来、製作者が意図していた観客ではないのです。大画面という、特撮の醍醐味を味わってないのに、作品を評価しなければならないのは、心苦しいと思っています。

 前置きが長くなりましたが、この作品で見るべきなのは、何といってもハリーハウゼンの創りだした芸術作品である、ミニチュアのサイクロプス(一つ目の角のある半人半獣の巨人)、双頭の巨大鳥、蛇女(髪の毛が蛇の大群)、ドラゴン、骸骨の騎士であり、これらモンスターたちの活躍を見るだけでも十分に楽しめます。

 ストーリーとしては、クライマックス・シーンでの、魔法のランプを溶岩に投げ込むくだりが、まるっきり『ロード・オブ・ザ・リング』のラストと同じである事に驚きを感じます。かの映画を見たときに思い出したのがこのシーンでした。

 ついでに、そのちょっと前のシンドバッド達の脱出シーンではロープが使われますが、これも『スター・ウォーズ 新たなる希望』で、ルークとレイアがデス・スターの橋を渡るシーンで、引用されているのではないかと思いました。特撮映画の名作である、この作品をルーカス監督が見ていないはずはありません。

 

 技術そのものは色褪せて見えるのは仕方ありませんが、製作者の意図を理解できれば、旧いと言って馬鹿にすることは出来なくなるのではないでしょうか。個人的には、昔も今も特撮物は大好きです。だまされる事も多い特撮物ですが、予告編を見ていると、ついつい行きたくなって、そわそわしてしまいます。

 金のためだけに作られた、映画への愛情が感じられない作品には腹が立ちますが、努力の跡が見える作品には、喜びを感じます。まあ、『ゴジラ』で言えば『怪獣大戦争』までの作品には誇りと愛情を感じます。『ガメラ』で言えば、ギロンが出てくる位までかなあ。

総合評価 75点