良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

2005-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『夢』(1990) 夢というモチーフを借りた、黒澤明監督の私小説的作品。ネタバレあり。

オムニバス形式というよりも、自らの見た「夢」をモチーフにして短編八作品を自身の歴史として紡いでいった作品集であり、後期の黒澤監督らしい審美的な映像美で満たされた作品に仕上がっています。ただ単に八本の短編を羅列しただけではなく、自身の幼少期…

『天国と地獄』(1963)黒澤明監督、現代劇の最高傑作にして完璧な作品。ネタバレあり。

黒澤明監督の、というよりも歴代の日本映画の中でもジャンルを問わず、これぞ最高傑作と呼ぶに相応しい見事な出来栄えであり、彼の現代劇の中でも一二を争う素晴らしい作品です。昭和三十年代という時代に、警察の科学捜査と、知能犯かつ愉快犯との攻防とい…

『醜聞』(1950)テーマが優れているにもかかわらず、何か違和感のある作品。ネタバレあり。

黒澤明監督の1950年の作品ですが、本来の職場である東宝の労働争議のために、他社で撮らざるを得ず、大映や松竹で製作された作品のうちのひとつであり、これは松竹で撮られたものです。 東宝作品には無い違和感と、よそよそしさのある作品です。具体的に…

『雨あがる』(2000)後期・黒澤明監督作品を支えた小泉尭史監督のデビュー作品。ネタバレあり。

2000年製作の小泉尭史監督デビュー作品。黒澤監督の残した遺稿から映画化された作品であり、黒澤監督が持っていた映像作りのエッセンスをそこかしこに見ることができます。とても美しい作品ではありますが、もっと小泉監督の個性を見てみたいという不満…

『酔いどれ天使』(1948) 黒澤明と三船敏郎。ついに2人が巡り合った記念すべき作品。ネタバレあり。

黒澤明監督がようやく彼の「主演」俳優に巡り会うことのできた記念碑的な作品です。この作品の主役はあくまでも志村喬ですが、実質の主役は間違いなく三船敏郎です。彼の圧倒的な存在感を得て、ようやく黒澤作品の完成形を見ることになります。 ヤクザ同士で…

『下妻物語』(2003)フカキョンとアンナの、強力2トップは予想以上の出来栄えでした。ネタバレあり。

中島哲也監督による、深田恭子と土屋アンナの魅力を全面に押し出した作品だが、単なるアイドル映画にはない、監督その他の人々の作品に懸けるやる気を感じる好作品です。田舎に住んではいるが自分の世界観をしっかり持っている女の子が、不良少女と出会い反…

『野良犬』(1949) いわゆる刑事物の先駆けとなった、黒澤明監督の現代劇の傑作。ネタバレあり。

オープニングの、狂犬病のような荒々しい息を吐く「犬」のアップ映像が、強烈なインパクトを持っていて、すぐさま映画世界に引き込まれていきます。映画では観客を集中させるために、出だしの5分間が最も肝心なので、このオープニングの映像は秀逸でした。 …

『ヒッチコックの恐喝』(1928)流石のヒッチにも迷いが見えるサイレントとトーキーの端境期の作品。

ネタバレあり。 ヒッチ先生、初のトーキー作品という記念碑的な作品です。しかし流石のヒッチ先生でもこのトーキーというものをどう使っていけばよいのだろうかとお悩みのようです。ストーリーとしては1920年代の大英帝国において、ヒロインのしたことは…

『ラン・ローラ・ラン』(1998)映画がゲーム感覚で見る物になってしまった先駆けの一本。ネタバレあり

ドイツの新鋭トム・ティクヴァ監督が、3パターン・エンディングを80分の中で見せるという荒業をやってしまった作品です。まるでシュミレーション・ゲームをやっていて、だめならすぐにリセットしなおせばよいという、何だか少しひっかかる部分の多い作品…

『知りすぎていた男』(1958) セルフ・リメイクをする必要があったのか疑問の残る一本。ネタバレあり

ヒッチコック監督により1934年に製作された『暗殺者の家』の、彼自身によるリメイク作品。この作品は映画愛好者の間では人気の高い作品です。しかし個人的にはあまり好みではありません。その理由はストーリー構成、俳優(特に悪役)、演出、音楽などが…

『折鶴お千』(1935) 溝口健二監督の、サイレント時代に撮られた数少ない、現存する作品のひとつ。

サイレント映画時代の溝口健二監督の傑作のひとつであり、オープニングの大雨の中で駅に佇む二人(山田五十鈴さんと夏川大二郎さん)の男女のフラッシュバック・シーンのみで、彼らの生き様を過去と現在、そしてその後の未来についてサイレントなので当然で…

『素晴らしき日曜日』(1947)黒澤監督が小市民の一日を切り取った、隠れた佳作。ネタバレあり。

黒澤明監督の撮った現代劇の中で、もっとも素敵な作品です。オープニングでの、シューベルトによる『楽興の時』は暗い気分をうきうきさせてくれます。同じシューベルトの作品である、クライマックス・シーンでの『未完成交響曲』ばかりがクローズ・アップさ…

『閉ざされた森』(2003)パルプ・フィクションズの共演したサスペンスもどき。ネタバレあり。

ジョン・マクティアナン監督の作品を見るのは『プレデター』以来でした。それも、そうとは知らずに何気なく見ていて、どうもジャングル映像のテイストが、『プレデター』に似ていると思い、調べてみて初めて気づいた程度のものでした。何一つ情報を持たずに…

『バルカン超特急』(1938) トリュフォー監督が最も愛したヒッチコック監督作品。 ネタバレあり。

ヒッチコック監督のイギリス時代の代表作のひとつであり、列車しかも超特急という「密室」と「速度」による二重の圧迫の中で作品が展開されていく。被害者を救出して犯人を捜すストーリーなので、ミステリーの要素の強い作品です。非常に狭い空間の中で起こ…

『イヴの総て』(1950) アカデミー賞を取ったのも頷ける、名作中の名作。ネタバレあり。

ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の最高傑作であり、映画でなければ表現できない映像が非常に多い、テクストとして見ても素晴らしい作品です。映画の主要要素である脚本、演技、演出、音響、環境に加えてアイコンである女優の人選がとりわけ素晴らしい作…

『鳥』(1963) サスペンスの巨匠として有名なヒッチコック作品の中では異色の作品です。ネタバレあり

ここ3年くらいのことなのですが、田舎だった、わが家の近所も造成が進み、山や林がどんどん伐採され続けています。そのせいか夏秋の夜になると、駅の周りの街路樹に、「鳥」達が大挙して集まり、木々から溢れんばかりの大群が一晩中鳴き続けていました。そ…

『山椒大夫』(1954) 命懸けで正義を貫いた先に待ち受けているものは・・・。ネタバレあり。

溝口健二監督の戦後トーキー期における『雨月物語』と並ぶ代表作であり、単に溝口監督の代表作であるだけでなく、歴代日本映画の代表作でもある。これほど深い作品を現代の監督はいまだに誰一人撮れていない。 ほとんど全ての昭和世代の日本人ならば、知って…

『逃走迷路』(1942)『フランケンシュタイン』のパロディーも出てくるヒッチ先生の活劇。ネタバレあり

ヒッチ先生の『北北西に進路を取れ』に次ぐ、活劇の代表作です。まだヒッチコック監督作品を見られていないビギナーの方には『鳥』、『疑惑の影』、『サイコ』、『裏窓』、『海外特派員』、『北北西に進路を取れ』などと共に必ず見て欲しい作品です。 無実の…

『狂った果実』(1956)ヌーヴェル・ヴァーグにも影響を与えたとされる石原裕次郎の初主演作品。

中平康監督による、原作が石原慎太郎現都知事、主演が故・石原裕次郎という今考えるととても豪華な、彼の記念すべき初主演作品です。この作品は前回の『太陽の季節』と同じく、湘南の雰囲気を上手く捉えた良作に仕上がっています。波の音や風の音、海の香り…

『シモーヌ』(2002) CGは映画を救う?会社を救う?それとも監督を救う? ネタバレあり。

ワールド・カップで大騒ぎしていた2002年に製作された、アンドリュー・ニコル監督の作品。序盤は、現代版『8 1/2』的な内容を思わせる、とても美しい映像世界だったため期待して見ていましたが、徐々にやはりこれは古典的なハリウッド作品なのだと解り、若干…

『裏窓』(1954)犯罪である覗きも、ハリウッド・スターがやると変態行為にすら見えない。ネタバレあり

ヒッチコック監督がついに最高の女優を手に入れました。彼女の名前は後のモナコ公国王妃となるグレース・ケリー。歴代ハリウッド女優の中でも、最大級のアイコンを使って撮った作品である。ヒッチ先生が最も好むブロンド美人で、理知的かつエレガントであり…

『海外特派員』(1940)ナチスドイツの宣伝相ゲッペルスがたいそう気に入っていた作品。ネタバレあり。

1940年製作の正統派ヒッチ作品。あまりヒッチ先生らしくない(レベルは凄く高いのですが)『レベッカ』の次に製作された今作品には、ヒッチ先生のアイデアが溢れかえっています。『レベッカ』で抑え付けられていた才能が一気に噴出してきた観があります…

『北北西に進路を取れ』(1958) 何度も見たくなるヒッチ・ワールドの集大成となる作品。ネタバレあり

1958年製作の『北北西に進路を取れ』は、映画学校の教科書にも出てくるほどの名作であり、この作品はヒッチ映画の完成形です。時間を忘れて、見入ってしまいます。見た後でも、目と記憶に焼きついている色々なシーンが数多く、展開もヒッチ作品を何本も見た…

『ペギー・スーの結婚』(1986) コッポラ監督が撮っていた、結構良いコメディー映画。ネタバレあり。

フランシス・フォード・コッポラ監督というと『ゴッド・ファーザー』シリーズや『地獄の黙示録』などの大作のイメージが強すぎるためか、案外とっつきにくく思っている方もいるかもしれません。そしてそのために一本も見ていない方もいるかもしれません。 実…

『プリンス・オブ・シティー』(1981) 社会派シドニー・ルメット監督の佳作。ネタバレあり。

『プリンス・オブ・シティー』は1981年製作のアメリカ作品。シドニー・ルメット監督の作品には、何故か縁があり、これまでにも『狼たちの午後』・『十二人の怒れる男』・『評決』・『オリエント急行殺人事件』・『セルピコ』などの代表作を、彼が撮った…

『水の中のナイフ』(1962) 鬼才ロマン・ポランスキー監督のポーランド時代の傑作。ネタバレあり。

ポーランド時代の1962年製作のロマン・ポランスキー監督、初期の傑作として評価の高い作品です。倦怠期に入った休暇中の大使夫妻と偶然出会ったヒッチハイカーの三人のみで、一本の長編映画を作ってしまった、というたいそうシンプルな作品でもあります。 倦…

『虎の尾を踏む男達』(1945)終戦間際に出来たのに、役人の嫌がらせで1952年に公開された作品。

またもミュージカルの要素を持つ、1945年製作の黒澤明監督の4作目です。歌舞伎の『勧進帳』と能の『安宅』からの翻案物となるこの作品には、榎本健一(エノケンさん)の魅力が画面いっぱいに拡がっていて、シリアスな局面で緊張している義経一行との対比が…

『クジョー』(1983) スティーブン・キング原作の映画化ですけど・・・。ネタバレあり。

1983年製作のアメリカ映画であり、監督はルイス・ティーグ。原作がスティーブン・キングなので、小説自体はかなりの恐ろしさを誇りますが、それが映像となるとこうなるのです。はっきり言って酷いです。ストーリー構成としては、夫婦の不倫とその葛藤、…

『オールド・ボーイ』(2003)タランティーノ監督が絶賛した、というだけで内容も想定内の映画?

パク・チャヌク監督作品。ネタバレあり。『猟奇的な彼女』以来久々に観た韓国映画がこの作品です。この作品で描かれているものの中で、見逃してはならないのは表面上の暴力よりも、より深刻な近親相姦のほうです。暴力なしで、作品を近親相姦だけで構成して…

『ア・ハード・デイズ・ナイト』(1964) イギリスがアメリカを音楽で占領した日。

リチャード・レスター監督により1964年に製作された、「じゃーーーーーーん!」というギター音が印象的な、言わずと知れたビートルズの主演映画の第一作目。だがこの作品はそんじょそこらのアイドル映画とはわけが違うスケールの大きさと魅力に満ち溢れ…