良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『知りすぎていた男』(1958) セルフ・リメイクをする必要があったのか疑問の残る一本。ネタバレあり

 ヒッチコック監督により1934年に製作された『暗殺者の家』の、彼自身によるリメイク作品。この作品は映画愛好者の間では人気の高い作品です。しかし個人的にはあまり好みではありません。その理由はストーリー構成、俳優(特に悪役)、演出、音楽などが、ほぼ『暗殺者の家』と同じで、創意工夫のあとが見られないためです。

 

 円熟の味はさすがにカットの作り方に見てとれますが、爽快な躍動感があった『暗殺者の家』での構成や稀代の悪役、ピーター・ローレの印象があまりにも強いので、どうしても納得できない部分の多い作品でもあります。

 

 ストーリー展開は旧作とほとんど同じになっていますが、ジェームス・スチュアートに協力するのがドリス・デイだけになっています。前回では、いろいろと助けてくれていた彼の親友たちは、今回全く活躍することもなく、ただ彼らのホテルの一室で何も知らずに酒を飲んで寝ているだけに成り下がってしまっています。

 

 助けるのが少ないほうが、見る側には解りやすいから割愛されたのだとは思いますが、二人だけで解決していくというのは少々無理があります。同じ作家が同じ脚本を使ってまた撮らなければいけない理由が見つかりません。

 

 ジェームスはヒッチ作品には欠かせない俳優ですし、ドリスも思ったよりは良い演技を見せてくれていますが、悪役がピーター・ローレの足元にも及ばないので作品にしまりがないのが残念です。善玉と悪玉が見事に対比してこそ、はじめて作品は締まるのではないでしょうか。

 

 何はともあれ何度も出てくるシンバルがあまりにもくどくどしく、うっとうしさすら感じます。何故ヒッチ先生がこれを撮り直す必要があったのかが全く理解できません。特に前と違った点は見つけ出すことが出来ませんし、せいぜいモノクロがカラーに変わったことと音響が良くなったことくらいです。

 

 また母親の武器が前回は「射撃」で、今回が「歌声」というのはナンセンスです。ハリウッドのスタジオとの契約に縛られて撮らざるを得ず、しかも撮りたくもないので脚本を書きもせずにとりあえず「スターのドリスでも出しとけばいいのだろう!」という安易さを感じてしまいます。

 

 ヒッチ先生本人及びトリュフォー監督はこちらを評価しているのですが、僕個人は旧作のほうが味わい深いと信じます。 殺しの場面の音楽は前と同じで、しかも同じシンバルというのは、あまりにも単純すぎて作者の手抜きを感じます。

 

 またドリスの歌は確かにとても上手いのですが、ここで歌わなければいけない必要性を感じません。オープニングが前作の「絵葉書」のスイスから「特撮」のモロッコに変わっただけですが、このシーンのみが前回よりはお金がかかっているかなと思わせる程度になっています。

 

 この作品は、やはり彼自身の前回の『暗殺者の家』との比較になりますが勝っているのはモロッコシーンのみでこれも「絵葉書」に比べればという程度のものです。たとえ有名な監督を使い、実績のある作品のリメイクであり、当時より優秀な俳優や技術を用いても、新鮮味がないと、全くつまらない作品を生み出してしまうことが良くわかる作品です。

総合評価 41点(『暗殺者の家』を記憶から消し去ると65点)

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