『ラン・ローラ・ラン』(1998)映画がゲーム感覚で見る物になってしまった先駆けの一本。ネタバレあり
ドイツの新鋭トム・ティクヴァ監督が、3パターン・エンディングを80分の中で見せるという荒業をやってしまった作品です。まるでシュミレーション・ゲームをやっていて、だめならすぐにリセットしなおせばよいという、何だか少しひっかかる部分の多い作品でした。これは劇場で観せるタイプの作品ではなく、レンタルで十分なものです。
単純明快なストーリーをパラレル・ワールドで進めていくというSFではありきたりとも言えるものです。ただ映画というのは解りやすさも大切であると考えますので、その点では評価をします。
演技面ではゴツイ、ドイツ女のフランカ・ポテンテがよい味を出しています。ただひたすら走り続ける彼女はとても美しい。ドイツ女性は腋毛を剃らなかったはずですが、最近では剃るようになったようです。
むかしむかし、80年代テクノ全盛のころ『NENA』という女性ボーカルを前面に押し出したグループがあって、ヴォーカルを務めていたネーナが結構可愛かったため大変な人気でしたが、来日した時のライブで手を上げて拳を突き上げたとき、剛毛が脇から飛び出してきて、会場の熱が一気に冷めたのを覚えています。
フランカの彼氏役が弱く(演技面でも人としても)、その他の役の人たちもあまり上手く機能していない様に見受けられます。途中にアニメを挿入して、ヒッチコックの階段シーンをパロディしているところは笑えました。走っているシーンも、カメラがべったりとフランカに付きっぱなしになっているのではありませんでした。
俯瞰からの撮影も含めて、離れて見たりしているのはローラを突き放す視点と、ローラに感情移入する視点が出ていて興味深いものでした。ほぼ全編でドイツテクノが鳴り響いているため、うるさがる方もおられるかとは思いますが、個人的には大丈夫でした。YMO世代のためか、この系統の音には親近感がむしろ湧いてきました。
ドイツで撮られているためか、カチカチとした硬質感を街並みやデザインに感じました。ヨーロッパ作品を見ていていつも思うのは、何故こんなに街並みに重厚感があるのだろうということです。歴史があるからということだけでなく、何か深みを風景の中に見ることが出来ます。最新のテクノを使った作品に、歴史を感じるということがとても楽しかったのです。
サンプルとしては、それまでの長編映画よりも、むしろ短編やビデオアートとの比較になってきますが、映画として評価すればそれまでにはなかったタイプであることに疑いの余地はないので満点をあげても良いと思います。
最後に総合的な印象としてはゲームとしての娯楽性、短編集としてのテンポの良さと芸術性、そしてあっという間に過ぎる時間を考えると高得点をあげても良いのですが、展開が読めてしまうのはアート・フィルムとしてはどうなのだろうかという点で減点となりました。
これがもし仮に三度目のエンディングの後に「ストップ」がかかりローラのクロース・アップの後に再び彼女が走り出していくところでエンディングを迎えていればどうなったことでしょう。
前三つのエンディングが原因で「ゲーム的」になってしまっていたフィルムの意味が全く変わって、時間軸が元に戻ることにより、ほんの一瞬のうちに彼女が思ったことが三つあった、ということになり、これからまた違う別の展開と結末になるのか、それとも三つのうちのどれかになるのかという部分を想像できるので、より奥深い作品として後世に伝えることが出来たのにと思うと、とても残念です。
全体評価 67点
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