良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ドクター・モローの島』(1977)子どもの頃に見て、エンディングがメチャクチャ怖いと思った映画!

 『ドクター・モローの島』は小学生から中学生のころに何度も放送があり、そのたびにテレビを見ていました。僕らが見たのはヒロインのバーバラ・カレラが遺伝子操作の薬品が切れて、牙の生えた野獣に戻っていき、ドクター・モローのバート・ランカスターによって獣人にされかけていたマイケル・ヨークが人間として文明世界に戻っていくという皮肉なバッド・エンディング・ヴァージョンでした。  このエンディングの印象が非常に強い作品だったので、数年前にCSで放送されたときに“来るぞ!来るぞ!”と身構えていたところ、何も起こらずにハッピーエンドのように終わってしまって、イスからずり落ちそうになりました。
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 この映画にはじつは別パターンのエンディングがあり、放送されたのはアメリカ公開版で、アメリカ版では最後のボートでの変身シーンがなくて、そのまま漂流していくという終わり方なのでした。  このときの脱力感が尾を引いて、結局今日まで四年間以上書けないままでした。ちょっと前にゾディアック事件に興味を持ち、何枚かのDVDを見ていたうちに『猟奇島』のDVDを購入しました。
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 それがきっかけとなり、島つながりで『獣人島』が頭に浮かび、「そういえば『ドクター・モローの島』って、この『獣人島』のリメイクだったなあ…」と、ふとこの作品も気になっていき、Amazonヤフオクで探してみたところ、DVDまでがまさかのハッピーエンド・ヴァージョンのみで、バッド・エンディングのほうは収録されていないことを知りました。  この作品に関してはバッド・エンディングのヴァージョンでないと印象には残りにくい。獣人への変化があるからこそショッキングだったわけで、ここをカットしてしまうと作品のレベルがダウンしてしまいます。
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 はじめてモロー博士の作り出した獣人たちを見たときは非常に怖かったのを覚えています。まあ、昨日の晩に久しぶりに見ていると、特撮の粗さが目につき、ゲンナリしてしまいますが、アイデア一発の映画ですので良しとしましょう。言いたいことは人間が神になろうとすることの傲慢さとその報いがどうなるのかという警告にも見える。  DNA操作による新種開発は今でこそ政治的で倫理的にはとてもデリケートな問題を含むが、当時は普通にSF題材のひとつとして機能していました。原作はH・G・ウェルズなのですが、この人って、いったいどんなセンスを持っていたのでしょうか。
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 遺伝子操作を伴う食糧問題も含めて、数十年先、100年先に大きな問題になることをなぜ大昔に予見しえたのでしょうか。預言を寓話のような味付けをして、斬新な題材を分かりやすく小説化する想像力はどこか人智を超えている。  それにしても、人間を野獣にしたり、野獣を人間に進化させて新たな生命体を造り出す生体実験という発想はいつからSFの空想上の設定だったのが現実に起こり得る脅威に変わったのだろうか。
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 生命を造り出すことが許されるのは神のみであるという考え方が支配的だったであろうウェルズの時代にあっては彼の小説は保守的な地域や教会関係者にとってはどれもスキャンダラスだったことでしょう。  SFの定番登場人物となるマッド・サイエンティストが主役のこの映画も“典型的”な作品であり、そもそも『獣人島』のリメイクでもあるのでオリジナリティに溢れているわけではない。
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 しかしながら長い間に渡り、惹きつけられる魅力はどこにあるのだろうか。『猿の惑星』『2001年宇宙の旅』を見た後ではこの作品の特殊メイクは陳腐で安っぽく、子供騙しに思えます。  ただぼくがこれをはじめて見たのは小学生の低学年の頃でしたので、見事に子供騙しに引っかかったのでしょう。ヒロインが凶暴化して主人公に襲いかかるであろうクライマックスはハッピーエンドに慣れたぼくには鮮烈な思い出を残し、幅広い表現方法への免疫の役割を果たしてくれました。
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 小さい頃に打った予防接種みたいなものだったのかもしれません。子どものときの注射って、かなり痛かったが、実際に同じ注射を大人になってから打っても、そんなに痛みもない。  最近の映画を見て思うのはトラウマになりそうな作品に出会えないなあということです。画一的というか、後々のDVD化も含めて作品を製作しているような腰が引けたものが多い。もしくは過激という名のスプラッターや過激映像で売り込もうとする俗悪な見せ物映画ばかりで、しかもCGを使いまくるためにリアルさがまるでない。リアルさだけではなく、血が通っていない作品をレンタルでよく見るのもなんだか寂しい。  この作品は名作と言うわけでもないのに何度もリメイクされるのはなぜだろう。90年代にもマーロン・ブランドがモロー博士を演じた『DNA』が公開され、ぼくは見に行ってきました。
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 白塗りのマイケル・ジャクソンもどきのようなマーロン・ブランドはかなり気味が悪く、ぶよぶよしていておぞましかったのが印象に残っています。特撮技術が向上していたので見応えはありましたが、マーロン・ブランドのモロー博士が殺されて以降はまったく覚えていません。  1977年度版に出てくる獣人はどうしても素晴らしかった『猿の惑星』の特殊メイクと比べてしまうので、トラウマのようにどこか心に引っかかってしまう。それでもぼくにとっては思い出に残る作品の一本であることに変わりはない。 総合評価 70点
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