良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『裸のジャングル』(1966)原住民よりもサバンナを早く走りきれば勝ち!さもないと死!超シンプル!

 思えば遠くへ来たもんだで、かれこれ30年以上も前になりますが、ぼくが神奈川県に住んでいた小中学生時代に、午前10時過ぎや昼下がりの午後、そして深夜となぜか一日中、映画やアニメの再放送ばかりを放送していたテレビ局がありました。  38度くらいの熱があると言い張り、まんまとズル休みをして、親が仕事に出た後のなんとも言えない開放感でいっぱいの午前中、のん気に見るのに最適な番組がこの局の映画番組でした。  その局の名前は東京12チャンネルで、現在のテレビ東京の前身です。このチャンネルで放送された作品群はかなりユニークで、他局が放送していたメジャー作品や話題作は皆無で、聞いたことのないタイトルばかりをいつも流していました。
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 そのため現在、あの映画をもう1回見たいなあと思っても、タイトルも分からないし、仮に分かっても商品化されていないのがほとんどです。ググろうと思い、キーワードをいくつか入力してみてもヒットしないものも多いのが現状です。  とにかくこの局で放送される作品はアクが強いというか、一般向けではないというか、トビー・フーパーの『悪魔の沼』や半分ポルノのような『白昼の暴行魔』など、今でいうカルト作品をしょっちゅう見ていたのを覚えています。『マンディンゴ』や『思春の森』もここで見たのかなあ。かなりうろ覚えではありますが、マニアック映画が好きなぼくの原点はこの局の映画放送だったように思います。  東京のテレビ局のくせに、あんまりお金がなかったので、俗悪だったり、チープだったりするような、そういうB級作品しか買えなかったのでしょうが、普通のテレビ放送では見たことのない、かなりインパクトのあるアイデア一発の娯楽作品が多かったように思います。
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 そのなかの一本がコーネル・ワイルド監督の『裸のジャングル』でした。血しぶきが飛び散る切断シーンなどのような、ややもするとキワモノ的な見せ物映画になってしまいそうですが、ギリギリのところでとても見応えのある作品として踏みとどまっています。  アフリカの大自然を舞台にして、つまりロケーションを実際に行っていて、一部の白人の登場人物以外はすべてがアフリカの現地人をキャスティングしているのでかなりリアルな作品に仕上がっています。  もちろんB級作品なので、野生動物同士が戦う様子を収めた記録映像を切り貼りして、本編シーンに差し挟んで体裁を保っていますが、奇跡的に編集が上手くいっているので、流れるように見ていられます。
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 物語の舞台となっている19世紀のアフリカは傲慢で身勝手な白人たちの手によって原住民や自然環境が蹂躙されている状況で、未開発のアフリカ人たちを奴隷にするための人身売買や密猟という概念すらならない、好き勝手なハンティングが行われていました。  この映画でもオープニングの場面で数名の白人ハンターたちが野生の象の群れを一度に25頭も撃ち殺しますが、そのうちのひとりのバカな白人のオッサンは象牙のないメスの象までを面白半分に銃撃する。  原住民の土地所有者に狩猟のルールを守るように注意されても、白人らしい傲慢さで好き勝手に行動し、注意する黒人の言うことを無視して、無慈悲でルール無用の殺戮を続ける。
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 これに怒った部族により、ハンター一行は襲撃され、支配する側とされる側の立場が逆転し、自分たちが狩られる側になる。白人に協力していた現地の黒人スタッフはすぐさま鉄棒で撲殺されたり、首を刈られる。  原題『THE NAKED PREY』は肉食獣の餌になる動物たちのことで、ネイキッドとつく通り、原住民の殺人ゲームの余興のために白人のたくましい男、つまり監督・脚本・主演のコーネル・ワイルドが素っ裸にされた上で、まるでかくれんぼや鬼ごっこをするような感覚で人間狩りの生け贄とされる。  最近では人間狩りの映画というと『アポカリプト』を思い出す方も多いでしょう。評論家の町山智浩氏は著書でこの映画との類似点を指摘しています。たしかに見ているとオリジナルのアイデアはほぼこちらであることがはっきりと分かります。
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 現在というかビデオ時代も含め、この映画は日本語版は製作されておらず、海外版のビデオかDVDを見るしかない。さいわい今年の年末にWOWOWで放送されるようなので、興味のある方は契約してください。  今回見たのは友人に借りた海外版ビデオでしたので、当然ながら字幕はありませんでした。ただ白人同士の会話は最初の10分間程度で割りと簡単に理解できる会話が多い。  ほとんどは原住民を差別し、象を面白半分に虐殺している場面の後味の悪いものです。しかもコーネル以外の白人たちは自分たちが象に対してそうしたように、全員すぐに面白半分に慰みものの余興として残忍に処刑されてからはまったく会話はなくなる。
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 殺人の余興(刑罰)は酋長の気まぐれで決まる。彼の思いつきにより、ある者は鳥の格好をさせられて、数十人に取り囲まれて、数十ヶ所を槍で突きさされて殺される。象を面白半分で殺しまくったオッサンはうつぶせの状態で動けなくされた上で、毒蛇であるキングコブラに噛み殺される。  またある者は鍋にかける為の通し木に手足を縛られたのち、呼吸が出来るように鼻の部分に空気穴を開けてから、体中を粘土で固められ、ろくろを回すように、まるでタンドリー・チキンを作るように生きたまま焼き殺される。  書いていると残酷なのですが、見ていると悪ふざけにしか見えないような殺害方法のオンパレードなのです。面白半分に象を殺した報いは自分たちも面白半分に処刑されるという因果応報でした。
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 唯一残ったのはコーネルのみになります。身体のあちこちを触られまくりますが、これには理由があります。彼は身体が大きくて逞しいので、さらに残酷な余興に出されるために栄養を取らされる。人間狩りの生贄です。  あとはひたすら原住民の言葉のみとなり、しかもまったく字幕も出ません。主人公のコーネル・ワイルドはしゃべり相手もあらず、無言で戦い抜くしかないので、台詞はおろか、独白すらない。  さらに言うとこの映画には登場人物に役名がない。しかしコーネルの心情も原住民たちが何をしゃべっているかも映像を見れば、ほぼ理解できます。
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 つまりこの作品は言語を超えて、しっかりと映画になっているのです。追いかけている11人の刺客は最初の接近遭遇の段階で白人ガイドのコーネルの力量を見誤り、彼に野生へ順応するための時間を与えてしまう。また一人ずつ掛かっていくために各個撃破されてしまい、刺客各々が持っていた武器や食料を次々に奪われていく。  RPGゲームで、色々なツールを身に付けて、どんどんパワー・アップするような感じで、ある者からは槍と短剣を奪い、ある者からは弓矢や水筒を奪っていく。  もともとハンターだった彼が本能的行動が取れるように覚醒するまでに多くの時間は必要がなく、二日目以降はだんだん互角に渡り合っていく。火矢を使い、山火事を起こし、刺客たちをパニックに陥れるまで覚醒していくさまは爽快ですらある。  少ない人数の側が生き残るためには止まらずに走りつづけることと戦うときには各個撃破で対応することの二つが絶対条件になります。宮本武蔵が吉岡一門と戦ったときと同じ戦法で、奇襲や待ち伏せを効果的に使い、一ヶ所に留まらないというやり方です。
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 これをやりきる身体能力がベースにあるから生き延びることが可能でした。ルールはとてもシンプルで自分が彼らよりもタフで、順応する能力があり、走り切る強さがあればいい。  見る側にとってはたとえ言葉が分からなくとも、すぐにこの人間狩りゲームのシンプルなルールが理解できる。つまりこの作品は全世界で公開しても一定の評価を得る可能性がある。映像はとても綺麗で、美しく厳しいサバンナの日常、つまり弱肉強食という掟が繰り返し提示される。  動物たちはカラフルで美しいのですが、行われていることは無慈悲で生存競争は過酷です。それでも人間と違うのは彼らは生きるために殺生をするのであって、お遊びで命を奪わない。これが人間との最大の違いなのかもしれません。弱肉強食は確かに過酷だが、必要最小限の犠牲を求めるルールなので潔くも見える。
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 チーターがマントヒヒを襲い、肉食大蛙が小さな同類にかぶりつく。大蛇がコモド・オオトカゲに絡み付き、コブラやガラガラヘビが人間を付け狙う。ライオンは水牛やヌーをねじ伏せ、貪り喰らう。厳しい野生の掟が美しい自然のもとに行われていく。  人間も動物と同じように動いていき、弱い者は狩られていく。動物との違いは人間は本来であれば同種間で殺しあう必要はないことです。ある意味、とても哲学的ですらある。  11人いた刺客はコーネルに返り討ちに合って死んだ者、原住民通しの仲違いで命を落とす者、体力勝負で負けた者、コブラに毒を浴びた者を合わせると7人がたった三日で犠牲となります。あとでもう一人が射撃の的となり、死亡する。
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 そして三日目の昼に平和に暮らしていた別の原住民の集落に奴隷商人の悪党が襲いかかり、壊滅させるさまに怒ったコーネルは無関係であるはずの騒ぎに自ら飛び込んでいき、原住民の少女を救う。  このさまを見ていた刺客たちは徐々に彼への態度が変わってくる。ただの人間狩りゲームの生け贄から偉大なる好敵手になる。命を救われた少女はコーネルに恩返しとして、追われている彼を救い、食べ物を与え、つかの間の休息を得る。  少女と別れた四日目のお昼過ぎにようやく白人居住区の近くまでたどり着いてホッと一息ついたときに刺客たちから最後の襲撃を受ける。サスペンスのセンスにもかなり優れた演出です。観客の期待に反して、なかなかコーネルには平和なときはやってこない。
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 もはやこれまでというときに援軍がやってきて、コーネルは助かる。彼は残った三人の刺客に笑顔で手を振ると、それに応えて、刺客のリーダーも手を振り返す。  命のやりとりを繰り返すうちにお互いの力量を理解して認め合い、ある種の尊敬の域にまで達しているのです。命がけのコミュニケーションです。やってきたことは無茶苦茶なのですが、不思議に納得している自分がいます。  ただの見せ物アクション映画ではない。心を揺り動かす何かがこの映画にはあります。昔はB級作品にもこういう見応えあるものが多く、楽しませてくれました。見るべき一本です。
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総合評価 90点
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