『ランボー』(1982)スタローンをロッキーとともに支えたランボー・シリーズの第一作目。
シルべスター・スタローンをはじめてテレビで見たのは30年近く前の『ロッキー』でした。そのときの印象は街のごろつきのような風貌で、ぶっきらぼうでゴニョゴニョ言ってて、何を言っているのか分かりづらい彼でした。このしゃべり方が逆にリアルで、庶民的でもありました。
素人っぽさというか、ハリウッドの華やかさとは縁遠い風貌の彼は『ロッキー』のリングでスポットライトを全身に浴びて、一気にスターとなっていきました。この映画が意味したのはアメリカン・ニュー・シネマの終焉であり、時に安易なアメリカン・ドリーム復活の瞬間でもありました。
それは彼のせいではありませんが、スタローンは手に入れたチャンスを逃さずに続けて『ロッキー2』を公開し、またまた大ヒットさせて、自身の地位の基礎を固めていきました。
ぼくがスタローン作品ではじめて劇場に観に行ったのは残念ながらロッキー・シリーズではなく、この『ランボー』でした。『ロッキー3』の公開は1982年の夏で、主題歌『アイ・オブ・ザ・タイガー』を歌っていたサヴァイヴァーのシングル盤はなんとか買いましたが、お小遣いでやりくりする中学生のぼくはこのシリーズよりも超話題作だった『ET』を選びました。
『ランボー』は同じ年の暮れのクリスマス・お正月映画の目玉のひとつだったのを覚えています。オリジナル・タイトルは『FIRST BLOOD』で意味としてはどちらが先に仕掛けたかいうことのようです。先に手を出した方が悪くなるというのは刑法の常識ですが、仕返しもやりすぎると過剰防衛となってしまいます。
空手やボクサーなどの有資格者は素人相手の場合、たとえ向こうが悪くともやり返した場合は過剰防衛と取られてしまいます。この映画の場合もたとえ相手が先に嫌がらせをしてきたとしても、自身がグリーン・ベレー出身者でしかも戦場の英雄だとすれば、話は複雑になっていく。
ベトナム戦争帰りの特殊部隊グリーン・ベレーの優秀な隊員、つまり人殺しのプロフェッショナルだったランボーは祖国のために戦ったはずなのに帰国すると非難され、職にもつけず、戦死した戦友の遺品を彼の家族に返す旅に出ている。
そんな彼に田舎の住民は冷淡で、警察も嫌がらせばかりする。ついに我慢の限界を超えた彼はひとりで州兵や警官隊と渡り合い、彼らに大打撃を与える。
この復讐劇はベトナムに従軍して、傷ついて帰還した兵士たちの心情と不満を具体化した映画であり、派手な戦闘シーンはもちろん見所ではあるが、ただのアクション映画の範疇を超えて、生命を吹き込まれている作品です。
トラウトマン大佐(リチャード・クレンナ)との会話はとくに興味深く、軍に残れずに普通の市民生活に返らざるを得ないのに、ベトナムの人殺しとして後ろ指をさされ、まともな職につけなかった世代には一定の共感を呼んだのではないか。
この映画が大ヒットしたのはそういった彼らベトナム世代の心情を上手く利用していたのとサバイバル・シーンや密林でのランボーの戦術の巧みさと表現のリアルさにあったと思う。崖から飛び降り、大木を伝って、国家権力と戦い、生き延びていく捨て身のシーンを予告編に使用していたCMは思い出に残っています。
残念なことに実際にベトナム戦争に従軍して、心身ともにボロボロになって帰還してきた兵士たちの間ではこの映画の評判は芳しくなかったそうです。それでもグリーン・ベレーで格闘教官をしていた柘植久慶氏は第一作目には好意的でした。
ただし第二作目に関してはしょせんフィクションであり、基地の位置や防御体制について、著書で色々と苦言を述べられていました。沼地の中に基地があるのは守りにくいし、武器保管や衛生面を考えても湿地はおかしいという趣旨だったと記憶しております。
実際に『ランボー2』『ランボー3 怒りのアフガン』を見た人ならば同意してくれる方が多いでしょうが、第二作目と第三作目はランボーの哀愁が薄れ、派手なアクション映画になってしまっていて、ランボーも天才的な殺人センスが強調されすぎている。
しかしこの第一作目のランボーはどこにも居場所がない傷だらけの帰還兵であり、ロッキーが賞賛を浴びたリングでの闘いではなく、世界中の人々が非難した密林での殺戮が勲章となった。ランボーは市民生活には戻れなくなっていて、阻害されているが、いざ、追われて森でのサバイバルになると活き活きとキャラクターが立ってくる。
サバイバルでの動物的な動きの敏捷さとのんびりした市民生活に同化できないイライラした姿のギャップの描き方は秀逸で、独白シーンのシリアスさと派手なアクションのバランスが素晴らしい。
数多くのベトナム帰り兵士を題材にしたアクション映画がありますが、そのほとんどはすでに忘れられようとしている。そのなかでもこのランボー・シリーズ、なかでもこの一作目の『FIRST BLOOD』、そして『ランボー2 怒りの脱出』は今見ても色褪せていません。
ちなみにタイトルはオリジナルの『FIRST BLOOD』よりも邦題の『ランボー』の方が好評だったため、二作目からはこちらがメインになりました。それでも下のほうには『FIRST BLOOD 2』と入っています。
帰還後に再び森に立てこもった彼はそこでは無敵で、多くの州兵や警官隊を傷つけ、結局は再びトラウトマン大佐に引き取られていく。
その目は虚ろでストップ・モーションがかかり、センチメンタルなエンディング・テーマが鳴り響く。最近この映画をDVDで見ましたが、アクション映画というより、閉鎖的かつ排他的な田舎町のいざこざに巻き込まれただけにも見える。
ただ一方的に地元警察が悪いとも思えない。彼らは彼らなりの論理で愛する町にトラブルを起こしそうなベトナム帰りの兵士を追っ払おうとしただけなのです。その警察の若手に『CSI:MIAMI』のホレーショ刑事役でブレイクしたデヴィッド・カルーソーの姿を発見した時は思わずニヤニヤしました。
保安官(ブライアン・デネヒー)も『コクーン』に出ていたような気がします。その後はロッキー・シリーズ同様に続編が作られ、結局4本のランボー映画が残されています。『ランボー2』も劇場まで観に行きましたが、さすがに三作目は行きませんでした。個人的には何故か『ナイト・ホークス』が印象深い。付け加えるならば『フィスト』もなぜか覚えています。上手くはないが、印象に残るアクション俳優という位置付けでしょうか。
たぶんぼくら世代の映画ファンは、今となってはみんな彼のファンだったと公言するのは多少の勇気がいるでしょうが、10代半ばで映画好きになっていくきっかけになったのは『ロッキー』『ランボー』であり、シュワルツェネッガーの『ターミネーター』であり、ブルース・ウィリスの『ダイ・ハード』だと分かっている方は多いでしょう。
総合評価 85点