『イット・ケイム・フロム・アウター・スペース』(1953)SF映画の古典だが、日本ではなぜか冷遇…。
『IT CAME FROM OUTER SPACE』は海外では有名なのに現在まで、わが国では未だに商品化されていない幻のSF映画です。邦題は『それは外宇宙から来た』という直球な付け方です。あまり知られてはいませんが、スティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』の元ネタでもありますので、SFファンとしては要チェックの作品です。
公開から50年近く経ってから、過去に一度、たしかWOWOWで放送されたのを覚えていますが、録画に失敗してしまい、それ以降はCSやBSをチェックしているもののずっと放送されない状況が続いていました。
海外動画サイトで断片的に作品に触れたことはありましたが、全体を通して見たことはありませんでした。そんなときにAmazonで“IT CAME”と単語を入れて、DVDで検索をかけたところ、アメリカ盤ではありますが、何点かヒットしました。
ジャック・アーノルド監督作品なので、たぶんユニバーサル映画でしょう。リージョン1という規格は北米のDVDコードなので問題が生じます。つまり日本のDVDプレイヤー規格はリージョン2なので、このDVDは再生できません。
ただしPCでダウンロードできる一部のプレイヤー・ソフトであれば、問題なく再生出来るので、海外動画サイトにも強いGOMプレイヤーを選択しました。
DVDの利点はビデオと違って、英語字幕が選べることです。ヒアリングに自信のある方ならば、そのままでも大丈夫でしょうが、ぼくは読む方が楽ですので、字幕を選択しました。
前にハワード・ホークスの『ピラミッド』の北米版を買ったときにはなぜか普通に日本製プレイヤーでも再生出来ましたが、今回の『IT CAME FROM OUTER SPACE』はダメでした。どういう仕組みで再生できたり、できなかったりするのがよく分かりません。
モノクロ作品なので怪しい雰囲気はカラーよりも倍増しています。姿を隠しながら人間世界に侵入していき、街の住民たちが姿形はいつもどおりなのに別人のようになってしまうという共産主義の台頭に怯えていた頃の恐怖を切り取っています。
画面も影を上手く使い、エイリアンの姿を極力見せないで、人間を観察する彼ら目線のカメラワークを主に使っています。派手なシーンは冒頭の宇宙船が砂漠地帯の岩山に不時着するところと警官隊に攻撃を受ける前に鉱山から急発進して逃亡するところの二つのみです。
他は経費節減を第一に雰囲気と影を使った構図の妙、編集の力技で80分間を持たせてしまいます。人間対エイリアンの激しい戦いがあるわけでもなく、淡々と作品は進んでいきます。今回登場するエイリアンは侵略しに来たのではなく、ただ宇宙船が故障してしまい、こそこそと修理をして帰りたかっただけなのです。
異形のエイリアンは『金星人地球を征服す』の金星蟹を思い出す奇抜なデザインで一度見たら忘れられないインパクトを持っています。安価な500円均一のDVDで出たら、また買いたい。
知らない方がほとんどでしょうし、現状では日本語版は発売されておりませんので、動画サイト等で見る人のためにもまずはストーリーから書いていきます。
<あらすじ>
アメリカの砂漠地帯に住む、ジョン(天文学者)とヒロインのエレンはある夜、砂漠の岩山に落ちていった隕石を目撃する。
朝になってから、ジョンとエレンは落下現場である岩山で人工的な宇宙船とエイリアンを目撃するが、直後に山が崩れ落ち、見えなくなってしまう。
地元の警察や地方紙記者たちに宇宙船のことを説明するも、だれもジョンを信じない。夜中のハイウェイでジョンが見たエイリアンと接近遭遇したエレンのみが真実を知っている。
朝に出会ったときは普段どおりにしゃべっていた配線工のジョージとフランクは次にあったときには別人のようになっていた(似ているのは『ボディ・スナッチャー』のような感じ。)。
ジョンは市街地で彼らと再度出会い、このときに彼らは砂漠に墜落したエイリアンである事を聞かされる。エイリアンたちにはそもそも侵略の意図はなく、円盤の修理が終われば速やかに地球から出て行くから騒ぐなという。
エレンもエイリアンに捕まり、ジョンはその言葉に従うしかなかった。保安官は仲間を集めてエイリアンを倒しに行く途中で、エイリアンの一人を殺害する。
彼らが修理をしている洞窟に向かっていったジョンは金星蟹のような彼らと出会う。彼らも地球人を恐れ、野蛮な地球人を避けたかった。エレンたち人質を解放してもらったジョンは、警官たちを妨害するために入り口をダイナマイトで爆破する。
そのあとすぐに地響きが鳴り響き、土に埋まっていた円盤がふたたび浮上を始め、轟音と閃光と共に宇宙へ旅立っていく。人類はまだ異星人と語り合うには早すぎる…。
だいたいこんな感じで、物語が進んでいきます。
B級SF映画の中でも異色の作品ですので、ぜひとも日本語版の発売をお願いしたい。予算が少ないときにどうやって怪しい雰囲気を作り出し、特撮を使わないで、どういうサイエンス・フィクションの世界観を観客に見せるかの模範となる作品です。
粋なSF映画で、『ジェニーの肖像』や『来るべき世界』などとともに好きな作品の一本です。ちなみにこの作品は当時流行していた3D映画だったようです。そのためにオープニングの“隕石”が画面の奥から手前に向かって飛んでくる演出がされているのだろうか。ただし50年近くも経ってしまうと誰もその意図に気づかない。
総合評価 70点