良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『GET BACK』(2021)ようやく円盤が出るようですが、出来れば劇場が良かった。

 数年前、まだ武漢ウイルスが世界中に広まっていないころ、ピーター・ジャクソン監督がこの作品を製作すると聞いたときは期待感が大きく膨らみ、どのようにビートルズの崩壊を描くのかに興味がありましたし、彼らの人間味をどの程度引き出してくれるのかを見る上でのポイントにしていました。

 

 ぼくが『GET BACK』に期待したことの一つは彼が世界的に珍しく、"自分"の意志で上映時間を決められるという特異なスタイルで監督できる映画人であることです。

 

 普通、映画上映するとなれば、劇場の回転率や後のテレビなどでの放映を考えて、15分おきくらいに"切りやすい"ような編集を行ったり、120分以上にはならないように一本にまとめるという作業を強要されます。

 

この時間制限の制約をクリアできる監督はピーター・ジャクソンクエンティン・タランティーノなどごくごく一部でしかありません。なので、ピーター・ジャクソンがこの作品に駆り出されたというのが一番大きな期待ポイントでした。

 

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 しかしながら、武漢ウイルスが世界中に放たれてから、世界は激変し、映画館での上映は早々に無くなり、拝金主義者ディズニーでの配信のみになってしまったと聞いて、絶望しました。ブルー・ミーニーズではなく、中共露西亜の共産枢軸陣営の赤いレッド・ミーニーズに世界は酷い目に遭わされています。

 

 お金をどれだけ儲けるかという行動指針のみしかない彼らがどうやってビートルズの魅力を昔からのファン、新しいファンの両方に満足させることは可能なのだろうか。

 

 ディズニーからの圧力に屈せずにピーター・ジャクソンは思い通りにフィルムの編集が出来るのだろうか。ディズニーだけではなく、残っているメンバー、亡くなったメンバーの家族や権利者に忖度することなく、人間臭さやイヤらしさ、反目や倦怠を描き切ることは出来たのだろうか。その辺が見るポイントになっていました。

 

 ファンからすると、これだけ見て、後はどうでもいいのにウェブサイトのデザインが難解で退会方法がどうせ分かりにくくしているであろうディズニーの配信という名の"チャリンチャリン"の課金ビジネスに半永久的に屈するのは嫌なので、Blu-rayでの販売を待ち望んでいました。

 

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 そろそろ出るだろうと思い、年末くらいから二週間程度、ずっと探していましたが見当たらず、欧米盤が出たと思っても、転売屋のクズどものせいでなかなか手ごろな値段では出ておらず、困っていました。鬱陶しいなあと思いつつ、ダメもとでふと検索してみると通常価格で出ていたので、狂喜しました。

 

 いつ出るのか、まだ出ないのかと毎日のようにAmazonで検索していたので、上手い具合にちょうど注文できる状態になっていたのは助かりました。

 

 定価と思われる3980円でポチ買い予約しました。ちょっと前には15000円とかいうふざけた価格が出ていて、相変わらずの悪徳業者にイラつきましたが、そこでは買わずに待っていました。まあ結局、アメリカ盤は来ず、日本盤を再度予約し直した状況です。

 

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  ただ、時節柄、確定申告(毎年2月1日スタートでしたが、今年は2月16日~)や決算業務などただでさえ忙しいのに、あちこちの部署で武漢ウイルスのせいで2週間のピットインを余儀なくされる社員が相次ぎ、無駄に倒れない僕ら残った社員に仕事が押し付けられています。

 

 しかも、三回目のワクチン予約をしようとしても、近場はどこも満員で、いつになったら打てるやら分からない状況です。その後、三月になり、二回目まではどうしようもないくらい遅くなった頃とは違い、3月上旬には三回目接種を済ませました。

 

 ぼくはモデルナ→モデルナ→ファイザーだったので高熱は出ず、倦怠感が数日続いたのみでした。腕の痛みはモデルナ時は肩パンチを三日打ち続けられるくらいの痛みがありましたが、ファイザーは肩パンが二日だけでしかも高校生が小学生に叩かれる程度でしたのが、へっちゃらでした。

 

 この分だとせっかくBlu-rayをゲットしても、見るのは来月以降になりそうです。ここで一番の疑問がありまして、何故、あれだけ出し渋った『レット・イット・ビー』の元ネタである『ゲット・バック』を今更出す気になったのだろうということです。

 

 おそらくアップルに眠っていた映像・音源がとうとう枯渇してきているのだろうか。実際、『エイト・デイズ・ア・ウィーク』のエンドロールで、ファンが持っている映像フッテージをアップルが募集しているというテロップが流れたのは衝撃でした。

 

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 はじめて映画『レット・イット・ビー』をシネ・クラブ主催の上映会で観たのはたしか1984年でした。この時、『レット・イット・ビー』に加え、『ヘルプ!』『ビートルズがやってくる ヤアヤアヤア!』『マジカル・ミステリー・ツアー』も一挙上映するというハチャメチャなスケジュールでした。

 

それでも、友人らとともにマニア道に進みつつあった僕は当時中三で体力が有り余っていたため、疲れ知らずで楽しんできました。

 

 友人たちと書きましたが、特に学生時代はお金もないし、みんなが持っている情報や音源をコピーしたり、ダビングしたり、ラジオのライヴ情報などを共有している方がより知っていることが増え、詳しくなってきます。

 

 その日から40年近くが経ち、毎年毎年残業が続き、気力体力共に消耗し、ヘロヘロになってきた50代には6時間超の長時間のBlu-rayを三枚見続けるのはさすがに無理ですし、そもそも学生とは違い、視聴時間を取るのがとにかく難しい。

 

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 それでも、よくもあの強欲のディズニーが3枚組のBlu-rayを4000円弱の良心価格で出してくれたものです(その後、発売日になっても配達されることも無く、結局はバカ高い日本盤で妥協しました)。

 

 音と映像がずれている粗悪品だったら、どうしよう。家に運ばれてきて、6時間を見終えるまでは安心できない自分がいます。

 

 中学の頃に見て、寂しい思いをしながら帰路についてからもう40年。『レット・イット・ビー』にあった冷たい空気感はこの『GET BACK』ではどのように処理されたのだろうか。そのままなのか、温かい雰囲気が出ているのか。

 

 スタジオ・ライヴの雰囲気を持つ『GET BACK』がどのような事情でフィル・スペクターの自己顕示欲の塊のオーケストラで埋め尽くされたのであろうか。

 

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 まずは音源から振り返りますと、アルバム『ゲット・バック』をアナログではじめて聴いたのは中学時代の友人が住んでいた地域の繁華街の外れにある輸入盤中心の中古レコード屋さんに出ていた海賊盤『モア・ゲット・バック・セッション』のレコードをコピーしてもらったのが最初でした。

 

 自分でもその後、海賊盤に断片的に収められた音源を片っ端から聴いていき、大学になったころについに『ゲット・バック』そのものの海賊盤を大阪で買ってからでも35年以上経っています。

 

 このアルバムにはあるインストゥルメンタル・ナンバーが収録されていて、これには『ロッカー』『インストゥルメンタル42』『リンク・トラック』など色々な名前が付けられていました。

 

 ようやく昨年末の『レット・イット・ビー』のアナログ・ボックスが発売された時に『アイム・レディ』というオフィシャルの本名が与えられました。aka:ロッカーとなっていて、どっちでもいいみたいですwww

 

 内容は海賊盤と同じではありますが、さすがのオフィシャル盤ではノイズがなく、ジャケが綺麗という質的なスペックが上がっています。若いファンからすれば、「音スカスカじゃん!」とか失笑が漏れてきそうですが、僕ら世代からすると、「うるせー」となります。

 

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 オフィシャルで出るだけでもありがたい。『ゲット・バック』の存在を知ったのが中学生の頃でしたので、40年近く経って、たとえ、ボックス・セットを買わせるための悪質な"釣り"、もしくはカツアゲだったとしても、アップルの公式盤として登場しただけでも感慨深い。

 

 悪名高いアンソロジー・シリーズにしても、新しいファンへの売り方を間違えていただけで、さんざん海賊盤で聴いてきたテイクばかりではあるものの、音質が改善されていて、まとめた聴けるだけでも有難い。

 

 個人的にはコンプリート・ビートルズジョージ・マーティンが初期の活動期に名前を出していた『ファット・スワロー』音源を聴いてみたい。

 

 何でも与えられてきた世代とは違い、ヤフオクなどもない時代に自分の足で全国の中古屋に勘を頼りに欲しい一枚を探しに行く旅をしてきたので、オークションやなんなら外国サイトからでもやる気になれば押さえられるという、今のレコード探しはかなり楽に思えます。

 

 そして、ようやく4月後半にはAmazonから国内盤『ゲット・バック』が届くはずです。さあ、だらだら・ぐだぐだ・ミステリー・ツアーになるのか、解散後にイコライザー処理でマスター音源の音がつぶれてしまい、さらにエンジニアの解散への悲しみが音にも出てしまって陰陰滅滅としている日本の旗帯盤『レット・イット・ビー』で受けた肌寒い感じをまた思い出すのか。

 

 それとも、現役時代のまだ解散するなどと思われていない頃に期待のニュー・アルバムとして発売されていた、アメリカ・赤リンゴ・レーベル盤、ブラジル・モノラル盤、英国オリジナルの初期マトのスタンパ―が若い盤、日本の赤盤などに残されているカラッと明るく、楽しさを感じる世界に戻るのか。発売日が待ち遠しい。

 

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 なんだかんだ言っても、バンドの核はリンゴ・スターなのではないでしょうか。解散後もみんな困ったら、彼のlittle helpをアルバムやステージで求めています。またポールが仕切っている印象が強い後期でも、ルーフトップに登場したジョン・レノンがステージ真ん中に仁王立ちするだけでメンバーのテンションが高まり、ピリッと来る凄味が伝わってきます。

 

 

 

『GET BACK ルーフトップ・コンサート』(2022)大画面で見ることに意義がある。

 とうとうこの日がやってきたと言いたいところだが、もともとは先月に期間限定で5日間だけ特別上映されたのが3月3日までアンコール上映されていた『GET BACK ルーフトップ・コンサート』です。

 

 先月上映されているのに気が付いたのはお休みでしたが、すでに上映時間に間に合わない夕方でした。最初の上映期間中、無理矢理に会社を休んで観に行こうと思えば、何とか行けない状況ではありませんでしたが、流石にそんなことをする蛮勇はなく、指を咥えながら、見に行ける人は良いなあと思う程度でした。

 

 見に行った人に聞くと、顔をニヤニヤさせながら、「見たいのは演奏なんで、警官とかインタビューは要らない!」「とりあえず、これを見るのが夢だった!」と嬉しそうに語っていました。ただ、こういう意見を聞いても、観に行けてなかったので、ただただ羨ましい限りでした。

 

 2月にはアメリカ盤Blu-rayが出ると言われていました。しかし予約が出来ていたのに急に発売自体が保留となり、どうなるのかなあと不安だったところに、国内盤Blu-rayが4月に発売されるというお知らせがAmazonに載っていました。

 

 国内盤が出るまで仕方ないかと諦めていましたが、3日前にふといつも観に行く映画館の上映スケジュールを眺めていると、再上映スケジュールがあり、すぐに行ける日を予約しました。

 

 ワクワクしながら画面を見ていると、普段よりやたらと多い予告編と広告にイライラは最高潮に達しました。お金を払ってきているのに広告なんて見たくはありません。

 

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 それでも我慢の子で待ち続けていると、今度こそようやく始まりました。しかしながら、始まったのはビートルズの歴史であり、マニアなら次にメンバーが何を言うかも分かっているインタビューや過去のライブ映像の切れ端を延々と流し出しました。

 

 大画面で見られるという経験以外には無意味な時間が過ぎていき、体感30分くらいが過ぎたような錯覚の後、ようやく本編が始まりました。

 

 まずはアップル屋上にリンゴ、ジョージ、ポール、そしてジョンの4人と奥さんたちや取り巻き連中がダラダラと上がってきて、機材のチェックが始まります。在りし日のマル・エヴァンスがリンゴに頼まれ、ライヴ前のバンドのボーヤ仕事に復帰します。

 

 グリン・ジョンズやマイケル・リンゼイ=ホッグが持ち場について、古びた屋上でソワソワしています。張り切るポールは仕切りながら、どんよりとした寒空の中ではあるものの、久しぶりの演奏機会という場を温めようとしていて、なんだか楽しそうでもあります。

 

 そして、とうとう『ゲット・バック』の演奏がスタートし、ロンドンの曇天に突然爆音が響き渡ります。予め各所でスタンバイしていたカメラと音声スタッフが戸惑いながらも、思わず足を止めて、屋上から鳴り響いてくる彼らの演奏に引き込まれ、アップル周辺に黒山の人だかりを作っていきます。

 

 映像ではないが、音楽用の録音物としてはブートで色々なカメラロールの音源がこれまでに数多く出回っていますので、音源自体には目新しいモノはない。

 

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 嬉しそうにニコニコしている人だけでなく、あからさまに嫌がる人々、騒音?に対して、早速警察に苦情を入れる人の様子が捉えられる。

 

 『ゲット・バック』は2回繰り返され、『ドント・レット・ミー・ダウン』『アイヴ・ガット・ア・フィーリング』『ワン・アフター・909』『ディグ・ア・ポニー』が後に続く。

 

 『ドント・レット・ミー・ダウン』『アイヴ・ガット・ア・フィーリング』『ディグ・ア・ポニー』は2回演奏され、締めは3回目の『ゲット・バック』がもっともタイトな状態に仕上げられます。

 

 さすがはビートルズらしいなあと感じさせる展開で各曲も様々なアイデアとともに繰り返されながら、どんどんまとまりが良くなってきます。

 

 この間ずっと警察との押し問答は続いていて、到着から事務所入り口での時間稼ぎ、とりあえず現場に立ち会わせるまでの「屋上には重量制限があるから、ちょっと待ってくれ!」とかの間抜けな言い訳が笑わせてくれます。

 

 もう抑えきれないと判断した下の階のスタッフがマル・エヴァンスに変わり、マルが警察官たちを屋上に連れていきます。警察官を目にしたときのポールの表情の変化とジョンへの目配せが最高に微笑ましく、まるでハンブルグ時代の悪ガキに戻ったように見えます。

 

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 警官による騒音苦情に対処するマルがアンプを切ると、すぐにジョージがイライラしながら、邪魔するなとばかりに電源を入れ直す下りは映画『レット・イット・ビー』にもありましたが、今回もしっかりと収録されています。

 

 さまざまな困難がバンドに起こっていた時期ですが、ファンは誰もそんな事情は知らない。実際にその場に立ち会わせた、超幸運な人々もそれが彼らの最後の生演奏になるとは思いもよらない。

 

 もしかするとメンバーも最後になるとは思ってなかったかもしれません。今これを見たら、最後の演奏と分かった上での鑑賞となりますが、その事実を知らずに見れば、このあとはどんな活動をしたのだろうと期待するでしょう。

 

 そんなこんなのさまざまな考えが常に頭の中を駆け巡るうちにジョンの有名な「オーディションに受かるかな?」ジョークが放たれ、ゲリラ演奏は終わりを告げます。画面はアップル前の人だかりを映し出し、騒然とした街がいつものどんよりとした状態に戻って行きます。

 

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 演奏を終えたメンバーと妻たちはスタジオに戻り、ポールが仕切る完璧主義にウンザリしながら、渋々同じ曲を何度も繰り返し演奏していきます。

 

 ライヴの即興の楽しさをレコーディングでも出してみようというコンセプトだったはずですが、上手く行かなかったことが解る映像です。なんとか良いものにしようとして周りの反感を買う様子は痛々しい。

 

 それでも今になって、これを映画館で見せてくれたポールとリンゴには感謝しかない。まあ、だいたい十年おきくらいにCD化、アンソロジー、リマスター、モノラル音源のCD化、ハリウッド・ボウル、映画のBlu-ray化、またまた最新リマスターや未収録音源のちょこちょこ出しなどを繰り返し、中高年のファンやマニアをカツアゲしに来る姿勢はハンブルグ以来の不良のままではあります。

 

 たださすがに日本製Blu-rayの12000円は高い。アメリカ製が4000円程度なのに格差社会に移行している日本からどれだけぼったくるのだと糞ディズニーには抗議したい。でも買っちゃいます。いつまで経っても、これまでも、そしてこれからも彼らからの10年ごとのカツアゲには応じてしまうでしょう。

 

満足度 90点(警官とインタビューは要らないwww)

 

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『アビイ・ロード』ここぞで掛けるのはいつもこの一枚。

 高校入学の祝いでアンプ、レコード・プレーヤー、スピーカー、カートリッジを買ってもらってから、40年近くが経ちます。時代はまだ昭和でしたので、その後の平成、令和と元号が三つ目になるので、長生きするとあと二つくらい行けそうです。

 

 中学まで使っていたのは知り合いの喫茶店で使っていた一体型の家庭用オーディオをもらったもので、一台にカセットデッキ、チューナー、レコード・プレーヤーがギュギュっと搭載されていて、それにスピーカーをつなげるというかなり力技の機器でした。

 

 当時読んでいた週刊FMやオーディオ雑誌ではちょこちょこ予算別で厳選したオーディオ機器買い換え企画が不定期で載っていて、ぼくら貧乏な学生にとってはおとぎ話のような夢の雑誌でした。

 

 お金持ちの友人にはたんなるカタログとしてしか見られていませんでしたが、ぼくらには夢の雑誌だったのは間違いなく、貧乏な友達同士でこれとあれを組み合わせたら、良い音がしそうだねと話していました。

 

 そんな折、ぼくも友人も高校受験に受かったら、欲しいステレオ(大昔の表現。親にも分かるような言い方です)を買ってほしいという必死の訴えをしていて、根負けした親も認めざるを得ず、受験にも受かった僕らは晴れて、ステレオ持ちになりました。

 

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 総額で25万円くらいしたので、かなりの出費だったとは思いますが、高度経済成長が続いていたので、大丈夫だったのでしょう。

 

 入学してから一週間後くらいに学校から戻ってみると、親がにやにやしながら「部屋に行ってみな!」と言ってきたので、部屋に入るとすでに電気屋さんにより、しっかりとセッティングされたオーディオ機器がついでに買ってくれたらしいラックにピシッと並んでいました。

 

 はじめて親に心からありがとうと言いに行き、すぐにどれを聴こうか迷い、10分くらいが経過しました。そして選んだのはビートルズの『アビイ・ロード』でした。

 

 そのころには『リヴォルヴァー』『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』『ラバーソウル』『ビートルズ・フォー・セール』『ウィズ・ザ・ビートルズ』『マジカル・ミステリー・ツアー』『レット・イット・ビー』『ザ・ビートルズ』『オールディーズ』はすでに持っていました。

 

 その中でどれを最初に聴こうかとウキウキしながら迷った挙句、ついに決定したのが『アビイ・ロード』(東芝EMIのEAS盤)だったのです。

 

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 ゆっくりと針を下ろし、A面一曲目の『カム・トゥゲザー』が鳴りだしたときにはかなり興奮したのを覚えています。ジョンの「shoot me!」とハンド・クラップにはウキウキしました。

 

 このセットには大学卒業までなので7年くらいお世話になり、実家に置いていましたが、色々と事情があり、新世紀を迎えるころには処分されていました。

 

 次にレコード・プレーヤーを買ったのは2006年くらいで、そのころ持っていた映画観賞用のAVシステムにPHONO端子があったのを思い出し、久しぶりにレコードを聴きたくなったこともあり、オデオンシングル『プリーズ・プリーズ・ミー』とともに『アビイ・ロード』の東芝音工盤を落札しました。

 

 昔のインディーズやロック関連のアルバムも何枚かありましたが、僕にとってのプレーヤーの「こけらおとし」は『アビイ・ロード』なので、わざわざこれを取り寄せました。15年ぶりくらいにアナログで流す『アビイ・ロード』は格別で、他のレコードとは違う意味があります。

 

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 このプレーヤーは今も自宅でクリーニング再生やシングル盤再生に活躍していますが、ここ数年のB-SELSさん通いでいよいよモノラル・カートリッジが欲しくなったタイミングで、DENONのシェル交換が出来るタイプのプレーヤーを購入しました。

 

 今回のこけら落としも当然、マイ・ルールの慣例に従い、『アビイ・ロード』を掛けることにしましたが、今回は手持ち4枚(EU盤、EASの東芝EMI盤、東芝音工盤、赤盤)の中から、もちろんの赤盤を選び、初回再生を行いました。

 

 ちなみに今回はシングル盤は赤盤『アクト・ナチュラリー/イエスタデイ』で行っています。前回はYMOライディーン』でした。

 

 問題は次回のレコード・プレーヤーを買い換えた時の対応です。おそらく10年後くらいになるでしょうが、そのときには上記4枚に加えて、東芝プロ・ユース盤、イギリス・オリジナル・ステレオ盤、ブラジル・モノラル盤なども候補に入って来る状況での選択になりそうなので、今から楽しみではあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビートルズ 33回転イギリス・モノラル盤』気になるレット・イット・ビー45回転

 ここ半年余り、どっぷりとモノラル盤にハマり、ビートルズのイギリス・オリジナルのモノラル音源を主に集めており、仕事から帰ってきた後に自宅のプレーヤーでレコードを掛けるのが日課になっています。
 
 デビュー作『プリーズ・プリーズ・ミー』の疾走感、ハーフ・シャドウが強烈な印象を与える『ウィズ・ザ・ビートルズ』、個人的にはジョンがもっとも魅力的に映る『ア・ハード・デイズ・ナイト』、疲労がたまったなかでクリスマスシーズンに間に合わせた『ビートルズ・フォー・セール』までの初期は特に好きです。
 
 各々の個性がはっきりと表れてくる『ヘルプ!』、芸術性という方向性が示された『ラバーソウル』、実験的意味合いが強くなる『リヴォルヴァー』、スタジオワークの極北であるとともに時代を先取りした『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、はじめての失敗と評された『マジカル・ミステリー・ツアー(EP)』までの革新的活動の時代は子供向けというレッテルを葬る期間です。
 
 企画盤であるもののA面曲のモノラルテイクを聴くとアルバムの印象がガラリと変わる『イエロー・サブマリン』、二枚組自体が珍しかったが当時は散漫だという酷評を受けた『ザ・ビートルズ』で一応のモノラル盤発売の区切りが付けられます。
 

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 五本の主演映画である『ア・ハード・デイズ・ナイト』『ヘルプ!』『マジカル・ミステリー・ツアー』『イエロー・サブマリン(アニメ)』『レット・イット・ビー』に関してはブラジル盤をゲットしたため、すべてモノラル音源で聴いています。
 
 その後はイギリス盤ではアルバム未収録だった『のっぽのサリー(EP)』のモノラル盤などを近所のビートルズ・レコード専門店のB-SELSさんに通いつめて、ご厚意で試聴を繰り返しながら良盤を揃えていきました。
 
 ついでにブラジル・モノラル盤『レット・イット・ビー』、アルゼンチン・モノラル盤『ヘイ・ジュード』にも手を出していきました。ステレオテイクを無理やりにモノラル変換している強引なアルバムではありますが、マスター音源がおそらくベル・サウンド盤のようで、音が明るくクリアでカラッとした良い音を鳴らしてくれます。
 
 サッカーでは敵同士のブラジルとアルゼンチンですが、両国ともにビートルズ・ファンは南米でも多かったのでしょうね。
 

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 目ぼしいやつで残るのはアメリカ・モノラル盤『マジカル・ミステリー・ツアー』、イギリス・モノラル盤『オールディーズ』、マトリックス2の『リヴォルヴァー』のみになってきていました。これらについてはただいまB-SELSさんにオファーしている状況で、もうすぐ入荷してもらえることになっています(すでに入手)。
 
 英国モノラル音源自体は22枚のシングル・コレクションやEP盤があるので所持してはいますが、引っくり返す手間を考えると『オールディーズ』『マジカル・ミステリー・ツアー』はアルバムでも揃えておきたい。
 
 『マジカル・ミステリー・ツアー』に関してはキャピトル唯一の貢献ですので、これは欠かせない。『リヴォルヴァー』はすでにマトリックス1の希少盤を持っていますが、反対に通常のモノラルテイクの『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』が無かったので、購入に至りました。
 
 『オールディーズ』には『バッド・ボーイ』のモノラル・テイクが収録されているので、モノの音圧と迫力を考えると聴いておきたい。ドイツ語版『抱きしめたい』『シー・ラヴズ・ユー』はイギリスでは発売はなかったのだろうか。
 

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 イギリス・モノラル盤の中でノー・マークだったのが『リヴォルヴァー』と『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の合間にリリースされた初期ベスト盤『オールディーズ』でした。
 
 かつて中高生の頃、旗帯盤の帯裏に紹介されているカタログ・リストには確かにイギリス・オリジナルの8番目にこのアルバムがあり、当時の僕らビンボー学生はリストを消しながら、「次はこれ欲しいな。」「あと5枚か?」などと考えながら、「『バッド・ボーイ』が入っているのはこれだけか?いや『ロック・アンド・ロール・ミュージック』『ビートルズⅥ』にも入っているなあ…」などとあれこれ悩んでいました。
 
 初期ベストである『オールディーズ』には『シー・ラヴズ・ユー』『抱きしめたい』『イエスタデイ』『ミッシェル』などが網羅されていることもあり、赤盤青盤が出るまでは1枚で多くのヒット・シングルを聴くことが出来る良盤という認識だったに違いない。
 
 しかしながら、CD化の際に『パスト・マスターズ』が出たことにより、公式リストから除外されてしまい、『マジカル・ミステリー・ツアー』のEPと共にその後はなかったことにされてしまいました。
 

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 後のCD化以降しか知らないであろう世代が『リヴォルヴァー』のジャケットを評して、「最初にイラストが使用された1枚である」などというレビューを掲載しているものを見かけました。
 
 しかし、実際にイギリス・オリジナル・アルバムではじめてイラストをジャケットに使ったのはこの『オールディーズ』です。しかもメンバーの似顔絵ですらないというのはかなり斬新な試みであると言えます。
 
 モノラル盤は当然モノラルテイクが収録されています。これが結構曲者でステレオテイクを無理やりモノラル化したものもあり、サントラ盤『イエロー・サブマリン』などはステレオ・ミックス音源をモノラル化しているので、今回の『オールディーズ』の収録ナンバーのテイクがどうなっているのかにも興味がありました。
 
 結果として、すべての収録ナンバーはモノラル・ミックスで入っていて、ステレオを無理やりにモノラルに変換したものはありませんでした。
 

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 もうひとつ、ついでに気になっていたことがあったので、そちらもB-SELSさんで試していきました。それは日本盤シングル『レット・イット・ビー』のモノラル・ミックスの有無に関するものです。
 
 一般的にビートルズのシングルはほとんどがモノラルで発売されていて、例えばイギリスの場合、ステレオは『ジョンとヨーコのバラード』『サムシング』『レット・イット・ビー』の3枚です。日本の場合、これらに『オー・ダーリン』『ロング・アンド・ワインディング・ロード』を加えることになります。
 
 ただ今回、自宅にある『レット・イット・ビー』のシングル3枚のうち、イギリス・アップル、USベルサウンド、フランス・モノラル盤、東芝音工盤(定価500円)を聴き比べると、前者2枚は普通に左右の音の分離がすっきりと分かるのですが、東芝音工盤の音の鳴り方がモノラルにしか聞こえません。
 
 実際、手持ちのシングル盤にはジャケット等にも一切ステレオの文字がない。ステレオ針で聴くとイマイチだったので、モノラル針に切り替えて聴いてみると、結構イイ感じな音を鳴らしてくれました。
 

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 これはB-SELSさんで確かめるしかないと思い、アップル国内盤シングルのステレオ初回盤(視聴させてもらい、購入に至りましたが、ステレオと表記されてはいるものの実際はモノラルなのではと思いました)、青盤の東芝EMI盤(こりゃ、ステレオ。)、さらについでに封印作品となった角川『悪霊島』盤など色々聴き比べていきました。
 
 『レット・イット・ビー』の初回盤はステレオ表記、定価400円、ジャケの林檎は緑色ですが、ステレオ表記のない盤はステレオ表記がなく、定価500円、ジャケの林檎は赤色が強く出ています。
 

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 どういう理由かは知りませんが、なんらかの手違いでモノラル・ミックスを作ってしまい、チェックをせずにプレスし、印刷部門もジャケにステレオ記載してしまい、モノラル・ミックスを誤記したまま発売したのではないか。
 
 その後に定価500円に改定される際にご丁寧にステレオ表記を消していることからも、ミスに気付いた東芝がシレッと訂正だけして出し続けたのではないか。
 
 公式には何も言われていないので何とも言えませんが、60年代や70年代ならではのテキトーな仕事感覚がなんとなく好きです。全世界同一フォーマットなら、こうした違いは起こりえないので、目くじら立てずに各国で楽しめる状況の方が良い。