良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『レット・イット・ビー』追記。幻のアルバム、『ゲットバック』を久々に聴きました。

 いまから20年以上も前の学生時代、大阪の海外ブートレッグや輸入盤専門店でレコードを買い漁っていた頃、さまざまなアルバムを手に入れました。音質は最悪、ジャケットはボロボロ、たまに反りがあったり、変な臭いがしたりと海賊盤というとマイナスなイメージがかなりありました。

 

 ビートルズだけではなく、ローリング・ストーンズレッド・ツェッペリンキング・クリムゾンらの多くのロッカーたちのライヴ盤を聴いては悦に入っていました。  なかでもビートルズの「必要な」正規盤(無意味な編集盤も数多くあり、知らない方はどれを買えばよいのやら、という状況が長い間続いていたのも事実なのです。1984年か、そこらでイギリス盤以外のフォーマットはすべて販売禁止になってしまいました。)をすべて手に入れていた僕はビートルズの音源を求め、しょっちゅうこの手のレコード店に出入りをしていました。

 

 『ウルトラ・レア・トラックス』などのスタジオ・アウトテイクを収録したもの、デッカ・レコードでのオーディションもの、『ビートルズ武道館ライヴ』など彼らのライヴ・パフォーマンスを収録したものを探し続け、買い続けていました。

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 そんななかで、かなり多くのブートで出回っていたのが、ラストアルバム『レット・イット・ビー』(実際のレコーディングは『アビイ・ロード』がラスト。)関連、つまりゲット・バック・セッション関連の音源でした。

 

 「ゲットバック」と入れておけば、それでファンが群がるという構図がすでに出来ていて、何枚もの似たようなブートがレコード棚に置いてありました。映画『レット・イット・ビー』を劣悪なレコーダーで録音しただけのもの、おそらくアップル・レコードのゴミ捨て場から拾ってきたであろうジャンクもの、どういうルートで出てきたのかは知りようもないが、お蔵入りしたアウトテイクのなかでも比較的ましなものなど大量に音源があったのが、この『レット・イット・ビー』関連でした。

 

 ブートで同じく多かったものにはBBCラジオに出演したときの演奏をテープレコーダーで録音したものをレコード化したものもよく見かけました。10年位前に『ライヴ・アット・BBC』がリリースされたときにはひっくり返りそうになったのを覚えています。

 

 いつまでもブートが蔓延する状況を放置せずにさっさとあるだけリリースしてしまえば、アングラ・マーケットも駆逐できるのになあ、と思いつつも、せっせと買い込んでいました。『アンソロジー』が出たときも、公式に出るのは嬉しいのだけども、何十年も前にすでに聴いているものばかりだったので、とりわけ感慨はありませんでした。  

 

 こういったブート市場で、多くの偽物や音質最悪モノの中から「マシな」一枚を探し出すのは至難の業ではありましたが、楽しく探していた思い出があります。そしてついに本物を探し当てたときは嬉しかったのを覚えています。

 

 しかし時代は変わり、レコードからCDへとフォーマットも変化しました。自分の持っていた大量のビートルズのアルバムやシングルも引越し時のドタバタですべてを失くしてしまいました。当然そのなかには買い集めたブートやオデオン盤のシングルなども含まれていました。

 

 その後、CDとなっているものはすべて再び買い集め、ブートにも手を出し、第二次ビートルズ・コレクションを作り上げましたが、『レアリティーズ2』やテイク違いのシングル盤、そして『ゲットバック』を集めなおすのは不可能でした。たまたまデジタル・オーディオ・テープ(DAT)に『レアリティーズ2』やオデオン盤などは録音してあったので、CD-Rに焼きなおすことが可能でしたが、『ゲットバック』を入れたDATを紛失してしまったために、長い間聴くことができませんでした。いまではヤフオクで、そんなに高くはない値段でLPレコードが出ていますので、買ってみようかなあ、などと算段しております。

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 そしてついに海賊盤で再び『ゲットバック』を手に入れ、15年ぶりにこのアルバムに接することが出来ました。トップの『ワン・アフター909』を聴いたときには嬉しさがこみ上げました。

 

 収録されているナンバーはほぼ『レット・イット・ビー』と被るのですが、いくつか違うナンバーが入り、基本的にはどのナンバーも違うテイクが使用されていました。知らない方のために書いておきますと、インストゥルメンタル・ナンバーの『ロッカー』、のちにポールのソロでも使用された『テディボーイ』、『ドント・レット・ミー・ダウン』の前に歌われる『ラストダンスを私に』、ロング・ヴァージョンで演奏される『ディグ・イット』、ポールのオリジナルの構想どおりのシンプルな『ロング・アンド・ワインディング・ロード』『レット・イット・ビー』などが収録されています。

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 散漫な印象が強い『ゲットバック』ですが、人間としてのあたたかみは残っています。フィル・スペクター版の『レット・イット・ビー』は音楽的にはマシだとは思うのですが、あの冷たさが大嫌いです。『ゲットバック』『アクロス・ザ・ユニヴァース』『ロング・アンド・ワインディング・ロード』など一曲一曲は粒揃いのアルバムなのですが、まとめて聴くとどうしても冷たさを感じてしまい、没頭できないアルバムでした。

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 その点、この『ゲットバック』は最悪な環境下にあった彼らであるにもかかわらず、まだ人間味を感じる部分が多々あるのです。スタジオ・ライヴ的なつくりを目指したという目論見どおり、その当時の彼らの素の様子を少しでも感じ取ることが出来ます。  

 

 『レット・イット・ビー・ネイキッド』を聴いた時も、どこか違和感がありました。ポールが嫌いなフィル・スペクターの「音の壁」を取り除いただけにすぎないのではないかという点においてでした。綺麗な音に仕上がってはいるのですが、「作り物感」は消えることはありませんでした。

 

 どう違うのかといえば、先ほどから述べている通り、人間のあたたかみのあるなしなのです。手作り感といってもいいかもしれません。寒々しい『レット・イット・ビー』とは好対照の出来で、テクニカルとは言い難いのは事実ではありますが、ビートルズ・ファンが両方とも聴いて、どちらが良いかと聴かれれば、7割くらいの方は『ゲットバック』のほうを挙げるのではないでしょうか。

 

 なかなか手に入れるのは難しいかと思いますが、もし聴く機会があれば、両者を聴き比べていただきたいものです。メンバーの雑談も多く収録されていて、そんなにいざこざがあるようには思えません。歴史的に見ると結果が出てしまっていることではありますが、何も知らずに聴いているとそんなふうには聴こえないのではないでしょうか。  

 

 追記として、個人的にもっとも興味のある正規盤の別テイクについて記載しておきます。ビートルズ音源にはなぜか各国別に微妙な違いがあり、それらはコレクターを悩ませ続けています。たとえば『LET IT BE』。

 

 僕が持っているのはフィル・スペクターによるアルバム『レット・イット・ビー』のテイク、ジョージ・マーティンのプロデュースしたシングル盤のテイク、日本のみのシングル・モノ・ミックス、英国盤シングル・モノ・ミックス、『アンソロジー3』のテイク(『ゲット・バック』のテイクと同じ。)、『レット・イット・ビー・ネイキッド』のテイクなどがあります。

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 さらにブートを加えると『レット・イット・ビー ファースト・リハーサル』、グリン・ジョンズの『ゲット・バック』のファーストとセカンドのテイクなどなど…。多すぎますね。でも揃えたくなるのがコレクターの性でもあります。こういうのがビートルズの場合、公式ナンバーの全213曲のうち、『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』まで続くわけです。モノラルとステレオではミックスが違うので、集めてしまうんですよ。

 

 シングルに至っては『ジョンとヨーコのバラード』以前まではすべてモノラル・テイクなのです。アルバムはアナログ時代は一般的にステレオ音源だったのが、CD化されたときにファーストの『プリーズ・プリーズ・ミー』から4作目の『ビートルズ・フォー・セール』まではモノラル、あとはステレオとなりました。ですが、シングルはほとんどがモノラルなわけで、しかもテイク違いがほとんどときては集めなきゃしょうがない。アルバムもそうで、上記4作目までのものはヤフオクでアナログのステレオ盤を漁るしかない状況です。

 

 ポールとヨーコはいったいいつまで僕らファンからお金を巻き上げるつもりなんでしょうか…。いっそのこと、一般ファンにはクズでしかない『アンソロジー』よりも、各国正規盤のテイク違いのアンソロジーを作ってくれるほうが何倍もありがたい。そういう意味ではアメリカ・キャピトルのボックス・セットは各アルバムにつき、ステレオとモノラルを同時に収録してくれているので、東芝EMIなんかよりも、よっぽどありがたい。