『オデオン盤とアップル盤』ビートルズのシングル盤解説が当時の雰囲気を伝えてくれる。
思春期に差し掛かるころ、好奇心と感受性は日に日に敏感になり、貪るようにあれこれ聴きまくった中高生の頃、地元の中古レコード屋さんの存在は神様のようでした。
普通のレコード屋さんの半額以下でビートルズ、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、キング・クリムゾン、ブルース・スプリングスティーンら憧れのロックバンドの旧譜を手に入れられる喜びに浸れました。
常連になってくるとお店のオーナーさんが色々と試聴させてくれたり、たまにおまけしてくれたりします。中古レコード屋さんの存在をはじめて知ったのは中学生になってからで最初に買ったのはザ・ビートルズの『リール・ミュージック』か『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』だったような記憶があります。
アルバム『リール・ミュージック』は彼らが主演した映画サントラのベスト盤といった趣が強く、収録曲は『ビートルズがやってくるヤアヤアヤア!』から『ア・ハード・デイズ・ナイト』『恋する二人(アメリカ盤はハーモニカの息継ぎがなく、スムーズに流れる。)』『アンド・アイ・ラブ・ハー』『キャント・バイ・ミー・ラブ』が選ばれていました。個人的には漏れてしまった『イフ・アイ・フェル』も好きだったなあ。
『ヘルプ!』からは『ヘルプ!』『涙の乗車券』『悲しみをぶっとばせ』、『マジカル・ミステリー・ツアー』から『マジカル・ミステリー・ツアー』『アイ・アム・ザ・ウォルラス』が選曲されています。
『マジカル・ミステリー・ツアー』収録の『ユア・マザー・シュッド・ノウ』はとても印象的な楽曲で、映画ではタキシードを身に纏いながら歌っていて、ポールが付けている薔薇が黒だったためにポール死亡説(たぶんビートルズ・サイドが仕掛けた宣伝では。)の一つの証拠とされていたのではないか。
『イエロー・サブマリン』からは『イエロー・サブマリン』『愛こそはすべて』、『レット・イット・ビー』からは『レット・イット・ビー』『ゲット・バック』『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』と名曲揃いのアルバム構成です。
残念ながら、現在は公式にCD化(ブートでは出ています。)されることもなく、歴史の闇に葬られてしまいましたが、ビートルズサイドが権利だなんだとゴチャゴチャ言い出すまで(1984年まではオッケー。)は各国で好き勝手に編集盤が発売されていました。
玉石混合ではありましたが『レアリティーズ(『パスト・マスターズ』と大差ないが、『レアリティーズ2』は未収録音源の宝庫でした。)』『ミート・ザ・ビートルズ』『ヘイ・ジュード』『オールディーズ』『ビートルズ・ライブ・アット・ハリウッド・ボウル』『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』はお気に入りでした。
また『マジカル・ミステリー・ツアー』のアメリカ盤(ぼくらが普通に聴いている『マジカル・ミステリー・ツアー』はアルバム形態ですが、イギリスのオリジナルはEPなので、A面最後である『アイ・アム・ザ・ウォルラス』まで。)など素晴らしいアルバムも多々存在し、ぼくら中高生(中高年ではない。)マニアも必死にお金をためながら、欲望のままに聴きたいアルバムをコレクションしていきました。
今ならヤフオクやAmazonを駆使して大人買いをすれば、一撃でコンプリートできますが、当時はお金がない貧乏学生なのでコツコツと5年くらいかけて数十枚規模にコレクションを増やしていきました。
最初に買ったオリジナルがなぜにもっとも難解な『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』だったかというと他のアルバム群は誰かが持っていましたが、これだけはどこの家にもなかったからです。
いざ買うとなると、馴染みのあるナンバーを多く収録するアルバムに手が伸びてしまう。また、貯めていったコレクションにはいわゆる海賊盤が多く含まれていて、いつの間にやら正規盤よりも海賊盤のほうが多くなってきてしまいました。
『ファイブ・ナイツ・イン・ジュードー・エリア(武道館ライブ)』『ゲット・バック』『ウルトラ・レア・トラックス』などをガンガン収集していきました。
それに合わせてぼくが興味を持って集めていったのがオデオンシングル盤、つまり日本独自のカットを多く含み、最終的には43枚(アップル以降も含める。)にのぼるコレクターズ・アイテムでした。
『パーティはそのままに/みんないい子』『カンサス・シティ/アイル・フォロー・ザ・サン』『スロー・ダウン/マッチ・ボックス』『ディジー・ミス・リジー/アンナ』などといういったい誰が買うんだろうという突っ込みが入りそうな渋すぎるチョイスも含め、出せば売れたのであろうビートルズの勢いが感じられる貴重なドーナツ盤の数々にはもうふたつ楽しみがあります。
ひとつはアルバムのテイクとは違うテイクの楽曲が結構多かったこと、そしてもうひとつは当時のリアルタイムでの大人気をさらに煽り立てていくレコード盤の解説です。
たとえば『プリーズ・プリーズ・ミー』では「The Beatlesは、ドラムと電気ギターと、時にハーモニカを使って、“騒音”を作り出します。」とあります。また「原子爆弾を思わせるキノコ状の頭」という表現もあります。『抱きしめたい』でも原爆頭とか解説されていたような記憶があります。
シングルの出し過ぎによる宣材写真不足も深刻だったようで、アルバムに使われている写真を切り貼りしたりするのは良い方で、酷いのになるとネガとポジを入れ替えたようなデザインとしてどうなんだろうというのも多数あります。
『レット・イット・ビー』にはなぜか英文で解説がされていて、『ユー・ノウ・マイ・ネーム』は1967年にはすでにレコーディングされていたよとか、A面ではビリー・プレストンがキーボードでセッションに参加しているよなどと印刷されていますが、誰に向けているのだろう。
『レディ・マドンナ』ではポップス界は全部が全部、ビートルズの影響を強く受けているなどと記載されています。『ジョンとヨーコのバラード』は歌詞と対訳のみです。
デビューから大スターになるまでの雰囲気やいま読むと珍妙な表現、世界のポップ・カルチャーの中心になってしまった辺りからの解説陣のどこか遠慮したモノの書き方や歌詞カードだけなやっつけ仕事に時代の変遷を感じます。
iPodなど大容量な記録媒体に慣れている今では一曲終わると盤を引っくり返す必要があるシングル・レコードはかなり面倒くさい。じっさい昨夜、試しに『ジョンとヨーコのバラード/オールド・ブラウン・シュー(非インド料理)』と『レディ・マドンナ/ジ・インナー・ライト(インド料理)』を聴いてみましたが、なんか面倒くさい。
ただ昔所有していた『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー/ペニー・レーン』とか『ハロー・グッドバイ/アイ・アム・ザ・ウォルラス』などは余韻が残っていて、引っくり返すのが心地良かったりした記憶がします。なんだか不思議です。
まあ、さすがにジャケット・デザインと解説目当てにまた買い戻すのも面倒なので集める気はありませんが、発売当時の雰囲気を味わい尽くす良い資料となるかもしれない。