良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ビートルズの音源を求めて』20数年ぶりに、ビートルズ無間地獄にはまってしまった…。

 アナログ時代からのビートルズ・マニアでしたが、20数年前の引越しの際にコレクションすべてを失ってしまってからはCDに買い換えて、公式盤のみで我慢しておりました。失った音源には中学のときから大学時代までに40枚近くコツコツ貯めた、レトロ調のジャケットやライナーノーツで楽しませてくれたオデオン・レコードのシングル盤や、多くの海外の海賊盤、そしてアメリカ・キャピトル盤や日本独自の編集盤などが含まれていました。

 

 まあ、そうはいってもちょっとずつは海賊盤などにも手を出していて、『ウルトラ・レア・トラックス』のシリーズや『ファイヴ・ナイツ・イン・ア・ジュウドウ・エリア(つまり武道館ライヴのことです!)』などはなんやかんやいいながらも、再度手に入れていました。しかし年々レコード屋に行っても何も欲しいものもない、そしてCDにすべて変わってしまうという状況になると、いつのまにやら興味自体がなくなっていきました。

 

 もう二度と手に入ることもないだろうと思っていましたが、あるときにフッと頭によぎったのは「そうだ!ヤフオクで探せばいいんじゃないか!」という当たり前のことでした。中古レコード屋さんも激減し、あっても馬鹿みたいに高いという状況ではなかなか手を出しにくかったのですが、丹念にヤフオクを調べていくと、以外に安く出品されているものもあり、かえってアナログ時代に中古屋で買うよりも安く手に入るものも多いのには驚かされました。

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 おそらくもともとそれらをコレクションされていた方が亡くなったり、CDに切り替えてしまったときに価値を知らずに手放した方が相当数いたためなのでしょう。まあ、そのおかげで再びコレクションを始めている僕にはありがたい状況が発生しているともいえます。

 

 基本的に僕が興味があるのは公式盤として出たもののヴァージョン違いやテイク違いであり、アウトテイクにはあまり興味がありません。せいぜい聴いてみたいのは『ヘルター・スケルター』の20分以上続くといわれているテイクくらいです。とはいってもこれらアウトテイク物についても20枚以上は持っておりますので、それだけでも十分オタクなのかとも思います。

 

 音源コレクターには大きく分けると三種類存在していて、それぞれがかなりのこだわりを持っています。第一は彼らの膨大なアウトテイクを集める非公式音源重視派(完成品にはないコーラスや楽器のタッチなどの試行錯誤が興味深い。)、第二は彼らのライヴ音源(BBCを含め)を求め続ける生演奏派(彼らの生きた音を聴くならば、編集のないライヴ音源が一番でしょう。)、そして各国公式編集盤に収録されているヴァージョン・テイク違いを集める公式音源派、さらにはこれらのミックス派とも呼べる「音」派が各々目を皿のようにして、お目当ての音源を収集するのに躍起になっているのが現状でしょう。

 

 音源派以外にもTV出演映像やライヴ映像などを集める映像派、レコードのジャケットや「レコード」帯やオリジナル盤や再発盤などの意匠に執念を燃やすアート・デザイン派なども入り乱れての争奪戦となっております。僕は公式音源派に属していますので、比較的争奪戦には巻き込まれにくく、結構お手ごろな価格で手に入れてはいます。

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 が、それでも『リヴォルヴァー』の英国モノラル盤(マトリックスXEX、606-1)のような安くても3万円以上で、高いときなら10万円を軽く越えるものや、『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』の‘‘ブッチャー・カヴァー’’のキャピトル・ステレオ盤のように最低6桁いくものまでピンからキリまであります。  もちろんそんな高価なものには手が出ませんので、所有する知人から借りて、CD-Rに焼きました。最近のブートには公式音源を大量に集めたシリーズなども人気のようです。

 

 DR.Ebbettsシリーズなどは特に有名ですね。『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』などもブッチャー・カヴァーのCDが出回っているようです。  ちなみになぜこの『リヴォルヴァー』がこんなに高いのかといいますと、当時はステレオ盤よりも一般的だったモノラル盤(日本はこの点ではステレオが主流でした。)が存在していて、このモノラル盤のリミックス作業によって生じた時間の空白があり、そのために2種類のヴァージョンが出回ったからなのです。

 

 この辺の事情は『レコード・コレクターズ』の森山直明氏のレビュー『テイク/ヴァージョン違いを徹底調査』にて詳細が書かれておりますので、興味のある方は探してみてください。

 

 簡単にいうと、英国モノラル盤には2種類があり、片方の盤は総合計でも一般的なテイクの100分の1しかないらしいのです。このアルバムの売り上げはたしか当時イギリスで200万枚で、一般的だったのはモノラル盤なので、厳密にはステレオ盤との比率は分かりませんが、仮にモノが7割でステレオが3割だとすると、140万枚のモノラルのうち、100分の1ですから2万枚弱!!ということになります。

 

 何が違うのかといえば、このアルバムに収録されているB面7曲目、つまりラスト・ナンバーである、ジョン・レノンが書いた『TOMORROW NEVER KNOWS』のミックスが他とは明らかに違っているのです。SE音や楽器の入り方が独特で、一度聴いただけでもステレオ盤を聴きなれた耳には違和感があります。

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 ビートルズ音源を集めるのに一番必要なのは根気ですが、それ以上に必要なのが聞き分ける耳です。それは別に大それたものではなく、どれだけ一般的なテイクを聴いているかです。通常テイクを聴いたときとは明らかに別の違和感をどれだけ捉えられるかにかかってきます。

 

 CD化されたときにもっとも感じたのがこの部分なのです。なぜならアナログからデジタルに変換されるときにジョージ・マーティンによって、アナログの極端な左右バランスのために生じていたノイズを軽減するためにかなり手が加えられていて、楽器のバランスなどが修正されているのです。とりわけ『ヘルプ!』『ラバー・ソウル』ではかなりのリミックスが加えられ、昔のLPを聴きなれた者には違和感がかなりありました。

 

 言い出すと、本当にきりがありませんが、各曲単位でも目立つ楽器やコーラスが変わり、ベースも強調されているように思えます。たとえば『サージェント・ペパーズ』の終わりに入る特殊音(サージェント・ペパーズ・インナー・グルーヴと命名されています)もLPとCDでは違いますし、『アイ・フィール・ファイン』もLP赤盤では囁き声が収録されているヴァージョンが入っていますが、CDでは違うようです。

 

 同じく青盤のLPでは『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のイントロには歓声が入る一般的なヴァージョンが使用されていますが、CDの新しい盤には歓声がカットされた、ギターのファースト・ストロークから静かに始まるヴァージョンが収録されています(旧青盤CDは歓声入り)。

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 『恋する二人』にしても、モノとステレオではハーモニカの入り方が違い、ステレオ盤では「息継ぎ」が入りますが、『リール・ミュージック』ではその音落ちがなくスムーズに流れていきます。

 

 しかし東芝盤に入っているそれは一般的な息継ぎテイクの方です。こうして同じタイトル、同じステレオ盤、同じ曲目でも、各国が持っているマスターの違いのために別テイクで収録されているものが非常に多く、それがコレクターを大いに悩ませる。

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 『ビートルズ・グレイテスト』にしても、ドイツのオリジナル・ステレオ盤の『アイ・フィール・ファイン』は一般的なヴァージョンで収録されていますが、東芝盤では囁き声の収録されたヴァージョンが入っていたりと非常に困りモノです。さきほどと同じく、同じタイトル、同じステレオ盤、同じ曲目なのですが、聴いてみないと分からないのです。

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 こうして多くのテイク違いが存在するビートルズですが、その極めつけとも言えるのが『アイム・オンリー・スリーピング』と『アイ・アム・ザ・ウォルラス』の2曲です。『アイム・オンリー・スリーピング』には5ヴァージョン、『アイ・アム・ザ・ウォルラス』にはイントロと間奏の違いが多く、なんと7種類(ビデオ版を除く)もあります。もう、ここまでくるとさすがにウンザリします。

 

 ちなみに僕は前者はすべて(CD、英国モノ、『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』のステレオとモノ、擬似ステレオ・ミックス)、後者は5種類(CD、CD青盤、EPコレクションのステレオとモノラル、CDシングル)の音源を持っています。まだ持っていないのはアメリカ・アナログ・シングルのテイクとドイツのLPのテイクです。  

 

 普通の音楽ファンの感覚でいえば、『1』『赤盤』『青盤』のいずれかかあれば十分なのでしょう。たいして興味のない方であれば、たしかにそれで十分でしょう。しかしそれらだけで済ませるには勿体なさ過ぎるのがビートルズという不思議な対象なのです。

 

 ロック・ファンというならば、ビートルズローリング・ストーンズレッド・ツェッペリンに関しては年代別の代表作やライヴ盤などを最低限聴いて欲しい。もちろんビートルズのライヴ盤は現在公式には販売されてはいませんが、オークションなどでは『ビートルズ・ライヴ・アット・ハリウッドボウル』が相当数出ているので全くチャンスがないわけではありません。

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 テクニカルとは言い難いのですが、オーディエンスのあの絶叫は他のいかなるバンドのライヴでも聴くことは出来ません。曲の間で騒ぐのは結構ありますが、演奏中もひたすら観客が絶叫しているライヴはビートルズのみではないでしょうか。

 

 話は脱線しますが、なぜビートルズ本を出すのは男性ライターばかりなのでしょうか。もともとビートルズは女の子の圧倒的な人気があり、その後に恥ずかしそうに男の子のファンが出てきたのではないでしょうか。彼女たち熱狂的ファンの支えがあってこそのバンドだったはずです。

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 女の子ファンの視点から語られるビートルズの本が皆無なのがどうも納得いかない。アイドルとしてのビートルズ、熱狂する対象としてのビートルズが語られていない。不思議としか言いようがない。

 

 とりわけ初期から中期にかけてのナンバーの多くはラブ・ソングが主体なわけですから、ぜひとも彼女たちから語られるビートルズの意味を聞いてみたい。男が気づかない彼らの魅力が絶対にあったでしょうし、女性ファンの視点が欠けているのはおかしいとずっと思っていました。誰か書いてみてください。

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 だいぶんと脱線しました。さて、このように音源に翻弄されている状況はまさに無間地獄のようであり、出口もなかなか見つかりません。しかしようやく小さな明かりも見えてきておりまして、あと現在持っていない音源で、めぼしいのは『ジョンとヨーコのバラード』のオデオン・シングル盤(最後のドラムの音がでかいテイク!)、『プリーズ・プリーズ・ミー』『ウィズ・ザ・ビートルズ』のステレオ盤。  そして『ビートルズ・ボックス8枚組』(20数年以上前、最初に買ったのが『リール・ミュージック』で、その後に買ったのが『ビートルズ・ボックス8枚組』でした!最初に聴いたのがボックスだったのですが、このボックスが実はレア・テイクの塊だったのに気づいたのは再び探し出してからでした。)だけになりました。

 

 もうすぐ旅も終わりです!金銭的にも体力的にも疲れました…。ほんとうにレット・イット・ビーな気持ちです…。まあ、来年当たりにキャピトル・レコードがビートルズ・ボックス’66を発売してくれたならば、また性懲りもなく買うのは間違いありません。

 

 おそらく次回、間違いなく収録されるのは『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』『リヴォルヴァー』、そしてもしかすると『ビートルズ・ライヴ・アット・ハリウッドボウル』『ヘイ・ジュード』あたりでしょうか。

 

 もしかすると『マジカル・ミステリー・ツアー』のモノラル盤、アメリカ盤『レアリティーズ』なども出てくるのかと思えば、まだまだ楽しいビートルズ人生を送れます。ポールやヨーコにはブート対策として、持っている音源はさっさと全部公式に発表してくれと言いたいですね。