『レット・イット・ビー』まだ著作権問題はシリアスではなく、海賊盤を聴いていた。
ビートルズの主演した映画は全部で5作ありました。『ビートルズがやってくる。ヤア!ヤア!ヤア!』、『HELP!』、『マジカル・ミステリー・ツアー』、『イエロー・サブマリン』(ラストのみ)、そしてこの『レット・イット・ビー』です。
このうち現在、ビートルズ・ファンがレンタルその他で見ることのできないのがこの作品でもあります。当時マネージャーだった会計士アラン・クライン(元ローリング・ストーンズのマネージャーでもありました)の強欲のためか。
はたまたメンバー同士のいざこざのためか、真相は分かりませんが1980年代中盤に東芝のホームビデオで販売されて以来(新聞で読んだ記憶があります)、全く人目に触れなくなり今日に至っています。でも僕は幸運にも劇場で観たのです。
といっても、それは1970年ではなくビートルズ・シネ・クラブの方が企画したもので1984年でした。『ビートルズが~』、『HELP!』との3本立てという今では考えられない豪華さでした。3本の中で最も好きで後にDVDでも買ったのは『ビートルズが~』です。10回以上は見ています。『HELP!』も5回は見ています。
しかし一度しか見ていないこの作品が二度と正規に見ることの出来ないのはとても悲しく思います。内容自体はドキュメンタリー風にグループが無様に崩壊していく様子を淡々と追いかけていくのみの、いわばファンしか楽しめない代物に過ぎません。
セッションもいつになく暗い、そして重たいものでジョークを言い合っていても空々しい雰囲気を吹き飛ばすことも無い最低のものでした。特にポールとジョンのいがみ合いは醜く、口論の絶えない様子が伺えました。ジョージは全くやる気が見えず、リンゴも終始悲しそうでした。リンゴが主役でないビートルズ映画はこの一本のみです。
フィルムは残酷に偉大だった4人がただの成功した音楽家に戻っていくさまを映し続けていき、観る者全てを陰鬱にしました。3本立ての最後にこれを見せられた観客のほとんどは何かやりきれない表情をしていました。
『ゲット・バック・セッション』の時、グループが最悪だったことはいろいろな本で読んでいましたので知ってはいましたが、実際の様子をフィルムで観た時には唖然としました。
レコードもかなり持っていて、幻のアルバム『ゲット・バック』の演奏風景を見ることのできる喜びを胸に見たものの結果がこれだったので、本当にうんざりしたことを覚えています。それ以来、好きだった『レット・イット・ビー』や『ゲット・バック』を聴くと悲しくなります。
映像としては「オレンジ」や「黄色」などの「暖色」が強調されているのですが内容が暗すぎるためか、かえって重苦しさを引き出してしまったように感じました。曲目自体はビートルズらしく名曲も多いのですが、聴けば聴くほど寂しくなってきます。1曲1曲はそうでもないのですが、束になると本当に暗いのです。
のちに『ゲット・バック』をブートで手に入れて聴きましたが、散漫で雑で「これがビートルズ?」と疑うような酷い出来栄えでした。『テディボーイ』『ラストダンスを私に』、ポールのオリジナルの意図が分かる『ロング・アンド・ワインディング・ロード』などを聴けただけでも喜ばしいことなのでしょうし、感慨深さはありました。
しかし一方で、リリースしなかったメンバー達の決断は正しい選択だったともいえます。のちにフィル・スペクターによって再プロデュースされた『レット・イット・ビー』の方が数段ましでした。
ただしそれは「音楽的に」という括弧つきの意味であり、『ゲットバック』には残っていた人間らしさやあたたかみが完全に消えてしまい、『レット・イット・ビー』には冷たさしかない。スペクターがすべて悪いとは思いませんし、放置したのはメンバーの責任なのでいまさらどうこう言うつもりもありません。
最後のアップルレコードビルの屋上で行われた伝説の「ルーフ・トップ・コンサート」がなかったら、これは最低の作品として後世に語り継がれたことと思います。意義としては当時のスーパースターたちがあからさまに、飾ることなく本音を世界中に撒き散らしたことのみです。ビートルズの活動をずっと望んでいたファンも、これを観れば仕方ないと納得した事でしょう。
ただ一つ付け加えておきたいことがあります。解散が決まる前にアルバム『レット・イット・ビー』は録音されていて、一般的には暗くて寒い印象を受けますが、アメリカの初期盤、いわゆる赤リンゴレーベルの盤、日本の赤盤では驚くほど快活な音を出しています。解散後はエンジニアによるイコライジングやカッティングなどの影響で暗い印象が作られてしまったのかもしれません。
総合評価 65点