良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『レット・イット・ビー』(1970)ビートルズ崩壊ドキュメンタリーを25年ぶりにDVDで観た。

 何度も発売の噂がまことしやかに囁かれつつも、権利問題やジョージ・ハリスンの意向でおそらく発売されることもないだろうと言われ続けているいわくつきのビートルズ映画、それが今作品『レット・イット・ビー』である。  僕自身も25年前にファン・クラブの会合で一度観たきりになっていたのですが、コレクターズ・エディション(数年前に一度アメリカで発売されたもので、もちろんすぐに発売中止!おそらく、もともとはコレクターが所有していたビデオからダビングしたと思われるDVDのようです。)がヤOー・オーOションで出品されていました。
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 おそらく元ネタはこのヴィデオ音源でしょうか。  即決で買ったは良いものの、現物を拝むまでは贋物の可能性もありますし、もしDVDがリージョン違いだったりすると、まったく無意味な産物と化してしまうので、実際にDVDプレーヤーに掛けるまでは結構ヒヤヒヤしておりました。  そして、とうとう来たこの瞬間、緊張と期待が半々の複雑な思いがありました。リンゴのドラムでおなじみの「The Beatles」の文字がアップになり、二ール・アスピナールやマル・エヴァンスが映りだした時には思わず「うぉーーーー!」と唸っていました。
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 「こりゃ ほんものだ!」「昔観たヤツだ!」という思いが湧き出し、25年前当時に一緒に観に行った友だちの顔を思い出しつつ、ニコニコしながら画面に釘付けになってしまいました。  印象として変わったのは昔観たほどには、彼らの人間関係の酷さが気にならなくなっていたことでした。彼らが映っているだけで、「何も言うなよ!もういいじゃないか!」というふうに過去のいざこざなど関係なしにフィルムに存在しているジョン・レノンポール・マッカートニージョージ・ハリスンリンゴ・スター4人のビートルズ・メンバーやオノ・ヨーコを眺めているだけで幸せになってしまったからです。  ジョンとポール、ポールとジョージのいざこざをいつまでも書き立てたり、マイケル・ジャクソン後の権利関係の複雑さやアラン・クラインらの利権がらみの欲得を云々するのは簡単であり、興味本位で捉えるには格好のネタかもしれません。  しかしながら2007年時点で、もう二人のメンバーがすでに亡くなっており、当時ポールの奥さんだったリンダ(彼女もヨーコさんと同じく、ファンの間では不人気でした。元彼女のジェーン・アッシャーのほうがたしかにチャーミングでした。)も亡くなった今となっては不毛な話題に終止符を打つ必要があるのではないでしょうか。  作品の中身自体については二年前の記事にも書いているので重複いたしません。ただその映像から受ける印象は先ほど書きましたとおりで、むしろ温かい目で彼らの崩壊を観ていられるようにすらなってきています。これは大成功を収めたスーパー・ヒーローが滅び行く歴史ドキュメンタリーなんでしょうね。  確かに哀しくなるシーンが多数あります。なかでもDVD化の最大の障壁になってしまった、ギター・プレイについてポールがごり押しでジョージを「指導」し、彼のリード・ギタリストとしてのプライドを傷つけてしまい、バンドそのものにジョージがやけっぱちになっていく様子とそれを不安げに見守るリンゴは有名なシーンでしょう。  ジョンとヨーコが一緒にいるだけでスタジオがどんよりと澱むような感覚は観た者しかわからないでしょう。それでもなお、これを観ることができるだけでも、「ビートルズの新作」を聴けないファンにとっては貴重な彼らの姿の一つに違いないというのも事実なのです。  『マックスウェルズ・シルバー・ハンマー』でハンマーの音を出すマル・エヴァンス、スタジオに呼ばれてニコニコしているビリー・プレストン、ちょっとだけ映るリンゴの元妻モーリンらを見るのもとても楽しい。  映画の序盤でグチャグチャだった『ドント・レット・ミー・ダウン』が形になって昇華していくルーフ・トップ・コンサートでの演奏(実際は映画ではこの「ライヴ」の音源はほとんど使われていないそうです。たしかにブートで聴いた時には歌いまわしや楽器の微妙なタイミングが映画とは違っているのを当時も感じていました。)はバンド・サウンドの仕上げ方や緊張感を分かりやすく語ってくれます。  大音響を出しているために、徐々にアップル・ビルに集まりだす群衆やライヴを阻止しようとする警官隊とのいざこざなどを捉えた映像は今見ると新鮮でした。  一日も早く歴史的価値のあるこの作品が正規ルートで流通し、『ア・ハード・デイズ・ナイト』『ヘルプ!』『イエロー・サブマリン』『マジカル・ミステリー・ツアー』そしてこの『レット・イット・ビー』がボックス・セットとなって、おまけが『ゲット・バック』のCDになり、買うか買わないかで悩みまくりたいものです。 総合評価 75点