良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『悪霊島』(1981)覚えているシーンは三つ。ビートルズ、犬がくわえた手、おしまさんの自慰!

 最初にこの映画を観たのは小学校6年生のときでした。CMでのキャッチ・コピー「鵺の鳴く夜はおそろしい…。」がかなりのインパクトがあり、角川宣伝戦略にまんまと乗せられて、近所の映画館まで行きました。  横溝正史原作映画では『犬神家の人々』『八つ墓村』なども見ましたが、小学生時代に見たこれらの映画は大人になってからの今になって見るよりも数段恐ろしく、トラウマになっているものもある。とくに『八つ墓村』CMでの「八つ墓村のたたりじゃあ~!」はとんでもなくビビラされた思い出があります。  ただこの映画でインパクトが強かったのは内容もさておき、サウンドトラックで使われていた音楽でした。それはビートルズの『ゲット・バック』『レット・イット・ビー』のきしくもラスト・アルバム『レット・イット・ビー』からのセレクトでした。
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 このアルバムから受ける印象は祭りの終わり、青春の終わりであり、収録曲のレベルは『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』『ゲット・バック』『レット・イット・ビー』『アクロス・ザ・ユニバース』『アイヴ・ガット・ア・フィーリング』などが入っていて、粒揃いの名曲が多いのだが、アルバムを全体通して聴いてみると何か暗くて冷たい印象がある。  映画でのビートルズ・ナンバーの立ち位置としてはさきほどの言いましたように、ひとつの時代、もしくは若者が若者でいられる時期が終わろうとしていることを象徴しているような感じでした。オープニングも1980年のジョン・レノンの死を伝えるニュース映像からスタートします。これは自分たちの時代の終焉を告げるイメージであろうか。  それはともあれ公開当時、つまりこれを観た当時はそんな深くまで考えずに、観終わった後にこの映画のサントラ・シングル盤である『レット・イット・ビー/ゲット・バック』を買いに行きました。このシングル盤はのちのちに大きな問題となり、じつは『レット・イット・ビー』の版権はクリアしていたものの、『ゲット・バック』の版権をクリアしていなかったそうなのです。
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 そのためDVD化の際には『ゲット・バック』『レット・イット・ビー』両方とも権利で折り合いがつかず、別人の別バージョンを流さざるを得ませんでした。もしこのことを知らずにこの映画をはじめて見た人は特に何の感慨も抱かずに普通の横溝正史原作の角川映画の一本としているのでしょうが、オリジナル版を観た者からするとこの音楽差し替えは許されるものではありません。  テレビ放送時(1983年か1984年かどちらか。)には普通にビートルズが歌っていました。レンタルがVHSだった頃にも懐かしくて借りてきました。そのときの音楽はまだビートルズだった気がします。そして今から7年くらい前にまた見たくなり、DVDへの転換期にもう一度見たときにびっくりしました。  なんじゃこりゃ~!  なんともふやけた声で歌われる『ゲット・バック』(演奏はビリー・プレストンなので、ビートルズとはまったく無関係というわけではありませんが…。)を聴いたときの脱力感、そしてなんだか原型を崩してしまっている『レット・イット・ビー』を聴いた日には思わずすぐにビートルズ本人の『ゲット・バック』『レット・イット・ビー』のシングル・テイクをお口直しのように聴きました。
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 ビートルズの音楽以外、映画で覚えていたのはいくつかの断片的な衝撃シーンで、ひとつは岸本加世子の腕を咥えた野犬が港まで走っていく気持ち悪い場面からのつながりで、多くの鵺が群れをなしている山小屋に行くと彼女が鳥たちについばまれて、無残な姿を晒しているところでした。  もうひとつは気が狂った岩下志麻が和室で自慰行為にふけるシーンでした。子どもの頃は何をやっているのかさっぱり分かりませんでしたが、中学生になった頃の放送で、これの意味が分かったときにはかなり驚きました。  記事を書くため、数年前に一度見たのですが、改変された音楽が酷かったためにゲンナリしてしまいました。気を取り直し、本日また見ていくと、はじめてこの映画の撮影が宮川一夫だったことに気づきました。  何気ないシーンを見ていても、かなり美意識のある構図や色使い、そしてカメラワークだったので、スタッフ・ロールを注目していましたところ、宮川一夫の名前が出てきたので、ちょっと嬉しくなりました。
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 ただ画としては綺麗なのですが、ストーリー展開と編集に無理があるのか、監督に熱意があまりなかったのか、まとまりがあまりないようにも感じます。横溝の映画作品というと猟奇的なイメージが強く、それが良い部分でもあり、悪い部分でもあり、好き嫌いがはっきりと分かれてしまうところですが、一般向けにするよりは突き抜けたマニア向けにするほうが結局は長い間に渡り愛されていくのではないか。  中途半端にしてしまうとどちらからも叩かれるので、きちんとした方針を決めてから撮影した方が良いように思います。超話題作であり、大量のTVスポットを投下する作品でもあるので、あまりグロテスクな表現は使いづらかったであろうし、製作側からのプレッシャーもあるのでしょう。  古尾谷をメインに持ってくるのであれば、ヒッピーだった彼が島で起こった事件をきっかけに大人に成長していく様子をより中心にして焦点を当てた方が分かりやすかったでしょう。そのためのビートルズだったのでしょうけど、猟奇と青春モノがどっちつかずになっていて、なんとも消化不良ではあります。
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 編集の悪さも目立つ作品でした。特に繋ぎが最悪で、頻繁に使用されるストップモーションはまるで無意味で、見難いだけでした。せっかく宮川によって撮られた綺麗な映像の価値を下げるような繋ぎは宝を無駄にしているようでした。  演技では鹿賀丈史古尾谷雅人、岸本加世子、室田日出男石橋蓮司伊丹十三佐分利信岩下志麻らの印象が強い。渥美清金田一(『八つ墓村』)がミスキャストでしたので、鹿賀が扮した金田一は優れているように思えました。  一人二役が二組ある作品で、岸本は双子の姉妹、また岩下志麻も分裂症の別人格との二役を演じています。岸本が同画面に出るときに合成が使われるのですが、どうも光学処理が上手く行っていないのか、片方が妙に色彩や目線が違い、気になってしまいました。
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 犬が腕を咥えて歩き回るというシーンは黒澤明監督の『用心棒』のオマージュでしょうし、鵺が岸本の死体をついばむというシーンももともとは『用心棒』のアイデアにあったようです。  横溝作品の映画化としては傑作とは言いかねる本作品ではありますが、子ども時代に観た映画というのは格別であり、強い印象を残してくれました。 総合評価 60点
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