良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ブレインデッド』(1992)あのピーター・ジャクソンが撮ったゾンビ映画!視聴困難!

 ニュージーランド生まれのピーター・ジャクソン監督の代表的な作品を一本挙げるように言われると、多くの人たちが思い出すのは三本に渡る一大サーガであるロード・オブ・ザ・リングのシリーズであり、リメイク版『キング・コング』のような3時間を超える大作ばかりでしょう。  しかし彼にも当然のことながら、有名になる前のキャリアが存在します。この『ブレインデッド』は彼が今日の成功を掴むきっかけとなった作品で、かなりクオリティの高いコメディ・ホラー映画です。  クエンティン・タランティーノばりのスプラッター描写が凄まじく、盛大な夏の花火大会のような血飛沫の連発となります。これだけ徹底してやりまくると、残酷と悪趣味を飛び越えて、むしろ笑えてきます。
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 今までのホラー映画で人間が化け物を介護していたシーンがあっただろうか。化け物同士のセックスやそれがもとでの妊娠・出産シーンがあっただろうか。  信じられないようなおバカなシーンの連発は確信犯的であり、深夜に友人たちとお酒を呑みながら見れば、間違いなく大受けするでしょうし、真っ昼間にひとりで見ても、あまりの馬鹿らしさに笑えてくるでしょう。  『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』に始まる、ゾンビ映画の系譜に繋がる一本です。名もない当時の彼に予算が潤沢にあったわけではないでしょうから、その不足分は見せ方で勝負する必要があります。
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 彼は溢れ出る才能と光るブラック・ジョークのセンスでこの問題をクリアし、後の機会を得る礎としました。しかしながら、現在この映画を見るのはかなり厳しい。  レンタル店でもビデオ時代にはわりとどこでも取り扱っていて、気楽に見ることが出来ました。しかし問題はそのあとで、いまから8年近く前から、レンタル店の在庫はVHSテープからDVDに変わりつつあり、ほとんどのお店はビデオをワゴン・セールに放り込んで、貴重なモノもガラクタも同じように処分されるという扱いを受けることになりました。  すぐにDVDが在庫棚に並べば、何の問題もなく、切り替えが自然に終わったはずでしたが、残念なことにこの『ブレイン・デッド』は二度とレンタル屋さんの店頭には並びませんでした。  DVDの発売自体は一度ありましたが、すぐに生産が中止され、今ではヤフオクで二万円もの高額で取り引きされている。ぼくはたまたまレンタル店のワゴン・セールでレンタル落ちのビデオ・テープを手に入れていましたので、たいして問題なく、この作品を見ることが出来ました。
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 よほど美品が欲しければ、DVDのオークションに参戦しても良いでしょうが、とりあえずどんなものか確認したいのであれば、VHSテープで十分でしょう。もちろん ピーター・ジャクソン監督のマニアであれば、DVDに大枚をはたいても良いでしょう。  ただ普通の映画ファンにとっては一本のDVDに二万円は大きすぎます。Amazonではビデオ・テープならば、だいたい3千円程度で取り引きされています。  ちなみにビデオには二種類のパッケージがあり、赤ちゃんゾンビと看護婦ゾンビ(母親)を写した映画のスチール写真を転用したものと綺麗な看護婦さんが椅子に縛られているイラストのものがあります。イラスト版の方からはまるでポルノのようないかがわしさをうかがえますが、映画に実際に出てくる看護婦さんは丸々と太ったオバチャンであり、ここでも笑える。
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 レンタル店でパッケージを見ただけでエロチックなホラーだと勘違いして借りてしまった人はお気の毒ではありますが、作品の出来は素晴らしく、結果的に損をするようなことはないでしょう。  ふつうスプラッター・ホラー映画を夜中に見たら、寝るときにちょっとは怖くなったりするものでしょうが、この映画を見終わってからではそんな気持ちにはなりにくい。  物語はスカル・アイランド、つまりキング・コングのホーム・タウンで幕を開ける。しかしまあ、ピーター・ジャクソンという人はどれほどキング・コングが好きなのだろうか。彼はぶれずにコングが撮れる日まで頑張り続けたのでしょう。
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 密猟者もしくは科学者という名の山師たちは数十年前にニューヨークで暴れたコングで懲りているはずなのに、またまたスカル島の危ない動物であるラット・モンキーを連れだそうとする。小さいから大丈夫だと思ったのだろうか。  ちなみにラット・モンキーはネズミと猿の混血(笑)だそうです。こいつに噛まれたら、ゾンビに変わるのだ。この危険な動物を連れ出したは良いが、ラット・モンキーに腕を噛まれた首謀者は現地人に腕を切られ、足を掻かれると足を切られ、首を怪我させられると首を刈られる。書いていくとシリアスに思えますが、見ていると笑ってしまいます。  こうして舞台は1950年代のニュージーランドに移りますが、この国の動物園にヤツは連れてこられていました。ただラット・モンキーが活躍するのは主人公の母親に噛みつくまでで、このあとこの希少種はオバハンに踏みつぶされて絶命してしまう。
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 動物愛護協会が抗議しそうな悪趣味な殺し方をしている。残虐シーンはあるにはありますが、前半はそうでもありません。後半になると、とんでもないスプラッター描写がずっと続きますし、肉片が飛び散るグロテスク極まりない映像のオン・パレードなのだけれど、気持ち悪いとかではなく、腹筋がプルプルするような笑いにしかなりません。  舞台設定がフィフティーズで、路面電車や大昔のアメ車がたくさん出てくるに及んではまるで『アメリカン・グラフィティ』を思い出させる。懐かしの飛行機や路面電車、主人公の家には分かり易い合成処理を施して、意図的にB級感を出しているのも楽しめます。
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 若い女ゾンビがハロウィンのカボチャか電球のように発光するのはあまりのバカバカしさに呆れかえります。地元民も大らかで、ゾンビと道ですれ違っても、見て見ぬフリをしています。  地元の教会の親父さんがゾンビを退治していくシーンも爆笑モノで(ブルース・リーチャック・ノリスのように強靭で鋭い!)、彼がゾンビに蹴りを入れるたびに腕、下半身、首と身体がバラバラに切断されていく演出はギャグ漫画のようです。  剥がれ落ちてくる肌を接着剤でとめようとしたり、カスタード・プリンの中に腐敗しかけた血がしたたり落ち、それに気づかずにプリンをすすり続けるオッサン(彼は前半に出てきて、ゾンビの血に感染していたので、サスペンス的には重要な意味を持つと思われたが、結局まったく現れませんでした。マクガフィンか?)が出てくるランチ・シーンは気持ち悪い。
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 後半はもうメチャクチャのスプラッター・パーティーとなり、下半身だけのゾンビ(Gパンが襲いかかってくるイメージ。)、内臓のゾンビ、赤ちゃんゾンビ、腕だけのゾンビ、顔半分だけのゾンビ(無数に蹴られて、ホッケーのパックのように床を滑り続ける!)、巨大ゾンビに喰われて、顔と背骨だけになっているゾンビ、そして主人公の母親の最終形態である巨大ゾンビが登場してくる頃にはすべてを受け入れてしまっている自分に気がつきます。  結局言いたかったのは母親からの自立、つまり乳離れなのでしょうか。巨大ゾンビになった母親はいったん主人公である息子を胎内に戻すことに成功するが、彼女が出来た主人公は母親に抵抗し、彼女からの自立を遂げる。  伝説的な芝刈り機で無数のゾンビたちをミンチにしてしまうシーンは映画のクライマックスです。夥しい鮮血が噴きまくり、肉や皮が切断されていくのですが、普通ならば吐き気を催す映像なのにむしろ爽快感すら漂うのは何故だろうか。
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 往年の映画のパロディもふんだんに盛り込まれ、墓場で化け物が大暴れしたり、パーティーが惨劇の舞台になったりとホラー映画のお約束の展開や設定に大笑いしてしまう。  過去作品からのパロディとしては『狼男』『サイコ』『キャリー』『戦艦ポチョムキン』『インディ・ジョーンズ』『スター・ウォーズ』『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』『バタリアン』『キングコング』『遊星からの物体X』などが次々にネタにされていく。  多くのホラー映画を見てきた人ほど笑える作品でした。なんだろう?この楽しさは。見事なまでのオゲレツでお馬鹿な映画でした。ピーター・ジャクソン監督自身にこの映画の続編を作って欲しい。そろそろお馬鹿映画を撮りたくなる時期ではないだろうか。 総合評価 80点
ブレインデッド [VHS]
松竹ホームビデオ
1995-01-21

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