良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『DAICONFILM版 帰ってきたウルトラマン』(1983)アマチュア時代の庵野秀明の才能!

 ふつう『帰ってきたウルトラマン』と言われれば、誰もが思い出すのは円谷プロ製作の特撮シリーズでしょう。しかしぼくが今回取り上げるのはDAICON FILM、つまりヱヴァンゲリヲンが大当たりした庵野秀明が仕切るガイナックスの前進となるこのプロダクションが仕上げた方の『帰ってきたウルトラマン』なのです。  このあまり知られていないアナログな特撮作品は完成後に庵野が有名になってから円谷の許可を得て、一時的な限定販売期間を過ぎてからはずっと封印されてしまいました。  当時発売されたDVDは高騰し、現在ヤフオクではスタート価格が最低一万円以上の高額になってしまっている。見所は特撮には不可欠のミニチュア・セットや本編の作り込みの見事な出来映えでしょう。
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 しかしながらこの作品は庵野が有名になる前の作品なので、予算がない状態での製作になります。このため彼らは紙を使って、つまり紙細工でコックピットなどの複雑なセットや街などのミニチュアを作り出しました。  その手腕とセンスは素晴らしく、モノ作りにかける熱意には脱帽するでしょう。作り手が子ども時代に見てきたであろう特撮作品への憧れとオマージュがそこかしこに見ることが出来ます。  テレビ・シリーズの一話分と同じの27分間に及ぶ、この作品の内容を見ていくと、前半部分のシリアスな本編パートの出来が素晴らしい。本家『帰ってきたウルトラマン』でムルチとかが出ていた頃の暗いムードを彷彿とさせる。
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 また本編シーンで繰り返し使われる逆光を取り込むショットからは明らかに実相寺昭雄の影響を感じます。それも『遊星から愛をこめて』の本編シーンでの演出を1983年の時点ではありますが、彼らが見ていたのは間違いない。  ただこの作品が正当に評価されにくいのはウルトラマンそのもののヴィジュアルにあります。MATハヤカワ隊員の変身シーンもただメガネを掛けるだけで、巨大化すると庵野に変わっているわけなのですが、ウルトラセブンがウルトラアイを装着する動作のパロディを大真面目にやってのけている。  しかし素晴らしすぎる前半から急展開を見せる後半の怪獣バグジュエルとの格闘シーンへの繋ぎになるのが、このメガネ装着シーンになっているので、以降作品は笑って良いのか、大真面目なのか、手探りで見ていかねばならなくなり、なんともいえない微妙なムードに包まれていく。  ウルトラマンのアクター・スーツのようなジャンパーに身を包んでいるのは庵野本人なのですが、彼はウルトラマンのマスクを被らずにメガネをかけた彼の素顔のまま、しかも上に着ているのがジャンパー、下はジーパンをはいていて怪獣と戦うのです。
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 見た目はピースの又吉かロッチの中岡のような感じでお世辞にもカッコいいとは言えません。スーパー・ヒーローとして大きくなっても、人間本来の資質は失うことはないという意思表示なのだろうか。  スーパー・ヒーローに変身してしまうと、どうしても変身前の人間のときのキャラクターとは別人格の正義と腕力だけのマッチョな存在に成り果ててしまいますので、それへのアンチ・テーゼなのでしょうか。  真面目に新しいヒーローの形を提示しているように思える。ただこの後半シーンがジョークとして作られていたとすれば、製作者の意図に反して見事にスベッてしまっている。本編の出来が本家よりも素晴らしいので、見ていた者が冗談を冗談として受け取らなかった。
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 冷静に見れば、洒落で作っているは明らかでしょう。あれだけ上出来の怪獣のアクター・スーツを製作できる彼らがわざわざ庵野が巨大化したというだけの状態で戦うなんてジョーク以外なにものでもない。  なかなか見ることが難しい作品ではありますが、類い希な才能を持っていた庵野の実力が垣間見える珍品と言えるのがこの『帰ってきたウルトラマン』なのです。  すぐに削除されてしまいますが、動画サイトではこの作品と製作風景を撮影した『メイキング・オブ・帰ってきたウルトラマン』を見ることが出来ますので、気が向いたら、探してみましょう。 総合評価 70点