良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『戦略大作戦』(1970)戦争映画としても、コメディとしても楽しめる。オッドボールが最高!

 まずはこの映画に出ている俳優たちが曲者揃いです。クリント・イーストウッドテリー・サヴァラスドナルド・サザーランドドン・リックルズ、キャロル・オコナー、カール・オットー・アルベルティらが画面いっぱいに躍動しています。  『線路は続くよどこまでも』や普段は呑気な感じの『リパブリック讃歌』が異化効果で異様に聞こえてしまうほど、容赦なく殺戮を続ける欲深部隊の活躍を描く。恐ろしく簡単かつ大量にドイツ側の死体の山が築かれていきますが、いっさいの感情移入をしていない。  反対に仲間の米兵が死んでいくときは未練がましく後ろを振り返っていく。明らかに生命の重さが米軍とドイツ軍で違うのは今となっては嫌な感情が湧き上がってきますが、1970年当時ではステレオタイプな描き方だったのでしょう。  今回の字幕版でも英語でしゃべっているセリフは翻訳されていましたが、ドイツ語で話しているシーンには字幕が全く出てこなかったりと徹底しています。彼らの言語は言葉ではないとでも言わんばかりで閉口します。
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 落ちこぼれの兵隊やくざたちは後ろめたい動機で進軍していきますが、常に味方の軍隊に邪魔をされたり、攻撃を受ける不合理さも魅力の一つでしょう。正義などは端っこに置き、ただただナチの金塊を奪い取りたいという邪な欲望のみで敵陣深く乗り込み、目標の銀行まで突っ走る。  勇気などはない。女か金でしか動かないのが人間の本性なのでしょう。結果としてドイツ軍を追っ払った後も民衆の歓迎などよりも金塊の奪取に懸命で上官が到着する前に遁走する。  本音で語る映画だからこそ、いつまでも名作として語り継がれるのでしょう。タイトルの『戦略大作戦』は看板に偽りありで、戦略はありません。オリジナルタイトルは『Kelly’s Heroes』で、ケリーの英雄たちという感じでしょうか。ケリーとはクリント・イーストウッドの役名です。  ただただ黄金を手に入れたいという金銭欲だけで行動しているので、むしろすっきりしていて、好感が持てる。真面目な戦争映画ファンが見れば、邪道の一言で片づけられるのでしょうが、妙な魅力を持っています。
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 クライマックスシーンも最高で、廃墟と化した田舎町での戦車同士の市街戦は後ろに回って攻撃したり、敵戦車隊長と密談し、金塊を少し分けてやるからタイガー戦車で銀行の扉を破壊してくれと頼んだりと破天荒かつえげつないほどリアリスト的な視点を味わえる展開に笑えてきます。  銀行からの略奪時のドイツ部隊への頼み方もふざけていて、クリント・イーストウッドテリー・サバラスドナルド・サザーランドの三人でタイガー(Tガー?)戦車の前に出て行きます。ちなみに“T”は重さの単位ではなく、チェコ製という意味だと秋山優花里がガルパンでは言っていました。  そういえば、むかしはF1のタイレルと言っていましたが、今はティレルと言うように、言い方は時代の変遷で変わってくるようです。  みずからを成功に導いたマカロニ・ウェスタンのパロディをここで持ってきます。風刺も効いていて、彼らの目的はただただ金銭欲を満たすためだけなのですが、それに便乗して司令官らがいっさいの戦闘に関わらなかったくせに手柄だけは持って行くのは醜悪です。
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 それでも兵隊やくざイーストウッドらからすれば、勲章などよりも欲しいのは永遠の輝きを持つ金だけしか信じられないという真理が現われています。  登場人物で出色なのはオッドボール軍曹を演じたドナルド・サザーランドでしょう。ヒッピー風のコミュニティを駐屯地内で作ったり、奇妙奇天烈な言動でテリー・サバラスらと対立もしますが、最後は仕事をやってのけます。  『ガールズ&パンツァー』でも頻繁にこの映画からのパロディが使われているので、今回再見しましたが、今回も楽しく見ることが出来ました。TSUTAYAさんにはなかったので、GEOさんで探し、ブルーレイを借りてきました。  異常に映像が綺麗で、逆に違和感がありました。汚いアナログ当時のままで十分です。映像が明るすぎて、なんだか変な感じでしたが、中身は変わるわけではないと言い聞かし、観ていました。
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 最近、TSUTAYAさんに映画版DVDの新作として並べられたことから再びハマったガルパンで、『八甲田山』や『二百三高地』などとともにしょっちゅう言及されていた戦争映画のひとつがこの『戦略大作戦』でした。  一年生部隊(うさぎさんチーム)がドイツ戦車相手に狭小路に追い込み、後ろに回り込んでから大砲をぶっぱなすその名も戦略大作戦や偵察活動に出た秋山が部隊名と所属を聞かれ、とっさに第六機甲師団、オッドボール三等軍曹と答える下りなどです。  あらためて確認したいと思い、近くのTSUTAYAさんに行きましたが取り扱いなしでしたのでもう一軒、すぐそばにあるGEOさんに向かいました。  ここでもDVDはありませんでしたが、Blu-ray版の在庫がありましたので、速攻で借りてきました。マカロニ・シーンはイーストウッド、サバラス、サザーランドの三名でふざけているのが表情からもバックでかかる音楽からも読み取れます。
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 演技面ではテリー・サバラスドナルド・サザーランド、そしてドイツSS将校役のカール・オットー・アルベルティが目立っていました。特にオッドボール軍曹を演じたドナルド・サザーランドの奇天烈な表情やイカレた行動が印象に残ります。  クリント・イーストウッドは能面のような感じで、あまり表情がなく、コメディをまじめに演じている感じが楽しかった。喜劇が不向きであると捉える人もいるでしょうが、あの不器用な感じがむしろ笑えます。  全編で戦車が動き回り、大砲を撃ちまくるのもこの映画の魅力の一つで、軍事マニアが見れば、十分に楽しめるでしょうし、ガルパンでこの作品が取り上げられたのも分かるような気がします。  味方の妨害で作戦が上手く進まなくなっていく場面が多く、やきもきしますが、実際に戦場では後ろから撃たれて死んだり、同士討ちで亡くなった方も多そうです。  軍需物資の横流しや強奪、そして略奪なども日常茶飯事だったでしょうし、強姦なども後を絶たなかったでしょう。東欧の紛争でも、敵国領土の若い女性を拉致し、強姦しまくり妊娠させたあとは中絶できない段階までになってから解放し、敵の子を育てさせるという鬼畜の行いが今でもされているそうです。
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 この映画では敵味方ともに簡単に死んでいきます。またそもそも敵地深くに侵攻していく目的が人民解放などではなく、ナチによって各地で略奪されてきたのであろう黄金をさらに強奪するという意図があります。  これは深読みすれば、ベトナム戦争への介入目的が民主主義を守るのではなく、軍事産業の活性化と資源確保が狙いだろうと風刺しているようにも思える。  製作されたのは1970年ですので、そういった穿った見方も出来そうですが、単純に兵隊やくざたちの欲の深さを笑い、将校たちのあくなき出世欲と名誉欲を笑うブラック・ユーモア作品として楽しみたい。  勝ちに行く戦争時にこういったコメディを公開できたアメリカは懐が深い。まあ、この頃はアメリカン・ニューシネマと呼ばれた作品群が好評だったので、シニカルな作風でも割りと受け入れられる要素があったのでしょう。
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 今回はBlu-rayを借りましたが、昔の映画を見るときは出来るだけDVDやVHSテープを選んでいます。戦争映画のように雰囲気を楽しみたい作品では特にVHSを探していますが他にも色々と理由があります。  鮮明な解像度が売りのBlu-rayだと映像が綺麗すぎたり、明るすぎたりして、見えなくて良いような細かいところまで写ってしまっているので何か印象が変わってしまいます。  後からの規制に従い、音声であったり、台詞やシーンがバッサリと編集されてしまうこともあります。特に多いのは残虐描写や性描写、放送禁止用語への行き過ぎた規制でしょう。  さらに気になるのが音楽の権利面で揉めた場合によくあるオリジナル音楽との差し替えで同曲をカバーしたり、酷いときには音楽そのものがカットされている改変もあります。
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 再録などはしないで欲しいと願っても叶わないのでしょうが、製作された時代の音でないと周りと合わないし、どうしてもDVD化されるときに大人の都合で挿入されてしまうカバーでは当時の臨場感は出ないのです。  それでもソフト化されるだけでマシですが、マシでしかなく、いわゆる完全版ではない。よく特別編と称して、都合が悪い部分を改編して、取って付けたようなシーンを入れて誤魔化す作品がありますが、オリジナルを見てきて、それを皆が評価したからこそ後世に残っているのであって、後世の世代にとって都合が悪いからと改変するのは理屈に合わない。  どうしても変更するときは特別編とか偉そうなタイトルをつけずに改変版と明記してリリースすべきでしょう。それしか見られないのであれば、それを見るので不都合な真実を隠さないで欲しい。
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 例えば解説書などがある場合にはどこを改変したかを書くべきです。購入した人を騙すようなやり口を続けるとしまいに誰も買わなくなるでしょう。  ブルーレイ版で気になったのは字幕で「くそったれ!」と出てくるシーンがあり、オリジナルの音声では明らかに「マザー・ファッカー!」と言いかけているのに音声が「マザー!」しか入っておらず、「ファッカー!」が聴き取れなくなっていました。  わが国でも規制が厳しくなる一方ですが、あちらもそういうふうになっているのかなあと愕然としました。それでも観ていて楽しく、使われる音楽も『リパブリック讃歌』や『線路は続くよどこまでも』など聞き覚えのある懐かしい曲がたくさん使われていますし、エンディングや挿入歌としても使われるテーマ曲『バーニング・ブリッジス』が楽しい。 総合評価 85点