『ソフィーの選択』(1982)やっと出た。やっと出た。待ちに待ってた。やっと出た!
今月のTSUTAYAさんの発掘コーナーにはついに『ソフィーの選択』が登場します。強い要望があったものの、日本でDVD化されたのはようやくのことなので楽しみにされている方も多いでしょう。発売は今年の夏くらいだったようですが、レンタルに並ぶのはビデオ時代以来久しぶりになります。
この企画の復刻リクエストの上位にずっと上がっていたもののなかなかソフト化されずに数年経っていましたので何か障害があったのでしょうか。まあ、それがクリアされての商品化ですのでTSUTAYAさんや日本側の交渉が粘り強かったのでしょう。
僕がこれを見たのは1980年代後半にテレビ放送がされたときが最初で、その後、レンタルビデオ時代に借りてみました。今現在所有しているのはたぶん2006年あたりにWOWOWで放映された時に録画しておいたDVDです。
この作品の印象としては回想シーンでの画面全体を覆うように靄がかった暗い色調が作品の時代背景の先行き不安な感覚を表現していたと思います。また戦後のアメリカを舞台にしていますので、戦勝国独特の明るい雰囲気との対比がよく出ているように思えました。
DVD化される際には製作側が頑張って鮮明にしすぎると良さが消えてしまいますのであまり明るい色にしないでほしい。戦争映画は薄暗いくらいでちょうどよい。
発売されたDVDやブルーレイの仕上がりを見たい気がしますが、今回はWOWOW放送をDVDに録画した分が残っていますのでそちらを見ながらの感想になります。
25年以上前にビデオを手に取ってから再見し、10年前に放送された分を録画したDVDを久しぶりに見ますので、覚えているのはメリル・ストリーブの泣き顔くらいです。彼女を泣き女優としてはじめて認識した作品でもあります。
映画館で初めて見たメリルは『クレイマー、クレイマー』でしたので泣き女優のイメージはありませんでしたが、今回の彼女のイメージが強すぎて、しばらくイメージが固定されてしまった時期がありました。
ナチに選別される前に自分が生んだ二人の子供のうちの一人を選ばなければならない過酷な状況、まだ幼いのに選ばれずに捨てられた子供のあまりにも過酷な運命を思うと戦慄が走ります。
今回、20年ぶりに再見しましたが、こんなにお昼のメロドラマみたいだったのかと驚きました。メリルを狙う小説家の視線がエロ目的であるのは明らかで、昔見た印象とはかなり違っていました。
メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、ピーター・マクニコルの三者が織りなす三角関係の様子はステレオタイプの恋愛模様に過ぎないのだが、抜群の安定感があるために飽きが来ない。
1949年生まれなので、公開当時のメリルは33歳です。愛によろめく移民の未亡人を演じるには最適の年齢で、ケヴィンがいない隙にピーターがどうにかなりそうな彼女を狙うのも頷けます。しかし一筋縄ではいかない彼女の素性を知れば知るほどアリ地獄のような複雑な人間関係に嵌りこんでいきます。
ストーリー展開は大人の三角関係を描いていて、関係性は子供っぽいところがあるケヴィン・クラインと彼に翻弄されながらも離れられないメリル・ストリーブ、彼らを見守る体を装いつつも、メリル・ストリーブへの恋心を持つ という有りがちな図式ではあります。
作品全体としては前半から中盤80分近くまでは三人組のラブ・ストーリーが描かれつつ、ナチや南部の人種偏見についてはサラッと語られる程度です。
それが崩れてくるのは二人が大喧嘩していったんピンクの宮殿を飛び出し、三人が離ればなれになってからで、ピーターがメリルとクラインの消息を追い、手掛かりを求めて二人の関係者に会うことで彼らの隠されていた秘密が明らかになってきます。
反ナチだと思わせてきた二人のうちのクラインが実は部屋中にヒトラーやナチの写真を飾っている異常者であること、そしてファイザーに勤める生物学者だと言うのが偽りであることが彼の兄から伝えられる。ついでに彼は精神分裂症であり、正常の時期と異常な時期が交互に来ることも教わる。
またメリル・ストリーブの父親は反ナチだったためにアウシュヴィッツに送られて殺害された、旦那と長男と長女の子供二人もそこで殺害されたと語っていたが、実は父親はナチ礼賛者だったが、学者だと言うだけで思想に関係なく殺されていたことが彼の元生徒の証言から明らかになる。
メリルも彼がナチ礼賛者であることは百も承知で、盗難騒ぎを起こして逮捕され、そのまま収容所に連行されるが、ドイツ語が堪能なことと美貌でルドルフ・ヘスに近づくと自分はナチ礼賛者であることを訴え、自分の子供の命乞いをする。
また子供たちもただ奪われていたというだけでなく、収容列車から降りた後、二人を抱えているところをナチに咎められ、二人のうちの一人を生かせてやるから、自分でどちらを生かすかをその場で決めるように“選択”を強要される。
このシーンをはじめて見たのは高校生くらいの頃でしたが、かなりショッキングな場面でした。どちらを選ぶかなどできないと抵抗していた彼女が最終的には「娘を連れて行って!」と幼い長女をナチに差し出します。
母親メリルから引き離されて泣き叫ぶ少女の声は忘れられない。これから起きることへの恐怖と母親に裏切られる絶望が同時に沸き上がっての絶叫はトラウマ必至の場面です。
メリルはピーターに告発をした後、アメリカ南部で彼と暮らす道をあきらめ、クラインのもとへ戻っていく。そしてピンクの宮殿(ピンクに塗られた集合住宅)の一室で青酸カリを使って心中を遂げる。これが最後のソフィーの“選択”です。
映画ではエンディングに別の音楽が当てられていますが、原作ではバッハのレコードが掛けられていたことが描写される。ちなみに『主よ 人の望みの喜びよ』だったそうです。
これらは後半のクライマックスになってようやく出てくるシーンなので150分をしっかり見続けてはじめてこの作品の重みに驚く構成になっています。前半のメロドラマに飽き飽きしたからといって、再生を止めずに最後まで付き合って見てください。
メンデルスゾーン『瞑想』などの名曲の数々が作品を彩り、深みを与えています。マービン・ハムリッシュも効果的な音楽をつけていて、より映画を魅力的にしています。
かなり長い作品なので、しかも陰鬱なテーマであるため途中で耐えられなくなってしまう方もいるでしょうが、なんとか頑張ってみましょう。それだけの価値は十分にあります。
総合評価 80点