良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『暗殺者の家』(1934) ヒッチコック監督によって、後にセルフ・リメイクされた傑作スリラー

 まだ監督としての名声を確立する前の作品であるために、予算があまり取れずにいた頃の作品。素晴らしい工夫は随所に見えますが、自分の思い通りには仕事が出来ていない印象はぬぐえません。

 今回のピーター・ローレは大ヒットですが、その他の役者の人選に関して強くそれを感じます。古い作品ということもあり、そこかしこに「かびくささ」も感じますが、画面を通してレベルの高さは既に現れています。

 またイギリス時代の大ヒット作品であり、『三十九夜』(1935)、『バルカン超特急』(1938)と並ぶ代表作でもあります。当時としては暗殺に始まり、誘拐、追跡、集団の銃撃戦、そして狙撃シーンなど観客を飽きさせない見所満載の贅沢な一本だったと思われます。

 作品への決定的な影響を与えたのはヒッチ先生自身よりも、むしろ悪党のボス役でヒッチ作品に初登場したピーター・ローレの持つ雰囲気と演技力でしょう。後の作品『間諜最後の日』(1936)でも出演しますが、この時ほどの輝きはありません。

 この作品での彼はまさに支配者であり、強さが前面に押し出されすぎており、他の俳優の個性が弱すぎることもありどこかバランスの悪さを感じます。ヒッチ先生も無理やり彼を引きずり出して、作品に出てもらっているほどのお気に入りだったためか、まるで彼こそがこの作品の主役であるような撮り方をしており、本筋からすると混乱しました。

 フリッツ・ラング監督のトーキー時代の傑作『M』(1931)でも明らかなように、悪人を演じさせれば彼は優秀でした。ただ全員が彼の引き立て役以上には目立っていないのが残念です。

 作品の展開のリズムがよく、小気味よく仕上がっています。後に見られるようなマニアックすぎるカメラワークも出てきません。ロイヤル・アルバート・ホールでのシンバルの音にまつわる暗殺シークエンスは秀逸な出来栄えで、流石と唸らせてくれました。

 ヒッチ先生も気に入っているのか、後年の『知りすぎた男』でもこのシーンはそのまま用いられていました。風光明媚なスイスをきっちりと律儀に作品に取り込むヒッチ先生の「観光趣味」は、ずっと後の『知り~』でもモロッコの風景を収めてくるように、彼の映画の雰囲気作りには欠かせないようです。敵のアジトから脱出する時に鳴らされる鐘の音も忘れがたいものです。

 ロー・アングルから捉えられるピーター・ローレの演技が、とても良い作品です。音の使い方、悪役の選択が見物です。ヒッチ先生の作品では良い悪役を得た時ほど、良い作品が生まれているように思います。

総合評価 74点暗殺者の家

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