良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『プリンス・オブ・シティー』(1981) 社会派シドニー・ルメット監督の佳作。ネタバレあり。

 『プリンス・オブ・シティー』は1981年製作のアメリカ作品。シドニー・ルメット監督の作品には、何故か縁があり、これまでにも『狼たちの午後』・『十二人の怒れる男』・『評決』・『オリエント急行殺人事件』・『セルピコ』などの代表作を、彼が撮った作品とは知らずに何本も見ていました。それらの全てが、何年経っても覚えている、とても印象に残る作品群でした。あとあと全てが彼の作品だと知ったときには本当に驚きました。

 

 その原因はおそらく彼の書いた脚本の持つ、現実を鋭くえぐるストーリー展開のためだと思います。彼の書くリアリズム溢れる物語、そして飾らない撮影こそが彼の作品の生命線であり、この脚本が崩れると、彼の作品からは何も生み出されなくなるでしょう。緊迫感溢れる展開はまさにルメット監督の真骨頂です。

 

 しっかりしている脚本を自身で書く彼としては、彼の個性が存分に発揮された良い作品だったのではないでしょうか。話のリズムや伏線の張りかた、さりげない登場人物の描き方などは大いに参考になることでしょう。ただ意外だったのは、彼が後にカサヴェデス監督の『グロリア』をリメイクしたことです。自分で良い作品を創れるのに、何故他人のそれも代表作のひとつを撮ろうと思ったのかが謎です。

 

 誰も勝者のいない、救われない作品を撮る事の多い監督なのですが、テンポが素晴らしく、それでいてクールに淡々と対象を見つめ続けるカメラにより、観客による登場人物への過度の感情移入をもあえて避けているような意図を感じました。170分近い作品であり、テーマも汚職、懺悔、改心、友情、自己保身、そして家族の崩壊がシリアスに描かれています。かなり重厚なドラマを飽きさせることもなく、ここまでテンポよく編集したことにも感心しました。

 

 演技者としては、トリート・ウィリアムスの熱演が光る素晴らしい作品でもあります。特に、彼の情けなさと怒りがない交ぜとなった表情などの演技に感心しました。彼だけでなく、出てくる俳優全てが性格俳優であり、各々が持ち味を存分に発揮しているためか、登場人物が皆、とても活き活きしていたのが印象に残っています。つまり良い脚本だということです。

 

 自分がまずい立場に追い込まれると、あっさりと仲間を裏切る人間の弱さと、それを強要する検事達の非情さ。仲間でパーティーをしていたのが、一人減り、二人減りしていき、最後は検察の保護の中でしか生きられなくなったトリートは何を守り、何を失ったのでしょう。きれいごとではない人生の真実が描かれています。

 

 総合評価 72点