良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ペギー・スーの結婚』(1986) コッポラ監督が撮っていた、結構良いコメディー映画。ネタバレあり。

 フランシス・フォード・コッポラ監督というと『ゴッド・ファーザー』シリーズや『地獄の黙示録』などの大作のイメージが強すぎるためか、案外とっつきにくく思っている方もいるかもしれません。そしてそのために一本も見ていない方もいるかもしれません。

 

 実態としては大作も撮る監督ですが、合間、合間に撮っている作品こそ、実は彼が撮りたい映画なのかもしれないのです。彼が好き勝手に撮った作品には「大ハズレ」が結構頻繁にあり、「これが本当にコッポラ監督なのか?」という物も少なからずあります。しかし周りの迷惑を考えない、この失敗を恐れない姿勢こそが、コッポラ監督の真骨頂なのです。

 

 映画界の冒険王という称号を与えたい監督さんです。コッポラ監督に出来て、スピルバーグ監督には出来ないこと、それが冒険と失敗です。大当たりか、大失敗か。ばくち打ち(映画会社)が乗ってくる企画を出せば、彼の勝ちなのです。興行的に当たろうが、こけようがお構いなしの「活動写真一代男」の生き様は見ていて爽快です。

 

 さて本題に入ります。これはコッポラ監督としては久しぶりに、リラックスして撮られた作品であり、大作を見慣れた人が見ると、コッポラ作品として物足りなさも残るのは否めない。

 

 それでもコメディとしての出来栄えはよく、コッポラの新境地を見た思いがした作品です。公開当初の宣伝が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の女性版という最低のやり方であったため、キワモノ及び二番煎じの印象を与えてしまい、当時はまったく人々の話に上ることもなく静かに消えてしまっていました。

 

 個人的にも全く見る機会が無かった作品ですが(レンタル店ではありましたが)、「スカパー」にて放映されたのを機に見てみると、意外に良くできていたので驚きました。ものの判っていない間の抜けた大人が宣伝を作ると、良い作品も偏見と共に「お蔵入り」してしまうことが解ります。

 

 「現在」に問題を抱えるペギーが同窓会での転倒をきっかけに過去にタイム・スリップしてしまい「過去」をもう一度生き直すと言う、三〇代以降の全ての人間が一度はやって見たいと思うことを映画で本当にやってしまうという作品です。(実際には「タイム・スリップ」ではなく転倒した後に「気絶」してそのまま意識不明の状態で自分の無意識の中で旅をしていたということになります。

 

 真剣に生きて、生き直そうとしているペギーの様子はいじらしいものがあります。若い頃、特にティーンエイジャーのときには煩わしいだけだった家族や学校や友達の意味と大切さが痛いほど判っている四十代の彼女には、全てのことが新鮮でかけがえの無い素晴らしいものに変わっています。

 

 当時、三十代の立派なおばさんだっただろうキャスリン・ターナーがどうしてもティーンには見えなかったために感情移入できにくいので、なかなか評価しづらいのですが、「女」という記号だと思えば問題は解決できます。

 

 その昔、杉村春子さんは七十代の時に舞台で幼少期から老婆までを演じましたので、それと同じことです。また若き日のニコラス・ケイジの「おばか」ぶりは徹底的で、はやくものちのちの「役者馬鹿」につながっていくのが予想されます。また彼の頭のリーゼント!!には脱帽してしまうのは間違いない。昔はふさふさしていて良かったのですね。

 

 なぜコッポラ監督がこれを引き受けたのだろうか。時期的に見るとこの作品の前は『地獄の黙示録』などを筆頭に莫大な借金を背負い、『ランブル・フィッシュ』、『コットン・クラブ』と立て続けに「こけた」ため、仕方なく撮ったというのが真相ではないでしょうか。

 

 ただ力が抜けている分、普段の力みが無く自然な形で撮影できたのだと思われます。ところどころに彼のこだわりが見え隠れしています。特に「おじいさんの家」のシーンでの夕日と彼の家のショットはとても美しく、僕は独りで「これがコッポラだ!」と納得して見ていました。照明もいかにも彼らしさが出ています。

 

 『ペギー・スー』の歌がかかっていますが歌詞の「PEGGIE SUE GOT MARRIED LONG AGO」の部分が笑えました。彼女は「未来」で結婚するのに「昔、結婚してしまった」というのがなんだか面白さを感じました。

 

 そのほかにもニコラスのハーモニーも上手でした。アメリカが一番良かったときの残像とヒッピー以降の病んだアメリカがちょうど入れ替わる境目の様子が良く出ています。

 

 どうしても、この作品との比較対象となるのは、彼自身の偉大な作品群となりますが、テーマは違いこそすれ、彼の映像のスタイルというか美意識はしっかりとこの作品にも息づいています。ただ良質の「コメディ」であることに疑いの余地はありませんが「最高」ではありません。

 

 良質のコメディであり、彼のスタイルも出てはいますが、いかんせんそれまでの彼の作品の神業のような出来栄えからすると何段も落ちます。ともあれ、コッポラ監督ファンかニコラス・ケイジ・ファンには必見です。

総合評価  71点

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