良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『下妻物語』(2003)フカキョンとアンナの、強力2トップは予想以上の出来栄えでした。ネタバレあり。

 中島哲也監督による、深田恭子土屋アンナの魅力を全面に押し出した作品だが、単なるアイドル映画にはない、監督その他の人々の作品に懸けるやる気を感じる好作品です。田舎に住んではいるが自分の世界観をしっかり持っている女の子が、不良少女と出会い反発しながら徐々に親友となり、ピンチを切り抜けていくという青春映画としてはありふれた展開です。

 では何が違うのか。 深田のモノローグの語り口とフラッシュバックで始まるオープニングのアイデアが良く、(しかもそれはストーリー上、時間経過のクライマックスの少し手前のプロットから始まっているために、)見ている人にはクライマックスとなるラストシーンの手前で、一度それまでのシーン展開を瞬時におさらいして、オープニングのシーンを再び楽しめるという、とても凝った作り方をしています。

 深田恭子の等身大と思われる魅力あふれる演技がとても良く、彼女の可愛らしさと、見た目とは裏腹のずる賢さとマイペース振りが見事に表現されています。今まで見てきた彼女の中では、最高の出来です。アンナに蹴りを入れられたり、頭突きをかまされたりしても普通に彼女と接しているのは、半端な子には出来ない芸当なので、設定どおり姿は「ロリロリ」でも、中身は「尼の子(兵庫県尼崎では、出身者は自分のことをそう呼びます。)」です。

  また助演となる土屋アンナの素晴らしさが相乗効果を引き出していて、この映画をよりいっそう魅力のある作品にしています。彼女の自然体の演技は、下手な役者の数倍のリアリティを持っています。安部サダヲ・篠原涼子その他の俳優陣もこの物語世界にしっかりはまり込んでいます。

 自然体でみなを演技させることが、最大の効果と魅力を生み出しています。「ロリータ・ファッション」と「特攻服」という対比では深田さんが「女の子」で土屋さんが「男の子」ですが、中身は真逆であることがとても興味深く感じて見ていました。そして二人を結びつけた偽物の「ヴェルサーチ」には爆笑しました。

 僕は関西在住なので、実際にこのような贋物は数多く、尼崎・鶴橋・新世界・千林で見ました。尼崎の三和商店街はみんなが贋物とわかっていても、こだわりなく普通に買ってしまう土地柄なので、劇中の描写は、事実そのままなので、全く抵抗がありませんでした。

 最近千林で見たものの中では、「PUMA」に似たデザイン「PANCH」というパチ物が堂々と販売され(マークはナイキにも似ていました)、じいちゃんが何気なく着ていました。それはともかく、こうして見ると若い女の子同士らしく「服」というものがこの作品での「媒体」として展開されていたように思いました。

 屋外、言い換えると田んぼの横でのシーンの眩しいばかりの太陽の明るさと、家にはいった時のなんともいえない、じめじめした暗さとの差が対照的でした。そして反対に東京のシーンでの室内の明るさと清潔感、屋外での曇った空との対比もまた田舎のシーンとの対応で撮られたのでしょう。

 アンナを助けに行くときのあぜ道を走る原付の疾走感!と、不動の大仏様との対比が最高でした。原付の軽い爆音が心地よい。オープニングの田んぼ道と大仏は最高です。「田舎」と「都会」、「ロリータ」と「特攻」、「両親」のある家庭と「片親」の家庭、などなど対比させてキャラを立てていくやり方によりとても判りやすく作られている。

 青春物というくくりで見るのかコメディで見るのか、はたまたアイドル物として見るのかで迷いますがこの三ジャンルの全てに当てはめても、質の高い作品であることは間違いありません。近頃の女優は蹴られたり、頭突きされたりして大変です。

 そういう作品に対して前向きに取り組んでいる姿勢がはっきりと伝わってきて好感が持てる作品です。ただ、TVのような「テロップ」は最低なので止めて欲しかった。

総合評価 78点 下妻物語 スペシャル・エディション 〈2枚組〉

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