良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『東京流れ者』(1966) 鈴木清順監督の映像センスが冴え渡る、快心作。

 1966年に製作された、渡哲也主演のヤクザ・アクション・歌謡映画であり、鈴木清順監督がまだ日活に所属していた頃に撮られたもののひとつです。海外に多くのファンを持つ、鈴木清順監督作品のなかでも、とりわけ人気が高いと言われているのが、この作品と『関東無宿』のようです。たしかにこれを見る者は、彼らしい奇抜で、独特な「清順ワールド」的な映像美を十分に堪能できます。  オープニングでの、モノクロ・シーンを見た時には、まさかこの作品があのようなシュールな感覚を持つ、豊かな色彩に満ちた作品になろうとは思ってもいませんでした。原色に彩られた背景、環境、小道具などが清順監督と木村威夫美術監督にかかると、ヌーヴェルヴァーグも真っ青の美しいフィルムに仕上がりました。  カメラの動き自体はむしろ抑制が効いていて、奇抜で斬新なイメージを持たれがちな監督ではありますが、腰を落ち着けて撮影しているように思えます。物語とともにカメラを動かして行きます。けっして、その反対ではありません。洒落っ気を感じるカメラでした。  優れているのは背景で、まるで劇空間のように、背景を赤、黒、黄色、緑、ピンク、灰色に染めつくし、舞台上でのアクションを構成していきます。銃撃戦のさなかに、女が撃たれた時、白かった窓が、瞬時に照明効果により、真紅に変わる演出には打ちのめされました。リアルを追求するのも映画ではありますが、娯楽に徹するのも映画であることをあらためて実感させられました。映画美が存在しているのです。  彼の色彩感覚を見ているだけでも、時間を忘れてしまいます。特に赤と白が効果的に使われていて、赤がこの作品で示すのは「死」であり、「危険」のサインでもあります。白は純粋であると同時に孤独を表すようでした。  渡哲也を主役に迎え、デビュー直後だった、彼の溌剌とした若さと個性を活かして構成した、クライマックスシーンでの銃撃戦はまるで西部劇の早撃ちを思い出させました。このシーンでの赤と黒を中心にした舞台装置も秀逸で、これが本当にヤクザ映画なのか、歌謡映画なのかと混乱するほどの出来栄えの見事さなのです。理屈抜きで綺麗です。  鈴木清順監督が持つ、独特の色彩感覚へのこだわりと幾何学的な図形のイメージが見る者を刺激する、心理学的に見ても、面白い要素を多く、作品に盛り込んだ、シュール・レアリズムかドイツ表現主義の作品を見ているようでした。わが国にも、こんな素晴らしい映画を作り出せた監督がまだ生き残っている。  ヤクザ映画といって、敬遠する方も多いかと思いますが、ヌーヴェル・ヴァーグ作品にも勝るとも劣らない魅力と美しさを兼ね備えた、珍しい作品ですので、チャレンジして欲しい。清順監督はきっと期待に応えてくれるはずです。それにこの作品は渡哲也歌謡ショーの色合いも強く出ています。  清順作品としては他に『関東無宿』、『8時間の恐怖』、『暗黒街の美女』、『悪魔の街』、『殺しの烙印』、『河内カルメン』なども、合わせて見る機会があれば良いのですが、ビデオ・フォーマットの頃は、なかなかレンタル店でも置いてないのが残念でした。  しかし時代は変わるもので、彼のDVDが徐々にレンタル店でも置かれるようになりました。せっかく外国人が評価しているものを日本人が知らないというのは情けない限りです。『夢二』や『ツィゴイネルワイゼン』などもとても綺麗な写真です。  邦画を見ましょう。自分の目で見て確かめましょう。「つまんない」と言っている人たちのほとんどが、まともな論拠を示していません。個人的には、何十本でも世間に評価されていなくても、大好きな映画が数多くあります。  反対に、名作と言われているものでも、自分には響かないものも多々あります。自分の感覚が第一だと思います。たとえ、みんなが「つまんない」と言っても、自分が楽しければ、それは良い映画なのですから。 総合評価 74点 東京流れ者
東京流れ者 [DVD]