『大怪獣ガメラ』(1965)東宝のトカゲのでっかいのと、人気を二分した大亀のお話。
大映が放った、大怪獣ガメラ・シリーズの記念すべき第一作目がこの『大怪獣ガメラ』です。東宝出身の大怪獣で、1954年にデビューして以来、超人気スターであり続ける先輩ゴジラに続けとばかりに、10年以上の歳月も遅れてデビューしたのが大映の大亀スター、ガメラです。監督には湯浅憲明監督が起用されました。出演には船越英二、左卜全らが顔を出しています。卜前さんは相変わらず、良い味を出しています。
子供の頃には怪獣しか目が行かないために、お話の「あら」に気付きませんでしたが、中学か、高校の頃に懐かしくて見た時に、あまりのいい加減さに、ひっくり返りそうになりました。出だしは『遊星よりの物体X』のパロディのようでもあり、原爆で目覚めるという設定は『ゴジラ』そのままの有様でした。
では何故これほどまでに人気を保ち続けられたのか。『機動戦士 ガンダム』は今でも人気がありますが、『伝説巨人 イデオン』は消えてしまいました。ビートルズは不滅ですが、モンキーズは破滅しました。仮面ライダーといえば、1号、2号、V3であり、アマゾンライダーではない。ウルトラマンは兄弟が大勢いるが、ミラーマンには友達もいない。
いったい何故、ガメラは生き続けられたのか。ゴジラは1984年に『ゴジラ』で復活し、以降続編が作られましたが、ガメラは一足早い1980年にマッハ文朱にたぶらかされて、ちょっとだけ出てきましたが、大恥をかいて活動休止に追い込まれました。
誰がいったい彼を登場させ、大恥をかかせたのか。第一ガメラ・シリーズの中では、一番まともなのが、この作品です。しかし、キャラクターデザインの優秀さ以外に、優れている点が何かあるのだろうか。
空を飛ぶ亀、しかも口からも、手足からも火を吹きながら、円盤のように飛び去っていく、シュールなかっこ良さは、へドラとの戦いで、東宝のスターが口から火を吹いて、後ろ向きに飛んでいった時の、まるでタツノオトシゴのようなダサさに比べても、役者としての格が違う。
あの飛行シーンだけでも、彼の素晴らしさは伝わるとは思います。彼の最大の悩みと伸び悩みの原因は、製作者(会社関係の事です。湯浅監督や特撮スタッフはよくやったと思います。)と、ライバル(ましなのはギャオス、ギロンくらい)がショボすぎたからなのです。
まず脚本が酷い。あの子供がいなかったなら、あのカップルだけで展開させていったならば、かなり芝居としてもレベルが上がったかもしれません。そして頭の良い博士と自衛隊の立てた作戦が、「亀をひっくり返す」作戦と「ガメラホイホイ(でっかいロケット!ガメラは60Mもあるのに!)」作戦の二つのみなんて、あまりにも頭が悪すぎる。一応、「ひっくり返し」作戦時に冷凍爆弾が使われます。
東宝の自衛隊は対G作戦をいろいろ考えているし、民間人の博士もオキシジェン・デストロイヤーなどという必殺兵器を作れるのです。何も考えていない大映自衛隊はどうしようもない。
また、プロレスでもそうですが、悪役との戦い(フレッド・ブラッシー、ブッチャー、タイガー・ジェット・シン)や遺恨試合(猪木対大木、橋本対小川、藤波対長州、前田対佐山など)には観客も燃え方が違うのですが、対戦相手があまりにも弱すぎると、興行が盛り上がらない。
その点、東宝のスターは仲間にも恵まれ、かっこ良いラドン、かわいいモスラ、渋いアンギラスなどを従え、子供まで作ってしまいました。また、仲が悪い喧嘩友達にも、ゴジラよりも派手で、かっこ良いヤクザの大親分のようなキング・ギドラ、クールなメカ・ゴジラ、殺し屋のようなガイガン、外人のキングコングというそうそうたるメンバーがいたおかげで、何試合でもマッチメイクできます。
シングル・マッチ(ゴジラ対OOのような奴)、タッグ・マッチ(『怪獣大戦争』、『三大怪獣 史上最大の決戦』など)、バトルロイヤル(『怪獣総進撃』、『ゴジラ ファイナルウォーズ』など)、と何でもござれです。子供の教育(『ゴジラの息子』)までやっています。
かわいそうなガメラは設定も、する事もゴジラと一緒です。原爆で目覚め、子供には弱く、何故か日本を襲い、名所旧跡が大好きで、観光は欠かさない。ゴジラも必ず話題の場所へ足を運びますが、ガメラも空を飛べるという利点を活かし、エジプト、巴里、中国を旅してきます。見聞はガメラの方が幅広そうです。
まあ、半分ふざけて書いてはいますが、僕はゴジラもガメラも、ともに大好きなスターです。1984年以降の、ゴジラ・シリーズには全部足を運びましたし、平成ガメラシリーズにも当然のように行きました。
ゴジラは1954年の第一作目を超えるものは残念ながら、ただの一本も作られてはいません。しかし、第一シリーズがまるでダメだったガメラに関しては、むしろ平成シリーズの方が、ストーリー的にも特撮の意気込みとしても完全に上回っています。
これは珍しい例ではないでしょうか。オリジナルを超える事はほとんど不可能な映画界において、それを超えてしまったのです。出来の悪い親から、孝行息子が育ったような感覚があります。ゴジラは反対に敵がどんどんショボくなり、興味あるカードが少なくなっています。がんばれ、ゴジラ!がんばれ、ガメラ!と心から言ってあげたい。ゴジラは52歳、ガメラは41歳です。
ちなみに大映は1966年には『大魔神』を登場させますが、彼も短命に終わり、僅か3作品に出演したのみで、引退しました。野球で一年だけ投げまくり、壊れていく投手のようでした。
総合評価 58点
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