良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)ガイラがとにかく恐い!気持ち悪い!

 世界に誇る、東宝特撮映画の黄金の四人、田中友幸(製作)、円谷英二(特撮)、伊福部昭(音楽)、そして本田猪四郎(監督)が揃った『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』は『ゴジラ』をはじめとする東宝特撮映画史上でもかなり異色の作品です。ヒロインにも東宝特撮映画には欠かせない水野久美を迎えて、万全の体制をとっています。  <以下ネタバレがありますので、未見の方はご注意ください。>  ここでは前作『フランケンシュタイン対地底怪獣』でオオダコとの格闘の後、湖に転落して、その後生死が分からなかったフランケンが再登場します。あんなにでっかいのが、水面に水死体として上がらなければ、ふつう探しますが、誰もそうはしなかったようです。  フランケンは、今回しかも一人ではなく、二人現れるのがミソです。山の中で秘かに生きている「サンダ」は前作で水野久美さま(何故か前作と今作で役柄の苗字(戸川)は同じですが、名前が違います。改名したんですかね?)に育てられたフランケンです。  彼の性格は前作同様、温和でおとなしい。前作と違って貧弱な二の腕はブルー・ワーカーで鍛えたように筋肉モリモリになっていて、顔付きも賢者のような風格すら漂います。雪男伝説も加味されたようなシークエンスも用意されています。  かたや、オオダコとの戦闘からフランケンの細胞が海に流れ着き、海で細胞分裂を繰り返し、巨大に育ったフランケンの分身が「ガイラ」です。この作品の悪役ガイラは子供向け怪獣映画ではあり得ないほど恐ろしいキャラクターで、生物的な本能そのままに生きています。このガイラこそが主役といっても過言ではない。  サンダもガイラも同じ遺伝子を持ち、特にガイラは現在で言うところのクローン・フランケンです。60年代に既にクローンを連想させる話を展開させていった本多監督の着眼点が素晴らしい。ただの子供向けにしたくなかった意気込みを感じます。  『ゴジラビオランテ』(1988)では動物ゴジラと植物ゴジラビオランテ)の壮絶な戦いを描き、平成シリーズの中では最高傑作といってよい出来栄えでしたが、この作品ではその20年先をいっていました。  同じ人間の中にある二面性の恐ろしさを扱った映画には古くは『ジキル博士とハイド氏』がありますが、あれでは交互に一人の人格が肉体を支配する状態でした。この作品ではより分かりやすく、二つに分裂しています。  完全に同じ遺伝子を持つ、サンダとガイラが何故全く違う行動と性格を持つのかは大きな謎ではありますが、育った環境により違いが出るというのは怪獣映画であることを抜きにして考えても、とても興味深い。  悪役ガイラはまさにこの映画の主人公です。冒頭、海中からの登場シーンから不気味で、暗闇の嵐の中で、前作からの因縁の相手「オオダコ」をまずは簡単にKOしたあと、船の乗組員をムシャムシャ喰らいます。  つぎに沢村いき雄が演じる漁師たちを鷲掴みにして、旨そうに喰らいます。彼らが喰われる前の海面下にガイラが潜っていて、漁師たちが海面の様子を探ると海中のガイラと目と目が合うシーンが一番恐ろしい。  その後上陸してからも、空港や繁華街で次々に人間を鷲掴みにしては美味そうに喰い尽す描写が多く、かなり気持ち悪く思われる方も多いでしょう。ただ、造形がフランケンというよりは海坊主か海猿といってもよいようなルックスでした。  彼がやることも蛸退治や、ビルの一室を覗き込んで美女を捕獲したりとほとんど一緒で、違いとしては高いところに登らなかった事と人間食いくらいでしょう。とにかく強烈な印象を我々に残してくれるのは水野久美でも、サンダでもなく、ガイラでした。  音楽がまた優れていて、『ゴジラ』でもおなじみの伊福部ワールドがここでも前面に押し出され、作品を盛り上げています。『自衛隊のテーマ』が曲調を少し変えて演奏されていたりして、東宝特撮ファンにはたまらない嬉しさがあります。  伊福部音楽はなぜこんなに怪獣映画と相性が良いのか、本当に不思議なくらいよくマッチしています。この作品ではありませんが、キング・ギドラがはじめて姿を現すときの風変わりで気持ち悪い音楽も大変強い印象を残しています。  映画的に他に優れているのは、湖でカップルがデートしている様子がインサートされた時、前半部分で漁船の乗組員がガイラに喰われるのを見ている観客は「またガイラの出番だ」、とばかり身構えていると、結局何もおこらず次の場面に移っていくというのがサスペンス的場面を作り出しています。結構細かい芸も披露しています。  ラストシーンも唐突で、前作と同じように、いきなり終わりを迎えるスタイルをとっていて、火の海の中で戦い、途中で意味もなく水野久美の映像が挿入されるところも同じで、前作の焼き直しを見ている気分でした。  歴史に埋もれてしまっている感のあるこの作品ですが、見るべき個性的な部分も多く、レンタル屋で、もし運良く見かけられれば、「即借り」をおススメいたします。ビデオだとかなり古くなっているだろうとは思いますが、案外ほとんど借りられていないため、結構綺麗に映ります。  いまちょうどDVD化の真っ最中なので、古くて人気のない作品からどんどん店頭から消えていっているので、これにかかわらず、気になるものはすぐ借りた方がいいですね。多分、DVD化されても置かれる事のない作品ばかりだと思います。 総合評価 78点 フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ
フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ [DVD]