良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『素晴らしき哉、人生!』(1946)毎年必ず見る大切な映画の一本です。どっぷり浸りましょう。

 作品から受けるのは「希望を捨てるな!君を必要としている人々が必ずいるのだ!」という単純だが、もっとも心に響く力強いメッセージである。「生きねばいけない!」といわれるよりも「君が必要なんだ!」と言われるほうがどれだけ力強く、傷ついた人を勇気付けられるかはすぐに分かるはずです。  何千本と映画を見ていくと、ついつい展開を予想してしまったり、芝居を予想したり、撮影技法に不満を感じたりと、どうしても斜に構えて作品を見る癖のついてしまっている三十代後半としましては、なかなか何も考えずに、一本の作品に没頭するのが年々難しくなってきているのですが、これはいまでも素直に没頭できる数少ない作品のひとつです。  本国アメリカではクリスマス・シーズンに見たい映画として、毎年必ずどこかのテレビで放映されているそうですが、見ていただくとその理由がしっかりと解る作品です。なかなか感動しますとか、素直に言えなくなっている自分でも(実際、本ブログ中でも感動したなどと書いたことはただの一度もない)、これに対して、いちゃもんを付けるほどひねくれてはいません。  人間関係に疲れ切っている時、仕事で失敗して辛い時、悩んでいる時、へこんでいる時に、この『素晴らしき哉、人生!』を見ていると、なんだか元気がわいてきて(まるでビートルズの『レットイットビー』の歌詞みたい)、そして明日また、がんばろうという前向きな気持ちにさせてくれるとても素敵な作品です。  フランク・キャプラ監督の人間に向ける優しさがストーリーだけではなく、カメラの視線にも全面に反映されていて、彼の優しさを見事に体現したジェームス・スチュアートの好演もあり、見ているだけで心が洗われていく奇跡の一本です。  フランク・キャプラ監督というと『オペラ・ハット』あたりから映画史に残る成功を収め、『或る夜の出来事』(1934)ではコロムビアに会社史上初のオスカーをもたらした最大の功労者です。社長のハリー・コーンとは相性が良くなかったようですが、コーンも一流の経営者なので、好き嫌いでビジネスはしません。  その後もコロムビアでは1939年の『スミス都へ行く』まで、数々の素晴らしい作品を発表し続けた彼はハリウッドに大きく貢献した監督と言えるでしょう。ちなみにこの『素晴らしき哉、人生!』はRKOで公開されています。  出演者はこの作品での高評価によって不動の地位を築いたジェームズ・スチュワートが主演し、妻役を射止めたドナ・リードも好演し、とぼけた二級天使役のヘンリー・トラヴァースが印象に残る。  嫌われ役という損な役回りではありましたが、名優ライオネル・バリモアが楽しそうにワル役を演じています。悪役が良いと作品が引き立ちますが、この作品でのバリモアも例外ではない。見事に嫌な人を演じていました。ディミトリ・ティオムキンが付けた音楽も効果的で、クライマックスでの『蛍の光』シークエンスの素晴らしさは見た人しか分かりません。    天使の会話を星同士で済ませてしまう力技、B級映画のような天使の扮装とカッコ悪さには思わず笑いますが、良いアクセントにはなっている。現実の世界と仮定の世界が同じように描かれているのは素晴らしい演出です。  仮定の世界をその見え方までも劇的に変えてしまっては、あまりにも嘘っぽくなってしまう。そのように観客に思われないギリギリの線で、観客を引き込むには少しだけ違う世界を見せる必要があるように思えるので、この演出は成功でしょう。  必ずほかの誰かに何らかの影響を与えているのが人生なんですね。これからも年一回は必ず見て、何度も元気と勇気をもらおうと思います。きっと明日は良い日になりますよ。『サニーサイド・オブ・ザ・ストリート』を歩いていきましょう。『モダン・タイムズ』のラストシーンでのチャーリーとポーレット・ゴダートのように。 総合評価 100点 素晴らしき哉、人生!
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