良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『アバター』(2009)映画の可能性が近づいてきた。それは良いことか、それとも…。

 映画は虚構を前提とした娯楽であり、芸術である。実物はそこに無く、映し出されるすべての対象は上映されるたびに、同じ動きを繰り返す。奥行きを感じさせるが、すべては平面でしかない。映画の表現は左右という水平方向、そして奥行きという後ろの方向への自由しかない。それもカメラの撮影範囲の中だけであり、映画にはすべての世界が存在するのではなく、切り取られた、しかも編集された世界がある。  オフ・スクリーンを感じさせる映画もあるが、それもテクニック上の表現である。ステレオ環境が当たり前になっている現在の劇場では前後左右に音を張り巡らせて、世界の狭さを補っている。それがいわゆる通常の映画である。
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 それを覆す可能性があるのがこの映画なのかもしれません。遅ればせながら、期末の仕事もようやく片付き、やっと何かと話題の3D映画にして、世界中で大ヒットをかました『アバター』を劇場で観ることになりました。  3Dの映画と言われて、僕らの世代で覚えているのは『ジョーズ3』だろうか。その前の世代ならばヒッチコック作品でしょうか。数十年に一度ブームになり、また廃れていく。それがこのスタイルの特徴でしたが、今回は長続きするのだろうか。
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 ではこの大騒ぎされている『アバター』ではそれまでと何が違うのか。それが3D効果によって得られた、前方への、つまり観客席にせり出してくるように配置される映像表現であろう。それはスクリーンと自分を隔てていた空間という壁を取り除いてくれたように映るかもしれません。  あるときは自分とスクリーンの真ん中くらいに映像がやってきたかと思えば、あるときは自分にぶつかりそうになるまで迫ってくる。思わず避けそうになる瞬間が何度かありました。それほどよく出来ている。不必要に思える場面でも使っているのがウザく感じることもあります。
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 映画会社側がこれに積極的になったのは家庭用機材がどんどん進化していくことへの危機感だろう。DVDをあっさりと飛び越え、録画メディアの主流はブルーレイにシフトしつつある。そういった中で、映画館が魅力的であり続けて行くための方向性の一つとして再度の出番を迎えたのが3D映画です。  なにはともあれ、新技術を堪能するにはまずは劇場へ出向くのが映画ファンの習性でしょう。専用メガネを付けねばならない煩わしさは依然としてありましたが、何事も経験だと言い聞かせ、スクリーンに向かいました。しかしこの煩わしさはすぐに吹っ飛び、平面での創意工夫であった映画表現に、新たに前方への表現の可能性を加えてくれました。
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 さきほども触れましたように、前方といっても、前に迫ってくるだけではなく、自分も前方から後方へ遠ざかっていくという疑似体験が出来るという表現も加えられています。前方もスクリーンと自分の座っている位置のちょうど真ん中辺りだったり、自分のすぐ横だったりと自由自在に映像が配置できるのです。  映像の意味付けに新たな解釈が生まれてくる余地があります。映画全編でこの仕掛けを盛り込むのも良いでしょうが、ポイントのみに使用するのも良いでしょう。このように、このギミックに懐疑的だった僕にも3Dの驚きはすぐにやってきました。
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 まるで遊園地のアトラクションに参加しているようで、160分を存分に楽しみました。3Dメガネの作り出す映像感覚に馴染めず、酔いそうになった人もいるようですし、眼鏡の上に3Dメガネを装着しなければいけなかった人はかなり煩わしそうにしていました。映画の内容は単純明快すぎるくらいで、宮崎作品を筆頭に良質のアニメに慣れたぼくら日本のファンにとっては特に目新しさはなく、鼻白んでしまうシーンばかりでした。  『天空の城 ラピュタ』『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『新世紀 ヱヴァンゲリヲン』『スター・ウォーズジェダイの復讐(オリジナル版)』の焼き直しばかりで、あまりキャメロンの創造性は感じない。やたらありがたがるのは昔の作品や日本アニメを観てきていない外国人だけなのではないだろうか。触手でリンクしたり、カプセルの中に入って、アバター(化身)を動かすという発想はヱヴァ的であるように感じました。
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   また野蛮人対地球人(アメリカ人)という発想はここでも健在で、パンドラ星の人々は地球人にとって、そこにある鉱物資源が必要だからというふざけた理由だけで、聖地を攻撃され、虐殺の限りを尽くされます。アメリカがベトナムでやったのと同じように、焼夷弾が打ち込まれ、火炎放射器で住民を殺戮していきます。  ここに出てくる米軍としか思えない兵隊たちはゲームとして、原住民を殺し続けていき、お決まりのしっぺ返しを喰らい、すごすごと退散してきます。まあ、どうせ、市場原理のみが優先されて、パートⅡかなんかが無理やり作られて、『アバター2 アメリカの逆襲』かなんかが数年後に公開されているのでしょう。
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 スターウォーズ的な映像表現が多々ありますし、最後の宴会シーンなんかはモロに『スター・ウォーズ ジェダイの復讐(オリジナル版)』でのイウォークとの宴会と酷似(ということは『隠し砦の三悪人』での火祭りか!)しているので、当然、キャメロン・サイドも21世紀版のスター・ウォーズ・シリーズを狙ってくると思われます。  『地獄の黙示録』そのままに、原住民を焼き払おうとする攻撃用ヘリ部隊が登場し、オール原住民軍との死闘を繰り広げます。たしか台詞の中にワルキューレがどうのこうのとかまでありましたので、確信犯的にこのシーンを作り出したようです。ただ、迫力は本家に遠く及ばず、表現方法も資金も多くあった割りには出来はいまいちだった様な気がしました。  美しいシーンとしては夜の森の夜光植物や魂の木での神の使い?エイワ(クラゲにしか見えない…。)が主人公に集まってくるシーンを挙げておきます。全編がCGというわけではなく、ニュージーランドでロケが行われていたようで、エンド・クレジットにもその旨が記載されていました。ということは空港はロサンジェルスでのロケなのでしょう。
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 しかし、このキャラクターデザインはどうなのだろうか。ガミラス星人か、顔色の悪いフランケンシュタインの怪物にしか見えないし、エイリアン同士のラブ・シーンは気持ち悪く、なお悪趣味にもエイリアン・カップルの座位までありました。見たくもないし、げんなりとします。  ただ、この程度の作品がアカデミー賞の多くの部門にノミネートされていたことがより一層驚きました。これは映画が娯楽アトラクションにすり寄って行ったきっかけとして後世に記録される作品であろう。物語は浅薄で重みはない。  DVDはすぐに発売されるようだが、これは劇場の3Dシステムで観ないとまったく意味を成さない作品であり、通常の環境でDVDやテレビで視聴しても、疑似体験すらできない。つまりこれはアトラクションであり、3Dであるときのみ、作品に命が吹き込まれる。  ただ仮にストーリーが複雑だったとすれば、映像への驚きに気を取られてしまい、まったく理解できなかったという観客が大半を占めたであろう。割り切って観れば、十分に楽しめます。 総合評価 72点
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20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2010-04-23

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