良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』(2010)ついに最終章が始まった。でも3Dは間に合わず…。

 3日前に用事があったついでに寄った心斎橋のTSUTAYAでなかなか見つけられなかった珍しいタイトルを数本ほど発見してしまいました。ついつい見たくなり、後先考えずにレンタルで借りてきたので、今日は返却を兼ねて、地元の奈良ではなく、ミナミのマルイの八階にある東宝シネマズでの映画鑑賞となりました。ミナミに来るのも一年振りでしたが、来る度に周辺のお店が変わっているのに毎回驚きます。  まずはこれまでの作品リストから見ていくと『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2008)、今回の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』となり、そしていよいよフィナーレとなる『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』が来年の2011年に公開される。
画像
 2001年の『ハリー・ポッターと賢者の石』以来、7作品を毎回ずっと劇場まで見に行っていたハリー・ポッター・シリーズも最終回が近づき、残すところ2作品となりました。  今回の新作に関しては正直な気持ち、そんなに待ち望んでいたという訳ではありませんでした。というのもシリーズ初の3Dとなるという触れ込みだったので、あの豪華な魔法学校ホグワーツハリー・ポッターの世界観がどう表現されるのかが楽しみでした。  しかし技術的な理由で公開に間に合わなかったというのがアナウンスされていたのは残念でした。製作サイドは最良の形で上映したいという弁明もありましたが、万全の態勢で公開出来る日を待つより、クリスマス上映を重視しただけというのが真相でしょう。
画像
 行間からにじみ出てきてるのがわかる言い訳が長々と書かれていました。最終作品はさすがに3D化されるようですが観る側のモチベーションはどうしても低くなります。何故かもうじき公開される『トロン・レガシー』の予告編が流され、それは3Dだからという無意味な理由で上映時に例の3Dメガネが配られました。まったくどっちがメインなのかがよく分からない、なんとも締まらない話です。  そもそも3D効果は演出上、それほど重要なのだろうか。たしかに『アバター』では絶対に必要な要素ではありました。しかしながら、その後に観た『タイタンの戦い』『アリス・イン・ワンダーランド』『トイ・ストーリー3』ではなんだか追加オプション程度の必要性しか感じませんでした。
画像
 猫も杓子も3Dを宣伝材料に使ってはいますが、もうすでに飽きられ始めているし、3Dだけで集客できる時期はすでに終わっている。あまり効果がないものを数百円増しの吹き替え版で見せられるよりも、通常上映版を字幕付きで観る方が楽しい。  メガネのあの重さと煩わしさは映画への集中を妨げる。また映画そのものとは関係はないのですが、今回のパンフレットの内容のしょうもなさはどこからくるのだろうか。解説等は全くなく、ただ出演者たちの履歴が羅列されているだけでした。
画像
 これが500円くらいならば、まだ許容範囲内ですが、800円も取っておいて、このレベルの低さはどうしようもない。もしかすると3D効果に関する内容が多く、それを割愛する必要があったためにこんなスカスカな内容で販売したのかもしれないが、あまりにも観客をナメた対応だと思います。映画を観る前にすでに不快になってしまいました。  肝心の映画は徐々にクライマックスに近づいていくのが分かる。盛り上げるのが難しい立ち位置の作品でしたが、落ち着いたシーンが続く中にも魔法を使った格闘を描き、飽きさせないような努力をしていました。  これまでの作品ではどうしてもダイジェスト的な急ぎすぎていて、意味が伝わってこない繋ぎがかなり多かったのですが、今回はじっくりと丁寧に描写していました。それが反って、間延びして見えるのが残念でした。ただこのシリーズの特徴としてダイジェスト的というのがずっとありましたので、今回に関してはその批判は当たらない。  可愛かったラドクリフ君とエマ・ワトソンも普通に年齢を重ね、ロンに至ってはただのオッサンになり、着ている衣装はユニクロのフリースにしか見えない。しかしそれが妙に親近感を与えてくれました。  身近にスーパースターの親友がいると、自分は常に引き立て役にしかなりえない。思春期にはかなりの葛藤があったでしょうし、現在のワトソンを巡る微妙な人間関係もロン自身の自信のなさと有能すぎる周囲の人々との比較があったためでしょう。  観客はほとんどの人がロン的な立場を理解する側であり、日の当たらない存在であるに違いないでしょうから、より彼の活躍に期待してしまう。ヘタレな部分も多い彼ですが、ここぞではハリーを助けようとするイイヤツでした。
画像
 物語はよりダークかつ前には見られなかったお色気シーンも増え、ロンがワトソンに向ける気持ちや妄想はより屈折し、ハリーに対してもより複雑な感情と理性が格闘した結果の無力感が強くなってくる。ただし実際問題、もっとも俳優としての能力を発揮したのは彼かもしれません。  そして今回もっとも目覚ましい活躍を見せたのは妖精ドビーでしょう。マルフォイ家から自由にしてもらった恩を忘れない彼は何度もハリーや仲間たちを助ける大活躍を見せるものの、ティム・バートンの内縁の嫁に殺されてしまいます。もっと愛情を注いで欲しかったキャラクターでしたが、あまりにもあっさりと死なせてしまうのは如何なものでしょうか。他のキャラクターに比べれば、死に場所にスポットライトを当ててもらっている方なので一概には言えませんが、あまり愛情を感じないのが残念でした。
画像
 前作ではダンブルトン、今作ではヘドウィグ(ふくろう)、マッド・アイ、ドビーと人気キャラクターを次々に殺してしまい、常連客をがっかりとさせます。あらたな人気キャラクターが登場しないのにキャラクターを消していくのは解せません。特にマッド・アイは重要なキャラクターなのに戦闘シーンすら用意されず、ただセリフのみで死が告げられる有り様でした。  印象的なシーンとしては影絵のように語られた『死の秘宝』の昔話でしょうか。昔見た千代田生命(だったかなあ?)の影絵芝居を思い出しましたが、最近はあおいう情緒のある番組も消えてしまったのは残念です。不満としては盛り上げを無理やりに演出しようとするために、それほど観客が盛り上がっていないところでも大きな音を使って観客に刺激を与えるやり方はどうかと思いました。
画像
 シリーズもアズガバンあたりからダークな色彩が強くなり、家族向け映画という初期のファンタジー色とイメージは影を潜めましたが、今回もさらに暗黒映画のムードが強くなってきました。  最後に大団円があるのかどうかは原作を読んでいませんので分かりませんが、映画的にはこの映画と最終章の前半からクライマックスまでを暗く押し通し、最後の三十分くらいで太陽のような明るさのエンディングに持っていってくれれば、10年近く付いていった甲斐があります。
画像
 原作が悲しい話で終わっていたとしても、映画版では違うラストにするのもありだと思いますので、原作者にはハッピーエンドとなるよう修正を加えることに許可を出して欲しいものです。  最終回は来年公開となり、今度は3Dになるでしょうし、宣伝も強力になるでしょうが、すべてを観てきたわけですし、最後まで付き合おうと思います。多くの観客はずっとシリーズを観て来た人たちばかりでしょうから、少なくとも劇場で観るであろう我々観客、つまり映画ファンを納得させる内容を期待したい。  ぼくらは映画の観客であり、原作の読者ではないのですから。  総合評価 72点