良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『安重根と伊藤博文』(1979)テロリズムで世界は変えられない!BY北朝鮮ww

 『安重根伊藤博文』という映画はかなり前から気になっていた作品のひとつでしたが、なかなか見る機会に恵まれないまま今日に至っていました。  製作がどこの映画会社なのかすら知りませんでしたし、誰が出ているのかも見当もつきませんでしたが、漠然とテロリスト礼賛で長い間に渡って封印されていた『日本暗殺秘録』のような作品なのかなあというイメージで捉えていました。  不定期ではありますが、ヤフオクなどのオークションを見ているとVHSテープが1万円以上することが多く、さすがに興味本意で手を出す限度を越えていましたが、たまたま2000円スタートのものが出品されているのを見かけました。
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 他からのちょっかいを受けたものの3000円という相場価格よりもかなり安い値段で落札に成功しました。到着してはじめてこの映画が北朝鮮製作のプロパガンダであることを知り、金日成万歳映画かも知れないという一抹の不安が頭を過っていきます。  さて内容はどうなのだろうと思い、到着したVHSテープをデッキで再生するとなんだか時代がかった、いかにも国威高揚映画らしい、まるでセンスが感じられない軍歌的な音楽が鳴り響くのかと思いきや、存外どっしりした色褪せた色彩が大作であることを漂わせつつ、本編がスタートしたのは意外でした。  一概に共産主義プロパガンダといっても、ロシアのエイゼンシュテインが撮った『戦艦ポチョムキン』『ストライキ』『イワン雷帝』(一応歴史物だが明らかにスターリンを諷刺した作品。)など芸術的にも優れていて、世界中で評価されているものもあります。
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 実際に見ないと分からない部分があると言い聞かせて、作品と向かい合いました。1979年製作なので、金日成体制下で映画好きの金正日が製作指揮に当たっているのでしょうか。思わずジェンキンスさんを探してしまいましたが出ていないようです。  台詞はさすがに北朝鮮らしく、日本に対して悪意剥き出しの言葉が大半を占め、日本人としてはムカムカしてくるが、わりかし冷静に歴史の時系列に沿って、アメリカ・イギリス・ロシア・清国も朝鮮併合に際して日本に協力的だったこともやんわりと糾弾しています。  また安重根を語るにしても、一方的に無批判で彼を英雄扱いすることはありません。愛国心は認めるが、民族解放へのプロセスを導く能力はなく、テロでは世の中は変わらないことを明言している。
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 自らの政権を安定化させるためにも権力体制へのテロリズムを野放しに肯定することは出来なかったというお家の事情もあるのでしょう。物語を見ていると征服者である日本には悪意があるのは当然ですが、いわゆる政権協力者である自国の政治家たちの卑劣さや腐敗についても批判している。  そもそも安重根という人はどんな人だったのかも分からないというのが大半の日本人の共通した感想でしょうし、伊藤博文に関しても、明治維新の偉人の一人で、大昔の千円札のおじさんという漠然としたイメージでしかない。韓国や北朝鮮では義士扱いされているようですが、テロリストを英雄視するのはどうなのだろうか。  まあ、統治した者とされた者では感情は真逆でしょうし、言い分が違うのは当たり前なのでなんとも言えない。それはともかく、安重根日韓併合に反対の立場を取っていたとされる伊藤博文を殺害したのは解せない。
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 外交で有名な小村寿太郎は朝鮮併合を推し進めた政治家だったが、なぜ彼ではなく伊藤だったのだろうか。後に安重根が暗殺は日本のためにやったと書かれた私書が発見されたそうなので謎は尽きないが、製作が北朝鮮なのでそういった疑問には応えてくれるわけもなく、ひたすらに抗日の英雄として祭り上げるだけなのだろうなあと諦めつつ、ボンヤリと彼らの愛国祭りを眺めていました。  併合への抵抗運動はまずは大日本帝国の干渉に対して、李氏政権内外の政治家たちがどう役割を果たすべきなのかを問いただすが、ほとんどの政治家は新支配者に迎合することを選び、民衆のことはあまり考えていなかったようです。  当時のマスコミである新聞を使い、借款を返済する運動を進めて、他国の支配から逃れようとするが叶わず、支配が徐々に強められていく。その後は朝鮮軍の解散を契機に暴動を鎮圧したり、農民が各地で暴動を起こすとそこを鎮圧していく様子が描かれていく。
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 抵抗運動は軍部の実力行使もあって沈静化していったからか、併合反対論者の運動もしぼんで行ったようで、追い詰められた安重根たちが最後に選んだのが各個人による一人一殺のテロルによる解決でした。  つまり大規模な反乱を起こすほどの力を得られなくなった彼らは日本側の有力者を殺害していくという方法を選択してしまう。テロリズムは是か非かという問題は置いといて、我が国でも昭和初期の二・二六事件五・一五事件血盟団事件に代表されるように、恵まれない若い人たちの血を躍動させるモチベーションではありましたが、結局は何一つ変えることは出来ませんでした。
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 安にしても伊藤博文一人を殺害したところで、体制は何も変わらないし、テロによる解決はない。実際、安が暗殺した時期には伊藤はすでに朝鮮の最高責任者の地位を退いており、現役の総督ではない。有名人ならば、その狙いはだれでも良かったのではないか。やりやすかった対象を選んだだけなのかもしれない。  また同じ暗殺者でも朴大統領を暗殺した者については韓国ではどういう扱いをしているのだろうか。彼もまた英雄として祭り上げられているのだろうか。テロを正当化するのであれば、彼もまた英雄なのだろうか。
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 最後に今回の記事を書いていて、安重根について調べていくうちに彼の写真を見ましたが、あまりにも世界のナベアツこと桂三度に似ているのにびっくりしました。三の倍数でアホになる彼です。3(さ~ん!)、6(ろく~!)、9(きゅう~!)、12(じゅうにい~!)、15(じゅうご~!)というやつです。  ぼくらはなんとも思わずに彼を見ていましたが、韓国の人たちは彼を見たときに似ていると思ったのだろうか。爆笑したのか、それとも苦笑したのか。どっちでもいいかあ。
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総合評価 60点