『相棒 -劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』(2014)第三弾!映画らしくなってきた
初日の午後からの回での鑑賞となったのが『相棒 -劇場版III- 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ』です。八割方席が埋まっていて、内訳としては老若男女がまんべんなく来ている感じで、さすがの人気シリーズだなあという感想です。
スピンオフを含めると相棒シリーズとしては五作目であり、本編シリーズとしては第三弾にしてようやく映画で見た方が良いスケールの大きさが備わりました。ただ普段は都内での凶悪事件やミステリアスな事件解決に活躍している特命係がいきなり八丈島より向こうの孤島に本来の目的を隠して出張するというのはどうなのだろうか。
鳳凰島という架空の無人島を中心に舞台を設定しています。ロケ地は主に沖縄本島や座間味島で撮影されたそうです。オープニングでの『地獄の黙示録』のウィラード中尉が川から顔を出すところのようなカットがあったり、軍用ヘリが爆音を轟かせながら上陸してくる様子は劇場版ならではかもしれません。
きれいな海岸や深い森は孤島の雰囲気を醸し出していて、普段の相棒とは違う魅力を出しています。こんなところでもティータイムにスーツで紅茶をたしなむ水谷をどう捉えるか。相棒ファンならば、クスリと笑えるカットとなるでしょう。
このカットは実は意味が隠されているようで、どこへ行こうが変わらない水谷(杉下右京)を象徴しているようです。やることはいつも通りで細かいところが気になってしまう悪い癖をここでも発揮し、馬の後ろ足の蹄鉄の数が合わないことや馬糞がある厩舎への違和感から最終的には犯人を炙り出していく様子が描かれます。
せっかくの孤島という舞台装置が揃っているのに細かい馬糞と蹄鉄から事件が動き出すのが顕微鏡的な視点が勝ってしまうようで多少興味がそがれてしまうかもしれませんが、細かさこそが相棒シリーズの醍醐味ともいえるので受け入れましょう。
普段とは違う場所を舞台にしますので、どうしても設定を観客に知らせるための説明が必要となる。そのため説明的なセリフがどうしても序盤で多くなる。そこを処理するために採られたのが長回し撮影であり、及川は事件の発端と水谷への依頼を特命係の一室で語る。緊張感があるので、説明セリフに閉口する人でも比較的受け入れやすいかもしれない。
出演者は水谷豊、成宮寛貴、伊原剛志、釈由美子、風間トオル、六平直政、宅麻伸、鈴木杏樹、真飛聖、川原和久、大谷亮介、山中崇史、山西惇、六角精児、神保悟志、小野了、片桐竜次、及川光博、石坂浩二、嶋田久作らいつものメンバー、懐かしいメンバー、あらたなメンバーをギュウギュウに詰め込んでいるので、ワンシーンしか登場しないメンバーも多い。
注目したいのはトリオ・ザ・捜一の大谷亮介で、彼は最新シリーズの序盤で大怪我を負い、退職する役どころでしたので、今回の劇場版の時間設定がシーズン11とシーズン12の空白を埋める作品であることが分かります。
相棒コンビは三代目相棒(テレビシリーズとして)の成宮寛貴が初の劇場版登場となり、ドラマシリーズでは一部不評だった彼がどれだけこのシリーズの世界観にマッチし、歴代相棒である寺脇康文や及川光博たちが持っていた役者のポテンシャルと上手さに近づけているのかに注目していました。
結果としてはまだまだ先人たちの安定感には到達していませんし、上滑りしている感がまだまだ強く、あと2~3シーズンは時間が掛かるのかなあとか、水谷豊がそれまで待てずに相棒史上初で殉職させるのかなあとか思い巡らせながら、スクリーンを眺めていました。
ただ15年近くが経過し、マンネリ化が囁かれている中、新機軸だったり、新しいファン層を獲得していくためには彼の成長は欠かせません。製作側が判断すれば、あらたな相棒として女性刑事が登場する可能性もあるのかなあ。
気になったのは嶋田久作で、彼って、たしかドラマシリーズの犯人(家電メーカーの技術研究者)役で出演したこともあったはずなので、同一人物を違う役柄で起用するのはどうかと思いました。田口トモロヲのようにカメレオンのごとく作品に同化してしまう俳優さんならば、問題ないでしょうが、『帝都大戦』でお馴染みの嶋田のあの個性的な顔立ちが他人の空似とはならないのではないか。
さて肝心のお話はどうだろうか。私有地の孤島で起こった事故(?)をきっかけに捜査が始まり、結果としては有事に備えた民兵組織(モデルは多分、三島由紀夫の「楯の会」でしょうか。)が自衛隊が保管していた天然痘アンプルを大量盗難し、それらを培養して島に隠していることを暴き出していく。
ここには国防を売り物にする政治家(あくまでもポーズとしてやっているだけ。)の思惑と保身、盗難の事実を隠し続けたい自衛隊の隠蔽体質、警視庁と自衛隊の確執など数々の相棒らしい隠蔽体質への怒りが表される。
ただそこはテレビ朝日らしく、左翼的な言動を水谷に取らせて、伊原を黙り込ませるところで映画は閉じられるが、中国や朝鮮半島などの暴挙がいつでも起こるかもしれない現状では彼のセリフは空しく響くように思える。
伊原は国士らしく、安保は建前であり、いざとなったときに助けてくれる保証などないと喝破する。また貧者の核兵器と言われる生物兵器を製造していることを水谷に咎められると、生物兵器は非人道的で、核兵器は人道的な兵器なのかと言い返す。
数年前にデイジーカッターが非人道的だとして、破棄が決定したことがありましたが、あれこそ矛盾なのではないか。当然ではあるが、テレ朝の意向を受けた水谷は国防は“流行病”という、間が抜けた返答で返してきます。
(伊原)
自分の身は自分たちで守るしかないんですよ。
そんな簡単な、ごく当たり前のことから、どうしてみんな目を背けるんだ。
(水谷)
所詮、命のやり取りによって大切なものを守るという行為は大いなる矛盾を孕んでいるんです。
平和はありがたいことですが、力無き正義は無意味なので、対抗手段を持った外交が要になるのでしょう。
総合評価 60点