良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ガールズ&パンツァー劇場版』(2015)世界の乙女の嗜みは華道、茶道、戦車道!

 2012年に放送されていたテレビアニメが大ヒットした『ガールズ&パンツァー』、通称“ガルパン”の劇場版が三年越しで昨年公開され、こちらもかなり評判が高かったのですが、時間の都合が合わず、ようやくDVDでの鑑賞となりました。  ほぼ現実世界での出来事を描きながら、架空のフィクションを盛り込むSF作品でもあります。架空の設定とはこのアニメ世界では乙女のたしなみは華道と茶道、そして戦車道(!?)の三つの女の道であるということです。  戦車道には道らしく家元などの流儀が存在し、海外でも盛んに行われていて、翌年のプロリーグ結成を控えている状況のようです。今回は西住流だけでなく、島田流家元とその後継者である島田愛里寿が登場し、指揮の天才としてヒロイン西住みほの前に立ちはだかる。
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 学生などは文部省管轄でさまざまなことが取り決められ、テレビ放送版では廃校の危機にあった大洗女子学園戦車道チームが廃校処分を白紙に戻すべく奮闘し、イタリア、ドイツ、ロシア、アメリカの代表(各々が私立の女子大付属みたいなネーミングがされていて、なんだか笑えます。)を撃破し、『がんばれ!ベアーズ』のように勝ち進み、無事に処分撤回を勝ち取ったかに見えたところで終わります。  実弾を撃ち合い、相手車両を豪快に砲撃していきます。出てくるキャラと戦車をイタリア(チョロチョロと小回りが良く、逃げ足が早いが、たまにキレのある決定的な動きをする。基本的に食うことしか考えていない。)、ロシア(粘り強く自己犠牲をいとわず、全体と指導者のために戦い抜く。)、ドイツ(合理的にかつ、戦術的に動く。)と性格分けしています。。
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 劇場版に登場する日本(潔いが、すぐに突撃したがる。)、テレビアニメ本編からのアメリカ軍(最新装備と圧倒的な物量と火力で優位性を高める。)、イギリス(戦時下でもティータイムを楽しむ。勝つためには手段を選ばない。実はテレビ版では大洗女子学園は聖グロリアーナに単独では練習試合で敗北し、劇場版でも英露連合に親善試合で連敗しています。)のイメージで乗組員ごと同化させている設定が興味深く思えました。  もしかすると最強なのは聖グロリアーナなのではと勝手に思っています。いつも高所に立ち、優雅に紅茶を飲みながら要所を押さえているイメージが強い。
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 これは戦車版の『ヘタリア』なのだろうか。ちなみにヘタリアとはヘタレのイタリアの略です。大洗駅周辺を舞台に戦車隊が大砲をぶっぱなして模擬実戦を行う様子はブッ飛んでいます。  ちなみに戦車内は特殊カーボンが塗装されていて、なかの美少女たちが怪我をしないようになっていまして、大破もしくは戦闘不能になった場合は白旗が出てきます。  個人的に笑ってしまったのは戦闘中に戦車の狭い窓から蝶々を見つけた少女(一年生のうさぎさんチーム。当初は恐いからという理由で戦車を放棄して脱走していた。)が「ちょうちょ…。」と呟いて気をとられた瞬間に撃破されるシーンでこれは『西部戦線異状なし』のパロディだったのでしょう。  音楽が最高でサンダースなら『リパブリック賛歌』、聖グロリアーナなら『ブリティッシュ・グレナディアーズ』、雪原に向かうプラウダの『カチューシャ』(一番好きです!)、イタリアは『フニクリ・フニクラ』など各国に合わせたテーマが与えられています。
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 また仮宿舎のお料理当番の秋山優花里が鼻唄で歌うのが『ジョニーの凱旋』だったりするので、あちこちに笑いの種が仕込まれています。  例えば軍事マニアならば、ぼくら映画ファンとは違った目線で楽しめるでしょう。ティーガー戦車、チャーチル、シャーマン、パンター、三突などが公道を走り回り、ゴルフ場や駅周辺の市街地を砲弾でボコボコにしていくさまは痛快で、なんだかF1モナコレースを見ているようです。  なんの先入観も持たず、なんの予備知識がなかったとしても後半の大学選抜との廃墟になっている遊園地での殲滅戦シークエンスはスピーディに展開する各方面の戦いが圧巻ですので楽しめるでしょう。  劇場版では市街戦ですが、アニメ版では山岳戦や雪上戦などもあり、スピード感あふれる戦車の陸戦での優位性を際立たせています。
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 映画版での戦地説明は『七人の侍』で地図を広げてどう応戦していくかの計画を立てていくシーンを思い出しましたし、一年生チーム(うさぎ)が遊園地に必ずあるだろう観覧車を使って、高地に陣取った大学選抜に低地で完全包囲された味方を救い出すミフネ作戦(スティーブン・スピルバーグが監督して、ブルース・ブラザースの片割れで早世したジョン・ベルーシが主演したしたコメディ『1941』での有名なシーン。)に笑ってしまいました。  三対一の戦車戦での応対はガンダムのジェット・ストリーム・アタックを思い出します。この作品での最大の見せ場はもちろん圧倒的スピードで展開されるカーチェイスのような戦車同士の戦い模様なのですが、そもそもの戦車道という設定のアイデアが独創的で笑えましたし、スポ根アニメの要素も取り入れていますのでヒットするのも理解できます。  一昔前は萌え系とか言われ、好奇の目に晒されてきた美少女アニメファンでしたが最近はどういう感じで語られるのだろうか。
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 そもそも動きが鈍重なマスコミに注目を浴びる頃にはマニアはとっくに別の対象を追いかけているし、製作側も変化を遂げていきます。  遅ればせながら、テレビアニメ版も放送終了後にレンタルDVDで全編を見て、その後のDVD(OVAでリリースされた二回戦のイタリア戦のヤツです。)で数回まとめて見ただけなのでマニアのように深いところまではうかがい知れませんが、何度も見直していけば、さまざまな発見がありそうです。  陣形や隊列を保つ工夫や展開の妙、各女子高の校風(つまり各国軍隊の国民性でしょうか。)など軍事マニアならばより楽しめるでしょう。各車両は3~6名が乗り込んでいて、車両一台のチームとして捉えているため、乗組員で性格を表しています。
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 スポーツ団体競技の集大成としての戦車道のようでアニメ世界では戦車道は必修選択科目という位置付けです。オフ時間は女の子らしく、スイーツを食べに行ったり、ご飯を食べたりと忙しい。  劇場版ではテレビ放送版に登場した全キャラクターが再登場し、大学選抜と戦うためにみな一時的な短期転校という荒業を繰り出して文科省の悪巧みを叩き潰すべく、急こしらえの混成チームで不利な殲滅戦に挑む。  かつて主人公たちの大洗女子学園戦車道チームを苦しめたサンダース付属(アメリカでしょう。)、聖グロリアナ(イギリス。)、アンツィオ(イタリア)、プラウダ(ロシア。テレビ放送版での雪原の戦いはスターリングラードのようで、カチューシャたちが歌いながら、追撃戦に臨むシーンはカッコいい!)、黒森峰(ドイツ。戦後、ナチスに協力した咎でハイデッガーは黒い森の哲学者と非難された。)らがライバル廃校の危機を救うために多国籍軍を結成して、社会人代表をも粉砕した大学選抜に挑む姿はとても楽しい。
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 ゴチャゴチャと堅いことは言わずにしっかりと最後まで劇場版を見ましょう。終わる頃には戦車たちが好きになっていますよ。カチューシャ、ドゥーチェ、ダージリン、クラーラ、そしてヒロインの西住みほと彼女の姉まほの誰かにハマるでしょう。  ちなみにうちの近所の三軒のレンタル屋さんには劇場版の在庫はありますが、テレビアニメ版は全巻がずっと貸し出し中のまま、一ヶ月以上が経っています。美少女アニメとか、軍事オタク向けとか、もしくはその両方とかの偏見に惑わされずに素直に楽しみたい作品です。  鵯越えとか九度山蟄居とかの用語が日常会話に出てくるのは戦車という陸戦兵器を使用する戦車道の戦史研究の影響なのだろう。あんこうさんチームに栄光あれ!  ちなみに下の画像はテレビ放送版で一番好きなエピソードからのモノです。ご覧になられた方は何回戦からかすぐにお分かりになると思います。
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 その他で気になったのはカモさんチームで、名前がソドコ、パゾミ、ゴモヨなのでたぶん、ソドムとゴモラ、そしてパゾリーニということなのでしょうか。 総合評価 80点