良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『いぬやしき』(2018)意外と楽しめるSF版“生きる”!?

 去年、深夜アニメで放送していた頃に可愛がっていた大学生の娘に見るように猛プッシュされていた作品です。彼女はアニオタで、ぼくも好きなのでアニメの話をよくしていました。  ただ当時は忙しくて見られませんでしたので、今回の実写映画化を受けて、ようやくこの作品に接することになりました。  彼女はこの春に就職しましたので、この映画については話していませんでしたが、気にはなっていたようで鑑賞後にLINEで「良かったよ!」と感想を送ったところ、「意外です!」という返事が返ってきました。  今回の映画化でもっとも印象的だったのは木梨憲武、つまりノリさんです。くたびれた感が素晴らしく、中年以降のオジサンなら、虐げられるお父さんを見て、涙するかもしれません。
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 とんねるずを初めてテレビで見たのはお笑いスター誕生からで、売れだしたのはシングル『一気!』や夕やけニャンニャンが放送されていた頃には男子中高生はみんな見ていました。  その後は「みなさんのおかげです」が超人気番組となり、ノリダーのコントやチェッカーズ宮沢りえとの絡みが面白く、歌もラジオも大ヒットし、看板スターになりました。  最近はさすがに視聴率が低迷し、「みなさんのおかげでした」がついに終わってしまいましたが、個展を開いたり、色々と活動をしているようです。この番組に対して“みなおか”とか急に言い出しましたが、これはファンが使わない略語だと思います。違和感がありました。  話を映画に戻しますとこれはSFマンガなのですが、本編ドラマの内容は黒澤明監督の『生きる』のようで、パロディのような演出が良く、この人は勘が良いなあとしみじみ感じながら見ていました。
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 家族に相手にされず、仕事ではミスを繰り返して年下の上司に罵倒される犬屋敷氏(ノリ)と捨て犬ハナコの温かい絡みも良い。  スーパーマンターミネーターブレードランナー、生きるなどをミックスしたようなお話とギミックはパロディとしても楽しめます。  悪役の獅子神を演じたのは佐藤健でしたが、さすがに高校生を演じるのはキツイが役柄にはピッタリとはまっています。ただ年恰好からすると難点ではあるので、他にいなかったのだろうか。  クールで無慈悲に一般庶民やマスゴミ関係者、くだらないネット住民を処分していくさまは痛快でしたが、ここは同世代(つまり高校生くらい)の俳優を使ってほしかったという思いはあります。
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 普段、ネットやテレビに接していると無責任な個人攻撃や根拠のない批判に嫌な感じになってしまいますが、佐藤が母親(斉藤由貴)を自殺に追い込んだ、社会性が欠如しているオタクたちを大量に射殺(ドラえもんの空気ピストル!)したり、正義面しているだけで中身がない無責任なテレビキャスターやズカズカと土足でプライバシーを侵害し、個人を攻撃するマスゴミ取材陣を射殺し続ける場面は爽快です。  ただ個人的に何の恨みがないはずの一般庶民をもチャールズ・ホイットマン(『パニック・イン・テキサスタワー』を参照ください)のように大量虐殺していく様子には共感はありません。  一人娘(三吉彩花)を守り抜くために佐藤健と戦い続けるノリさんの男気演技がカッコよく、両方とも不死身のサイボーグなのであれば、最後は男気じゃんけんで決めれば楽しいけど、たぶんスベるだろうなあと思いながら見ていました。  同じく、渡辺しおんを演じた二階堂ふみにも佐藤健と同じことが言えます。だったら、高校生という設定を大学生に変更していれば、両者とも違和感なく見ることが出来たのになあと思うと残念な部分です。
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 急に逃亡中の佐藤をアパートに匿っているなど、駆け足で描かれる二人のエピソードはもっと深いものだと思いますが、さすがに2時間ちょっとですべてを描き切るのは不可能なので、ペースを落とす場面はカットされていったのでしょう。  ただゆったりした部分を端折り、スピード感あふれる場面を中心に描いたため、展開が早く、初見でも楽しめた要因になっています。  邦画特有の特撮での爆発シーンやサイボーグ描写のチャチさはなく、けっこう迫力がありました。ラストでの執拗に繰り返されるノリさんと佐藤とのブレードランナー的なレプリカントを思い出す対決は邦画にないしつこさでしたが、成層圏を越えていくバトルは十分に楽しめました。
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 真剣に相手と対峙することで超硬化金属の塊となって佐藤を撃ち抜き、娘を守り抜いたノリさんは騒動が終わった後に家族の団らんでテレビで自分の活躍の話題を見ながらも、何も事情を知らない妻(濱田マリ)と息子には特に語らず、すべてを知っている娘ともあえてその話題には触れない。  ヒーラーとして病気やけがを治していくスーパーマンの正体を知ってしまった娘としてはさんざん馬鹿にして軽蔑していた父親に対し、憧れと尊敬の念を抱くようになるのが微笑ましい。  マンガ原作で楽しい映画に仕上がっている稀な例として劇場まで足を運びましょう。 総合評価 85点