『翔んで埼玉』(2019)世界埼玉化計画発動へ!こういうのが作れるようになったんだ!
『翔んで埼玉』というフザケたタイトルを聞いたときはまったく観に行くつもりはなく、DVD化されても借りることもないだろうなあと思っていました。
しかしながら、原作が魔夜峰央だということが分かり、一気に見に行く方に気持ちが切り替わりました。僕ら世代にとっての魔夜峰央という名前は特別で、中学生の頃に放送されていた『パタリロ』から好きになり、大学生の頃まではコミックスの新刊が出る度に必ず本屋さんで買っていました。
当時は斬新だったボーイズラブ系の走りのような切り口をスパイスとして使い、全編にナンセンスかつ知的なギャグやアイデアが詰まった作品は新鮮に映りました。
先日、仕事終わりに見に行きましたが、客入りは関東の端っこが舞台のご当地映画にもかかわらず、半分くらいは埋まっていたので、ヒット作品だと言えます。埼玉のような立ち位置の県は少なからずありますし、関西でも旧都だった奈良・京都、天下の台所と呼ばれた大阪、ハイソな感じがする兵庫以外はそんな気持ちになるのだろうか。
ただ和歌山も独特で、ミカンが獲れ、台風がたくさんやってくる感じがなんだかカリフォルニアのようで、海もあって僕が住む海のない奈良とはだいぶ違います。
内容は埼玉の自虐ネタが満載というか、ひたすらにディスり続けますが、郷土愛の裏返しなのがはっきり分かりますので微笑ましい。埼玉対千葉、茨城などの不毛な争いや東京と神奈川の蜜月関係も描かれていて楽しくなります。県内の地域内でのカーストも存在していて、内部抗争のほうが県民には笑いのツボなのかもしれない。
モブシーンの出来が良いのも特徴で、どうしても邦画ではせせこましくなるのが常ですが、この映画ではなかなかの迫力があり、きらりと光る場面でした。クライマックスの革命シーン、つまり埼玉から東京に入るには通行手形が必要というのを廃止させる場面での東京都庁がまるでバスチーユの監獄みたいなのでクスクス笑ってしまいました。こりゃあ、『ベルサイユのばら』ではないか。舞台も宝塚だし。
東京にそそのかされて、埼玉対千葉で流山を挟んでの合戦となるシーンは戦国時代を描いた時代劇のそれよりも憎悪が剥き出しになっていて、良い感じの争いに仕上がっています。
もっとも相手に自分たちの優勢を誇示する方法が地元出身の有名人たちの大凧(アルフィーの高見沢俊彦)だったり、巨大な幕(X-JAPANのヨシキ)だったりするのには大笑いしますし、それをテレビ中継で見物している東京都知事(中尾彬)が呆れ顔で「あいつら、なにやってんだ?」と怪訝な表情になるシーンは笑えました。
ゆうこりんと小島よしおが県民にもディスられていたり、桐谷美玲や真木よう子が押し出されると両県とも良いなあという顔をしているのも楽しい。
映画やドラマのパロディがあちこちに散りばめられていて、『スターウォーズ』『隠し砦の三悪人』『乱』『國民の創生』や明智光秀の「敵は本能寺にあり!」のパロディもあります。『沈黙(?)』もあったような。
主役を務めたのは二階堂ふみで、彼女の顔がなんとなく初期のパタリロに見えて仕方がありませんでした。GACKTはいつもパタリロに振り回されていたバンコランそっくりでしたので、個人的にはニヤニヤしながら見ていました。
伊勢谷友介が演じた千葉県のリーダーがスパイスとして機能している。麿赤兒がまるで『乱』の仲代達矢のような場面に登場するが、メイクがオバQみたいなのは笑えます。舞台となっている学校の感じが宝塚みたいなのには関西人としては笑えます。
京本政樹の登場シーンがまるでグリフィスの『國民の創生』で英雄として颯爽と現れるKKKの白馬の騎士のようで、いざ乱闘になると仮面ライダーを彷彿とさせる。
未来の埼玉県民として狂言回しに出てくるブラザートム、麻生久美子、島崎遥香の三人家族が埼玉の歴史を学んでいく過程が楽しい。その他、中尾彬と武田久美子が演じた都知事夫婦、下等住民として登場する加藤諒、益若つばさの薄汚れた感じもなかなかイイ味を出しています。
元神奈川県民だったぼくとしては竹中直人が神奈川県知事を演じて、加山雄三の若大将のように弾き語るのはなんだか嫌な感じがしました。
いまいち笑えないシーンはちょこちょこありますが、こんな感じのあるあるは各県にもありますし、エンディングに流れるはなわの埼玉をディスる歌には爆笑でした。またこの映画ではじめてファッションセンターしまむらやファミリーマートが埼玉発祥であることを知りました。まあ、どうでもいいけどwww
同じ関東でも群馬、茨城、春日部や八王子は見下されているのかというのをはじめて知りましたが、こんなのも関東あるあるなんでしょうね。
総合評価 75点