『トクサツガガガ』(2019)国営放送のドラマですが、オタク必見!
若手女優の中で個人的に見続けているのはこのドラマ及びNHKに数多く出演している小芝風花、伊藤沙莉、飯豊まりえ、松井玲奈です。特にこれから伸びそうだなあと注目しているのは伊藤沙莉で、ドラマにアニメ声優にと大活躍しています。
CMや映画では小芝風花が一歩先を進んでいる印象があります。透明感がある彼女が今後、どうなっていくのかにも注目しています。
映画ではないのですが、今年始まったドラマの中で気になったタイトルがあり、その名も『トクサツガガガ』というのがあります。ぼくにとっての“ガガガ”はRCサクセションの『ガガガガガ』ですが、このドラマの主題歌は金爆が担当しています。
まずはデビルマンのエンディングテーマの歌詞(だ~れも知らない 知られちゃいけ~ない~♪)をオマージュしたナレーションが爆笑です。基本的には東映系の戦隊物特撮を意識した作りになっていて、調べてみるとなんと特撮監修を東映が行っています。
本職が特撮を監修していますので、出来は良いですし、キャラクター・グッズなども凝っています。個人的にはぼくはセブン以来の円谷系ファンなので、のり切れない部分もありますが、楽しく見ています。
フィギュア、ガチャなどで物欲を満たす、オタ度マックスなヒロイン小芝風花は倉科カナとヒーローショーに出向くようになったり、仲間を増殖させようと手を尽くす。俳優にとっては特撮は黒歴史なのだろうと悩む、オタならではのお悩みも扱っている。
イケメンを餌に特撮オタに引き込もうとするエピソードは笑えますし、もしばれても、本編に登場するイケメン俳優目当てと言い張れば、特撮好きをカモフラージュする言い訳も出来ます。
今ではブログなどもあるので、日本中に同好の士がいることを実感できますが、昔はようやく見つけた特撮好きと一緒にゴジラ映画の劇場配布用のオマケをゲットするために幼稚園児や小学生らと争うという醜い状態でした。
ドラマでは同僚や知り合いに特オタであることを隠して、こそこそガチャをやりまくったり、駄菓子屋におもちゃを買いに行くシーンがあったり、オタク同士のオフ会のシーンも描かれています。完コピカラオケシーンはディープなオタ同士の完璧主義に笑わされます。
仲良くなる近所の男の子(寺田心)にダミアン(『オーメン2』から登場する悪魔の子の名前!)というあだ名をつけたり、駄菓子屋の兄ちゃんにはその風貌から“任侠さん”というあだ名をつけます。
タイトルはトクサツと付いていますが、広く隠れオタクは存在しますので、ドルヲタ、アニヲタなども登場します。実際問題、ヲタと呼ばれたり、自覚している人たちは一つだけではなく、いくつもの領域にまたがって趣味の範囲を広げていたり、開拓していく人も多い。
狭く深くの人もいますし、王道はそこでしょうが、楽しいモノが多い方が人生豊かになります。現在、まだ第四話までしか進んでないので、その後の展開がどうなるのかは分かりませんし、何話まで続くのかは分かりませんが、3月最終週には飯豊まりえ主演ドラマがスタートするので、全10回程度だろうか。
今回の主役を張っているトクオタOL役の小芝風花には透明感と可愛らしさが同居していて、ほのぼのとしています。その他の出演者は倉科カナ、木南晴夏、寺田心、武田玲奈、内山命、竹内まなぶらがいます。
もともと原作コミックがあるようなので、ある程度の展開はすでに決まっているのでしょうが、ドラマならではの展開もありがちなので、いまのところ楽しく見ることが出来ていますので、このまま最終話まで楽しませてほしい。
DVD化などはまだ決まっていないようですが、再放送や一挙放送をすでに行っているので、意外に反響が大きかったのかもしれません。(のちにDVD化され、発売されています)
『魔女の宅急便』(1989)スタジオジブリの新作が待ち遠しかった頃。
平成最後の紅白で良いところをかっさらっていったのはサザン・オールスターズ、サブちゃん、米津玄帥、そしてユーミンでした。ここ数年、あまり見ることのなかった紅白ですが、久しぶりに楽しくテレビの前で見ていました。
最大の見どころはテレビではじめて歌う米津玄帥の『Lemon』でした。彼の歌をはじめて聴いたのはアニメ“ヒロアカ”のオープニングだった『ピースサイン』、その後は『Loser』なんかもよく聴くようになっていました。スマホで曲順を調べ、11時ごろから待っていると米津が中継先の徳島から今年最大のヒット曲を歌い出しました。
好きなナンバーでしたのでもちろん楽しく見ていましたが、一方でどうして最もヒットした曲にレコード大賞が行かないのだろうかという不信感も芽生えます。そんなモヤモヤしていた気分を吹き飛ばしたのはユーミンでした。
ユーミン(荒井由実時代)のファースト・アルバムで歌われた『ひこうき雲』はどうせ中継なんだろうなあと思っていたところ、案の定、別会場からの映像でしたので、仕方ないなあと思いながら見ていましたが、次の曲『やさしさに包まれたなら』のイントロが流れてくると、まさかのホール生出演でしたのでかなり驚きました。
今回のバージョンはシングルとは違い、今となっては一般的なこの映画で流れたアルバム・バージョンでしたが、シングル・テイクもまた違う味わいがありますので、荒井由実時代のベスト『ユーミン・ブランド』を聴きましょう。
さすがに歌声は当時のままとはいきませんでしたが、それを隠さずに年齢相応に魅力的に歌い上げる彼女はとても楽しそうで、そんな雰囲気は会場やテレビで見ている視聴者にも十分に伝わったのではないでしょうか。
何気に当日演奏していたバンドの中に夫の松任谷正隆や当時から彼女を支えていた鈴木茂、林立夫に加え、細野晴臣の代わりに出てきた小原礼(サディスティック・ミカ・バンド)を発見したときは驚きました。演奏後に櫻井翔くんもメンバーの凄さに触れていましたが、ぼくも嬉しくなりました。
どうせなら、当時は彼女のバック・コーラスを支えていた矢野顕子、山下達郎、大貫妙子、吉田美奈子らもいたら、さらに嬉しかったのになあと思い、眺めていました。
もともとこの日に歌われた2曲のオリジナルを演奏したのは細野晴臣(今回は残念ながら欠席。本当に残念。星野源との絡みもあるので出て欲しかった!)や松任谷正隆、林立夫、鈴木茂のティン・パン・アレ―とはっぴいえんどのメンバーが絡み合う大御所たちがユーミンのために集う豪華さに目を奪われました。
さらに大トリではサザン・オールスターズが数十年ぶりにNHKホールの紅白の舞台に登場し、『希望の轍』『勝手にシンドバッド』を熱唱し、サブちゃんやユーミンがコーラスに加わり、大盛り上がりで幕を閉じました。個人的には今年は嫌なことが多く、未解決な課題もありますが、ひとまず気分良く年を越させてもらいました。
このときにユーミンが歌った『やさしさに包まれたなら』はもともとは荒井由実名義だった1974年のナンバーです。ぼくは『あの日に帰りたい』『ルージュの伝言』、松任谷由実名義の『守ってあげたい』『春よ来い』『まちぶせ』『真夏の夜の夢』なども好きで、シングル盤を買っていました。あくまでも好きな曲があるという程度の軽いファンですので、詳しくは知りませんが、良い曲は良いので、今でも持っているものもあります。
スタジオジブリの映画、『魔女の宅急便』の主題歌として『やさしさに包まれたなら』が決まり、映画で初めて聴いたときはイメージにばっちりハマっていて、驚いた記憶があります。
ストーリー展開そのものは古典的で目新しいというものはありませんが、『となりのトトロ』と同じく、何度見ても飽きずに数年おきでも見続けられるというのはじつはスゴイことだと思っています。
ジブリもあの頃の一連の作品群の方がこの先の数十年後までも子供から大人まで楽しく見ることが出来るディズニー初期作品の『白雪姫』『不思議の国のアリス』『ダンボ』のような輝きを保つのではないかと思っています。
総合評価 80点
『アリー/スター誕生』(2018)レディ・ガガが『SHALLOW』を熱唱!
最初にこの映画の予告編を映画館でぼんやりと眺めていたときは誰か出ているのかは気にもとめていませんでした。テレビCMが流れるようになって、ようやく「なんか、レディ・ガガに似てるなあ…」と本人のアップを目にしているにも関わらず、間の抜けた感想を持った程度でした。
先日、『上田慎一郎ショートムービーコレクション』を観に行った帰りにモールの中にある金券ショップへ商品券を買いに立ち寄った際に、ふと『アリー/スター誕生』の前売り券(今ではムビチケと言うらしい…)が目に入ったので、そのまま購入しました。
公開日は12月21日から、つまり本日からの公開でしたが、さすがはぼくが暮らす、関西でも呑気な街で有名な奈良では観客はまばらで、ゆったりとした環境での上映となっています。
レディ・ガガという人に対しては日本のファンは特別な感情を抱いており、東日本大震災の際の彼女の行動や励ましを誰も忘れることはないでしょうし、彼女のニュースが流れれば、とりあえず見てしまいます。
最近、大ヒットしている『ボヘミアン・ラプソディ』のクイーンも日本で人気が先行してから、外国でも認められるという異例なバンドでしたが、相思相愛の関係というのは良いものです。
レディ・ガガの最近の活動をくわしくは知りませんが、映画ファンとして出来ることは作品に足を運んで興行に貢献すること、見た感想をアップして、少しでも話題にしていくという底辺のサポートくらいです。
音楽性はレディ・ガガ自身とブラッドリー・クーパーが歌っていますので、気合いの入り方が違いますし、『シャロウ ~『アリー/ スター誕生』 愛のうた』『ラ・ヴィ・アン・ローズ』『ミュージック・トゥ・マイ・アイズ』『オールウェイズ・リメンバー・アス・ディス・ウェイ ~2人を忘れない』『アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン』でのガガの熱唱、そしてブラッドリー・クーパーのギターがカッコイイ『ブラック・アイズ』など楽曲のクオリティもかなり高い。
CMでもよく掛かっている『シャロウ ~『アリー/ スター誕生』 愛のうた』は前半のクライマックスですが、その他のナンバーも出来が良く、聴きごたえがあります。
ラップなどのイケてる音楽について行けない僕ら世代には劇中で流れるスローバラードやミディアムテンポの楽曲の方が聴きやすく、心地良い。
お話の内容はよくあるサクセスストーリー、つまり安全パイの展開と思いきやラストではブラッドリーが自殺した後の追悼コンサートで彼の妻役のガガが最後の共作の歌を唄うシーンで幕を閉じます。つまり、ビターなラストの作り方なので、説得力が増してきます。
元ネタは1932年公開の『栄光のハリウッド』ですが、クラシック・ファンにはおなじみなのは1937年公開のジャネット・ゲイナー主演の『スタア誕生』とジュディ・ガーランドの1954年版でしょう。1976年にもバーブラ・ストライサンドで製作されています。
これを現代風にアレンジして製作されたのが本作なので、古典的なリメイクです。今回初めて“スタア”から“スター”に変わっています。昔見た“スタア”(にしきのあきらみたいだ!)との違いは入水自殺するか、首吊り自殺するかでした。
二人の関係性の変化と逆転が見どころの一つで、当初は場末で歌っていたガガを拾ったブラッドリーが彼女にスポットライトを当てて、デビューさせるころまでは彼の方がパワーを持っています。クラシックのやつは女優志願でしたが、今回のガガ版では音楽映画に変わっています。
しかし、ガガが成功を重ねて行くうちにブラッドリー自身の才能はピークアウトし、難聴とアルコール依存症、そしてコカイン吸引などの薬物使用による体調不良やグラミー授賞式での失態も重なり、落ちぶれて行きます。
ガガにスポットが当たっていますが、ブラッドリーの年齢の離れた兄弟役で出ているサム・エリオットが渋くて良い味を出しています。脇役が良いと作品は締まりますし、ドラァグ・クイーンがショーを行っている飲み屋で彼らと仲良くやっているガガの立ち位置はとても自然でした。
こういった演出はイマドキ風ですが、何から何まで古い演出にこだわる必要性もないので、現代の観客にはむしろ見やすく仕上がっています。
甘ったるいエンディングではないので、大人のカップルや奥さん同伴とかでも見終わってから、グチャグチャ言われない内容に仕上がっています。才能を見出してくれたかつての大スターへの愛を貫くガガは美しく、ヘアヌードも辞さない体当たり演技が光ります。よくPG12で通ったものです。
劇場公開版は通常版と音響が強化されたIMAX版があるようです。先日観に行った『ボヘミアン・ラプソディ』はIMAX版で爆音を満喫しましたが、今回は時間が合わなかったので、通常版を楽しみました。
両方ともアカデミー賞候補のようなのがとてももったいないですが、上手く賞を分けて行けば、どちらの顔も立つでしょう。そもそも賞を取るかどうかはDVDやブルーレイなどの販売やレンタルにある程度は影響が出るでしょうが、どちらもLGBTに触れているのは現代風です。
カップルや奥さん連れに囲まれていますが、なんでボクはこのラブストーリー&音楽映画を一人で観たのだろうか。まあ、良い出来だったので良しとしましょう。ロビーで見つけたポスターに写っていたのはシルベスター・スタローンでした。来年の第一発目は『クリード 炎の宿敵』かなあ。
総合評価 78点
『上田慎一郎ショートムービーコレクション』(2018)カメ止め監督の過去のお仕事!
年末はなんだかんだと雑事も多く、映画館通いだけではなく、自宅でのDVD鑑賞もままならない状況です。ようやく久しぶりに映画館まで来れましたが、まだ何を見るか決めていませんでした。
どれにしようかと掲示板のスケジュールを眺めていたら、目に飛び込んできたのが上田慎一郎監督、つまり大ヒットした『カメラを止めるな!』の監督が過去に発表してきた短編映画をまとめて上映する『上田慎一郎ショートムービーコレクション』でした。
いかにもな便乗商法ではありますが、これまで報われなかったクリエイターに光が当たるのは素晴らしいことですので、少しでも彼らにお金が入るのであれば、観客として応援する意味もあります。
『この世界の片隅に』で一躍注目を浴びたクラウドファンディングなど、最近では賛同できるプロジェクトに対して、素人でも資本参加出来るというこれまでは考えもつかなかったツールが身近になっています。
それ以外にも賛否はあるにせよ、ふるさと納税など日本人には無縁だった寄付(実際には納税自治体を選んでいるだけ)の裾野も広がってきています。
プロジェクトや投資が失敗したときの損失リスクを理解していない人が自己責任を棚に上げてギャーギャー騒いでいる様子が見苦しかったりしますが徐々に甘えた主張も無視されるようになっていくでしょう。リスクフリーの投資対象である債券(国債)よりもリターンを求めるのであれば、超過のリスクを受け入れるほかはありません。
返礼品がなくなってからでも自治体を選んで納税するという行為を続けられれば、自分のことしか考えられないガリガリ亡者ばかりの日本人の意識改革が進むきっかけになるかもしれない。
クラウドファンディングにしても、怪しげな案件もありますし、騙されることも増えるでしょう。資金をすでに融資した上で追加支援を募るというサンクコストの概念に欠けた利用者からさらに資金を毟り取る者も出てくるでしょう。元本を取り戻そうとするあまりにさらに泥棒に追い銭を払う者が後を絶たない。
ネズミ講のクラウド版も出てくるでしょう。ただ悪いものばかりでもないことを理解すべきなのですが、マスコミや野党の経済概念が乏しく、高給で安全地帯から綺麗事を垂れ流す輩には投資の意味と意義は理解出来ない。
僕らの周りはすべて投資で出来ています。家から外に出て、道に出ますが、それは国や自治体が公共投資したからでしょうし、電気やガスのインフラも同様です。
身の回りはすべて投資の産物です。僕らはみな働いていますが、意識するしないにかかわらず、経済の構成要素であり、誰かの役に立っています。なろうと思えば、株主にもなれるし、小口であっても出資者になれる世界は開かれた良い世の中ではないか。身分にかかわらず、債権者にも株主にもなれます。
作品はショートムービーコレクションと銘打っているように『彼女の告白ランキング』『ナポリタン』『テイク8』『Last Wedding Dress』の四本の短編映画から成っています。どの作品もなかなかの曲者揃いで、見飽きることはありませんでした。
はじめの二篇『彼女の告白ランキング』『ナポリタン』はお金が掛からない観念SFであり、かつコメディ要素が強い。テレビのドッキリショー形式の『彼女の告白ランキング』はまさかの展開になりますし、『ナポリタン』には上田監督作品のミューズである秋山ゆずきが出演しています。予算が潤沢にあるわけではないので、かなりメカや舞台設定などは安っぽいが、良い物を作りたいという意志が伝わってきます。
後半の『テイク8』と『Last Wedding Dress』の出来が秀逸で、まるで本人を投影したような売れない映画監督役の芹澤興人、覚悟を持って彼と結婚しようとしている売れない女優役の山本真由美、厳しい父親役の牟田浩二が良い味を出している『テイク8』には『カメラを止めるな!』にも通じるアイデアが散見されます。
ロケ地は両方とも同じ結婚式場でしたので、もしかすると二本を同時に撮影進行させていたのでしょうか。製作年度を見忘れたので、何とも言えない。
ちなみにあとで調べると『Last Wedding Dress』は2014年、『テイク8』は2015年製作でした。ポスト・プロダクション後にフィルムとして完成するのに年を跨いだのか、それとも会場が気に入ったので、再度使ったのかは不明です。
トリを飾る『ラスト・ウエディング・ドレス』はリーマン・F・近藤と惣角美榮子の老夫婦が主演する『白雪姫』のエピソードをモチーフに使ったホッコリする温かい作品ですので、資金が集まれば、話を膨らませたり、内容を濃くして長編化しても良いのではないだろうか。
残念ながら観客は少なく、大ヒットを受けてからの上映としては寂しいものでしたが、テンポよく話を進める脚本のキレ、奇をてらわないカットの見やすさなど才能の片鱗はそこかしこに見られます。
制作費が増え、利害関係者が多くなり、しがらみが増えれば、鋭さを失う危惧もありますが、何だったら、ずっと無名俳優や地方劇団員などをオーディションを通じて作品に起用し続けてほしい。
かつてのジョン・カサベデスやジム・ジャームッシュがそうだったようにアメリカの独立系映画監督的に独自の立ち位置を築き上げれるのではないだろうか。上田慎一郎監督の才能に期待し、次のおそらく初のメジャーとなるであろう作品にも足を運びたい。
総合評価 75点
『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)じつは最後の勇姿だったライブエイド!
昨日の金曜日から公開が始まった『ボヘミアン・ラプソディ』を観に来ています。ご存知の通り、今から二十年以上も前の1991年に病死したボーカリストのフレディ・マーキュリーとギタリストのブライアン・メイが中心になって1970年代から活動していたイギリスのロックバンド、クイーンの名曲『ボヘミアン・ラプソディ』にまつわる誕生秘話を辿りながら、グループの歴史を知ることができる仕組みになっているようです。
ぼくは四十代ですので、リアルタイムでクイーンの新譜が聴けたのは『RADIO GAGA』『ブレイク・フリー』やフレディ名義の『ボーン・トゥ・ラヴ・ユー』という最後期でしたが、『フラッシュ・ゴードンのテーマ』などは小学生の頃から知っていましたし、ロック・ファンの端くれだったので、一般教養として『オペラ座の夜』と『クイーン グレイテスト・ヒッツ』の2枚はレコード盤を買い、ちょくちょく聴いていました。
ただ僕らがロックにのめり込んでいた80年代の中高生の頃はクイーンはかなり低く見下されていて、音楽マスコミでも高く評価されることは皆無だった思い出があります。
今では名盤として評価が高い『オペラ座の夜』も発売当時は酷評され、まともに聴かれることはなかったようですが、その後もヒット曲に恵まれ、セールスは好調という、ジャーニー、フォリナー、TOTO、スティクスらと同じような、いわゆる産業ロックの位置付けだった気がします。
ただ日頃、クイーンの悪口を叩いていた友達の家に行くと、結構な確率で『クイーン グレイテスト・ヒッツ』のLPやカセットテープが棚に収まっていて、ニヤニヤしたこともありました。
レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ビートルズやローリング・ストーンズを聴いているヤツはロック・ファンとしての市民権が認められていて、クイーンや産業ロックバンドのファンは軽いヤツらという認識です。
もうひとつ、クイーン絡みで覚えているのは1984年にイギリスのバンドエイドが出したチャリティ『ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?』から始まり、1985年の『USA forアフリカ』を経て盛り上がったライブ企画のライブエイドでのパフォーマンスの素晴らしさでした。
前年にスマッシュヒットを飛ばしていた『RADIO GAGA』『ボヘミアン・ラプソディ』『伝説のチャンピオン』などを熱唱するフレディ・マーキュリーの勇姿はもちろん、曲間での観客への熱い煽りがカッコよく、強く印象に残っています。
その後、しばらくは音沙汰がなかったのですが、90年代に入り、バンドのフロントマンだったフレディ・マーキュリーがエイズで闘病中であることが伝わり、しかも当時は治療法もなく、罹患すると死を意味していたエイズでした。残念ながらニュースが全世界で報道されてすぐに急死すると、一気に事情が変わってきました。
どこの国でも同じなのでしょうが、急に“クイーン偉大なバンド説”を散々それまで叩きまくっていたマスコミが唱え出し、サッカースタジアムではアンセム代わりに『伝説のチャンピオン』や『ウィ・ウィル・ロック・ユー』が大音響で流れ出し、現在に至っていますがぼくには違和感がいまだにあります。
本当にマスコミはクイーンを愛していたのだろうか。ゲイだったフレディ・マーキュリーをゴシップ記事で面白可笑しく書いていたのが、死後急に手のひら返しをしていることを恥ずかしいとは思わないのか。
マイケル・ジャクソンのときにも感じましたが、マスコミには不信感しかない。そんなこんなを感じながら、たまに自宅でベスト盤を久しぶりに聴きたいなあと思いながらも、買い替えまでは行っていませんでした。
何故今のタイミングでクイーンの伝記的な作品が映画化されたのだろうか。内容は名曲『ボヘミアン・ラプソディ』の誕生秘話なのでしょうが、確かに最初にこのナンバーをレコードで聴いたときは怪体な曲だなと思いながらも、オペラのパートとの繋がりが楽しく、ゴージャスな雰囲気に負けないフレディ・マーキュリーのボーカルに感心していました。
歌詞の中にはガリレオとか、バルサラとか意味不明の名前が連呼されていて、ガリレオはともかく、“バルサラ”って、いったい何なのだろうと思っていましたが、フレディの本名のファミリー・ネイムだということをはじめて知りました。彼の先祖はイスラム社会で迫害され、国を追われたゾロアスター教の信者だったことが明かされる。
またこの名曲の原型はすでに1970年時点でピアノ・パートのリフが出来上がっていて、少しずつ形になっていく過程が興味深く、リリースまで4年かかったのだとはじめて知りました。ビートルズでも後期のアルバム『レット・イット・ビー』に収録されている『ワン・アフター・909』はデビュー当時の『プリーズ・プリーズ・ミー』ですでに試されていっましたし、ジョン・レノン名義の『ジェラス・ガイ』もホワイト・アルバムのイーシャー・デモで原曲が聴けます。
クイーンのナンバーで好きなのは『キラー・クイーン』『ボヘミアン・ラプソディ』『地獄へ道づれ』『バイシクル・レース』『ショー・マスト・ゴー・オン』『愛という名の欲望』『ドント・ストップ・ミー・ナウ』『ウィ・ウィル・ロック・ユー』『ボーン・トゥ・ラヴ・ユー』『ラジオGAGA』などです。
つまりベスト盤好きな軽いリスナーだったということですし、クイーン教の信者ではなかった訳ですが、良い曲は良いということはわかるつもりです。作品を見ていくうちにフレディの同性愛への苦悩、弱みにつけ込むイエスマンばかりの取り巻き達、時には彼に「NO!」を突きつけるバンドメンバーとの葛藤や彼らへの裏切り行為がしっかりと描かれているので、引き込まれていきます。
フレディの私生活の乱れや薬物依存、アルコール依存などの隠したいであろう部分が赤裸々に描かれている点もポイントが高い。曲が生まれていく過程や様々なトレンドを取り入れて試すメンバーの姿勢が良く捉えられていて、何故『ボヘミアン・ラプソディ』や『ウィ・ウィル・ロック・ユー』が誕生したのかも分かるようになっています。
また作品が進んで行き、クライマックスとして用意されたのがライブエイドでのパフォーマンス(舞台はサッカーで有名なウェンブリー・スタジアム)だったことが興味深く、あのパフォーマンスはフレディがすでにエイズの宣告を受けて、遠くはない自らの死期を悟り、ライブ活動から離れ、仲違いしたメンバーたちと寄りを戻し、彼らに自分の死期を知らせた上での最後の晴れ舞台であったことが明かされます。
彼の渾身の熱唱とバンドの演奏があのステージを作り上げていたのだと知ると感慨深い。実際に演奏されたのは『ボヘミアン・ラプソディ』『RADIO GAGA』『ハマー・トゥ・フォール』『愛という名の欲望』『ウィ・ウィル・ロック・ユー』『伝説のチャンピオン』『Is this the World We Created...? 』でした。
劇中では時間の制約があるので仕方ありませんが、『ボヘミアン・ラプソディ』『RADIO GAGA』『ハマー・トゥ・フォール』、そして『伝説のチャンピオン』が使われていました。全編に興味がある方は音質が良いブルーレイが発売されているようで、リンクを貼っておきましたのでそちらをどうぞ。
たしかに『愛という名の欲望』ではハウリングが酷かったからかなあとか、『Is this the World We Created...? 』ではスタッフの無線が混線していて、フレディの静かな歌を台無しにしてしまっているから使われなかったのかなあとか想像できます。
もっとも劇中でも取り上げられていた、観客が間違いなく盛り上がる『ウィ・ウィル・ロック・ユー』が使われずに、突然歌われる『ハマー・トゥ・フォール』には印税の行き先とかが関係しているのかなあなどと邪推してしまいます。
彼らが活動していた時代に流行っていた曲やアイデアを得た曲が流れるのも興味深く、歌劇カルメンの劇中曲、クリーム(ブラインド・フェイスかな?)『ウェイティング・フォー・ユア・ラブ』、リック・ジェイムス『おしゃれフリーク』などがさり気なく掛かっていましたのが個人的には楽しかった。
1982年のシーンで聞き馴染みのあるMCハマー『ユー・キャント・タッチ・ディス』のフレーズが流れてきたので、一瞬おかしいなと思いましたが、「違う、違う!リックのほうだ!」とひとり合点しました。本日は土曜日だったこともあり、観客は100人以上は入っていました。
奈良にもクイーンのファンがまだまだ健在のようです。レコード時代には持っていた『クイーン グレイテスト・ヒッツ』を買い直そうかなあと帰りの道すがら、歩きながら考えています。
総合評価 90点
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