良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ショーシャンクの空に』(1994)本国よりも、日本で大ヒットした90年代の名作映画。

 原題が『ショーシャンク刑務所のリタ・ヘイワース』で、作品中に『ギルダ』の映像を効果的に取り込んでいる、フランク・ダラボン監督による1994年公開作品にして、彼にとっても最も優れた作品です。しかしアメリカで公開された時には、たいして話題にもなりませんでした。その後、日本では大ヒットし、ビデオ・レンタルでも絶好調で、気がつけばいつの間にか、90年代を代表する作品のひとつ、とまで言われるようになった、まさにビデオ時代を代表する作品でもあります。個人的にも、この作品は全くのノー・マークで、見たのもレンタル・ビデオが最初でした。  この作品の驚異的なところは、いまでも、レンタル・ビデオ店での稼働率が高いことです。子供も見ることの多いディズニーやジブリの作品以外で、旧作が大抵貸し出し中になっているのは非常に珍しいので、リピーターの映画ファンが多いということも、この作品が変わることなく愛されていることの証明となります。近所のビデオ店ではDVDとビデオ合わせて5本置いてありますが、貸し出し中である確率が高く、なかなか見れません。  人気作品ではありますが、実際に1994年という時点で、この映画がこれ程まで評価され、不滅の人気作品であり続けると読めていた映画関係者は皆無だったことでしょう。宣伝の目玉となる、アイコン的なスター俳優は皆無で、しかもダラボン監督は当時無名に近くネイム・バリューは期待できず、配給会社としても、映画館としても、はなはだ売り込みにくい映画ではありました。そのため当時は、そんなに宣伝されていた覚えがありませんでした。こうしたことから、地味な印象が付きまとっていた本作品ではあります。  その後、着実にキャリアを積んでいったモーガン・フリーマンが主演待遇で出演するなどしているためか、彼を基調にした全体の演技は小気味よく抑制が効いていて、撮影も刑務所という閉鎖空間を描くために用いられたローキー照明が、作品の雰囲気を上手く掴んでおり、作品の見た目に多大な貢献をして、トータルとしての映画全体の出来栄えが大変、素晴らしく仕上がりました。  ストーリー構成は破天荒とも取れる作り方をしていて、その作風を好きか、嫌いかで評価もずいぶん違ってくるかもしれません。単純なシリアスドラマではなく、コメディー、友情、ハート・ウォーミング、シニカル、そして脱獄物といういろいろな映画の要素を一本の中に詰め込んだ、一歩間違えるととんでもない方向に進みかねない危険性もある作品ではあります。  プロット、プロットを丁寧に見ていくと、監督のご都合主義には驚くほどではありますが、これはリアリズム映画ではなく、スティーブン・キング原作による、リアリズムの要素が多いファンタジーなのですから、目くじらを立てて、どうこう言う必要はないのです。物語を面白く映像で語るのが映画なのだから、映画のリズムに不必要なものはカットしても差し支えない。  それを見事にまとめきった、豪腕を誇るダラボン監督の才能と集中力があってこその作品です。作品の破綻を救ったのはモーガンの演技力、ローキー撮影、そして監督の力量です。作品の主役はあくまでもティム・ロビンスなのですが、作品を通して目立つのは常にモーガンの方でした。かといってティムの力が劣っているわけではなく、モーガンにより、彼の良さもより一層引き出されています。  サミュエル・L・ジャクソンデンゼル・ワシントン、そして彼モーガンの三人は出ているだけで、他に何人の俳優がいたとしても際立った存在感を見せ付けてくれます。彼らが出ているだけで、画面が締まるのは何故なのでしょう。  作品を盛り上げたもうひとつの要素として挙げられるのが、音楽の選曲の素晴らしさです。『ギルダ』で歌われた『Put the blame on Mame』を劇中劇の中で使って見せたり、『フィガロの結婚』を刑務所中に響かしてみたり、音の使い方が絶妙でした。  原題でもある『ショーシャンク刑務所のリタ・ヘイワース』の意味が、最後に明らかになる見事な構成は流石、スティーブン・キングと唸らせるものでした。有名監督ではなく、無名監督に監督を任せたのは、『シャイニング』でのキューブリック監督との争いで懲りたからかもしれません。  作家にとっての監督は、あくまでも自身の著作を映像化するために存在する人間に過ぎないので、キューブリック監督のように、原作からはあくまでも基本プロットをいただくだけで、あとは自分の映像美の世界を撮りたいように撮る、既に出来上がった巨匠タイプの監督は目障りでしかないのでしょう。  実際に、『シャイニング』はキングの原作とかけ離れた作品になってしまったために、後々自分の思い描いた世界を映像に残すためにキング版『シャイニング』をわざわざ作り直したほどでした。結果としては、キングは映画には向いていないということが、『シャイニング(キング版)』、『IT』、『クジョー』により全世界に示されました。餅は餅屋に任せておいて、自分は作家家業に明け暮れてくれた方が、映画ファンには嬉しいのかもしれません。  なにはともあれ、この作品は見て損の無いクオリティーを確実に持っています。物語構成、演技、大作らしい見た目の良さ、刑務所という異空間の描き方、音楽の選曲のセンスとあらゆる面で欠点の少ない優秀作であることは間違いない。最高の映画とは言えませんが、優秀作としては見る価値のある映画です。 総合評価 92点 ショーシャンクの空に
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