良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『半落ち』(2004)寺尾聡と原田美枝子は個人的には大好き。でも日本映画界の人材不足は深刻だ。

 佐々部清監督、2004年製作作品で、主演に寺尾聡、原田美枝子という黒澤明監督作品が好きな人にとっては、最後の大作である『乱』を思い出させる映画でした。『乱』では嫁が家を滅ぼしましたが、この作品では夫が、認知症の夫人を尊厳死?させました。  現在考えられる日本俳優陣、オールスター・キャスト的な作品である本作品は、一方で邦画の限界を曝け出す映画でもあります。個人的には寺尾聡も原田美枝子も大好きな俳優ではありますが、そろそろ彼らを脇に使って、主役をはれる抜群の存在感を示す俳優に登場して欲しい。邦画の主役や主役級のほとんどが真田広之、役所公司、寺尾聡、原田美枝子大竹しのぶ渡辺謙北野武という現状は、とても寂しい限りです。  作品自体は、これからのわが国が否応なく直面する高齢者問題、とりわけ介護と尊厳死について、そして夫婦の絆を、自己の問題として避けて通ることの出来ないこととしています。また希望をなくしかけている人間が、最後に人として何を糧に生きていくことが出来るのかを、誰にでも起こりえる身近な問題として作られています。しかし突飛に過ぎる「尊厳死」という名のもとに行われる「殺人」は、少々疑問でした。  原田美枝子は痴呆問題に関する映画としては、『折り梅』という作品にも主演しています。葛藤がありつつも、家族みんなで痴呆の母を支えていくストーリーでして、こちらの方が現実的で良い作品でした。トミーズ雅の台詞棒読みには参りましたが。  ただ作品を支える芯となるべき部分が弱々しい。「殺人」、「尊厳死」、「腐敗」、「空白の2日間」、「骨髄ドナー」など作品を支えられる軸が幾つもあるのにすべてが中途半端であります。台詞に頼りすぎる部分が多く、だれてしまうところもあります。演劇的というか、文学的というか、もっと映像で表現して欲しい。ここら辺が現状の邦画の限界点でもあるのでしょう。  表テーマの陰に隠れてはいますが、「官」の汚職についてのさまざまな問題提も行われてはいました。何かあるとすぐに隠そうとする「官」や、あたかも自分だけは「清潔」だと言い、偽善者の情報を垂れ流し続けるマスコミの「胡散臭さ」と「汚さ」、言い換えると守るべきものがあると人はどんな汚いことでもやってしまうという皮肉と怒りを感じます。ただ、あまりにもステレオタイプの取り上げ方には新鮮さがありませんでした。  最後の家族の絆の場面は必要とは思えず、ドナー登録と手術により「命」を彼により分け与えられた少年との対面のみで十分でした。特に意識することはありませんでしたが、エンディングでかかる森山直太郎の「声」は彼自身の声だけでなく、「介護」を抱える人々の心の声をも代弁したいようなつくりでしたが、わざとらしく白けてしまいました。少々唐突とも思える寺尾ファミリーのカットの後だったのも難点でした。  自宅という他者からは隔離された「密室」で犯罪が起こり、本来事件を解決するべき取調室という「密室」の中で、「官」による保身のため事件が、真実とは関係のないところで、自分たちの都合の良いように曲げられていく過程、そしてそれをなんとか防いでいこうとする「法廷」という新たな「密室」でのせめぎあいの緊迫感。もっと「密室」を上手く機能させていれば、もっと深みのある大作に成り得たのではないかと思いました。  この作品で扱おうとした、いろいろなテーマについていろいろ考えて見ますと、もっと良い作品となる可能性も高かったのに、素晴らしさを表現出来ているとは言い難い。大作を狙って、そのように宣伝したが、演出及び脚本が本質を捉える力量不足により、実質が伴わなかった不幸な作品でしょう。もっと大切に俳優を使って欲しい作品でした。 総合評価  56点 半落ち
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