良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『グッド・モーニング・バビロン』(1987) 映画史に残る傑作『イントレランス』を支えた職人達。

 1987年製作のパオロ・タビアーニ監督作品にして、映画をこよなく愛している彼の姿勢が理解できる素晴らしい作品です。『イントレランス』の製作風景、スタッフの努力と夢、そして映画の父D・W・グリフィス監督の様子が70年の歳月を経て蘇ります。グリフィスファンにとっては『イントレランス』のタイトルを聞くだけで、他の映画では感じることなど絶対にない畏敬の念が溢れます。  この『イントレランス』を題材にとったタビアーニ監督は本当に映画が好きな人なのだなあと心から思いました。創生期のハリウッドの熱気と活気、俳優やスタッフそして監督自身の夢と野望、そこに入り込んでいくイタリア移民の主人公達。ハリウッド映画史の幕開けであるだけではなく、イタリア移民のささやかなサクセスストーリーでもあります。  『イントレランス』を取り上げるのならば、グリフィス監督、リリアン・ギッシュとドロシー・ギッシュの姉妹など劇的な人生を送った、主人公候補が山ほどいるのに、空中庭園を作り上げた、名もない建築職人や庭園シーンで踊るエキストラにスポット・ライトを当てる姿勢は、イタリア・ネオレアリズモの残像のようであり、タビアーニ監督の映画への愛情の証でもあります。  華々しく、眩いばかりのハリウッド映画が、実際には一生、日の当たらない人々たちの努力と夢によって支えられていることを愛情とともにフィルムに焼き付けています。何千何万というエキストラを使い続けたグリフィス監督の完全主義にも驚かされますが、『イントレランス』には本当にこれら何千の人々が、一度もアップになることもなく、ただの風景として存在しているのです。  名前は出てこないこれらの人々にとっても、映画は夢であり、生活の手段だったのです。生活の手段としての映画。イタリア映画のみが持ちえた視点をこの作品もまた受け継いでいます。職人の物語であり、家族愛、兄弟愛の映画です。派手なグリフィス監督の生涯ではなく、あくまでも一職人の人生にスポットライトを当て続けていく、素敵な作品でした。ただ後半になってから、バタバタと戦争までいってしまう展開は強引過ぎてついていけません。結婚式のシーンで終わっても良かったのにと思いました。  勿論、グリフィス監督も重要な登場人物であり、彼の栄光と転落も同時に描かれています。『イントレランス』上映時に起こった抗議デモ(『イントレランス』は第一次世界大戦への反戦映画であり、戦争をしたがった強硬派から目に敵にされました。)はその後の彼の転落を示唆しています。KKKを賛美した『國民の創生』では差別主義者と非難され、『イントレランス』では平和主義者と非難される。八方塞になっていくグリフィスの不幸が暗示される。  主人公の兄弟たちも時代の波に飲み込まれ、悲劇的な結末を迎えるこの作品。映画のファンタジーの部分と、リアリズムの部分がそれぞれ前半と後半を支配します。グリフィス監督のその後の不幸を知る者としては、せめて作品中の主人公達には幸せな人生を送って欲しかったのですが、タビアーニ監督は、イタリア・ネオレアリズモの流れを汲むイタリアの職人監督だったのです。主人公が職人だったように。  ショービズのきらびやかさとはかなさ、それに正対する戦争という現実の厳しさは、映画の、そして芸術の敗北を我々に突きつける。第一次大戦時の物語ではあるが、現在になってもなんら変わりはない。人間は進歩しない、もしくは進化が止まった動物なのかもしれない。 総合評価 82点  グッドモーニング・バビロン!
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