『パルプ・フィクション』(1994) タランティーノ監督の、そして90年代の代表的作品。
鬼才クエンティン・タランティーノ監督、1994年製作のこの作品は彼の代表作品であるだけではなく、1990年代を代表する作品でもあります。
しかし、この作品についてはあまりにも多く語りつくされてしまっている感があり、独自の視点というものを見つけるのがとても難しいのも事実です。公開された時に感じた印象は大変衝撃的であり、彼の才能の大きさに期待したことを覚えています。
内容はあくまでも群像劇であるために、大雑把に言うと、主役不在のフィルムであるということも可能です。有名な俳優であるジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ブルース・ウィリス、ユマ・サーマン、ハーヴェイ・カイテルなどが出演してはいますが、この中の誰かが主役であるということではない。
あえていうならば映画の中のジャンケンポントリオである出演者、監督、そして解釈を任されるという意味で、観客すべてが主役であるという作品なのではないかなと思っています。
普通に見ても良いのですが、時間の流れに沿って、自分でシーンを構成し直す楽しさを、これほどまで与えてくれた作品は、当時はかなり希少価値がありました。今では模倣作品も多く、オリジナル性を感じないのかもしれませんが、それはタランティーノ監督の責任ではなく、安易に成功作品を模倣する、悪い意味での職人的な製作者の責任です。
タランティーノ監督自身もいまだに、この大成功した、プロットの時間軸をいじり回す手法から脱却できていません。ここら辺をいつまでもクリアできないと、案外早く、見捨てられてしまうのではないでしょうか。
評判の高い『シン・シティー』(2005)でもあまり改善されているようには思えませんでした。ロドリゲスまで巻き込んでいるのですから、もっとレベルの高い作品を期待してしまうのです。
SMやホモセクシャルの残酷シーン、そして殺人シーンが出てくるにもかかわらず、あまり嫌悪感が湧いてこないのも珍しいことです。ロス・アンジェルスという開放的な空間の持つ雰囲気が作品にも反映されているためなのか、タランティーノ監督が持つコミカルな視点のためか、はたまた照明がコメディーでよく使われるようなハイキー照明のためなのか。
ともあれ、作品の持つ明るさは残酷な描写を中和しています。マクドナルドのビッグ・マックのヨーロッパでの名称、麻薬の中和のための馬鹿でかい注射器、杓子定規を表す「四角」の枠組み、いるだけで笑えるブルース・ウィリス、懐かしの『サタデイ・ナイト・フィーバー』の再現など思わず笑ってしまうシーンや会話が数多くあり、それらを上手く残酷シーンに被せていく事により、これらのシーンの持つ「臭み」を消し去っています。これは素晴らしい才能だと思います。
つぎに物語の構成という意味では、『レザボア・ドッグス』を観た方ならば、おそらくご理解いただけると思いますが、『パルプ・フィクション』はこれの焼き直しのような作品なのです。『レザボア・ドッグス』で弱かった部分、つまり問題点は、ハーヴェイ・カイテルやスティーブ・ブシュミなど個性派俳優は多かったものの、出演していた俳優に地味な人が多く、興行を成功に導くための宣伝となるアイコンの不在でした。
スター不在のもたらす作品への感情移入の難しさという点がありました。それも前述の四人(トラボルタたち)を使うことで、それも解消されています。
まあトラボルタに関しては、もしこれに出ていなかったならば、まだまだ不遇な時代が続いていたかもしれませんが。ユマ・サーマンはこれがブレイク作品でしょう。ただし後々にも同じような役回りをこなすサミュエルですが、未だにこの作品で見せたような存在感は示していません。
一番良い役回りだったのではないかとも思います。この作品での彼は本当に光り輝いています。いつもと同じ何も考えていないキャラクターを淡々とこなしているブルース・ウィリスですが、彼も他では見ることのない強い個性を感じました。
研究熱心なタランティーノ監督は、演出面でもヒッチコック監督的なマクガフィンを使うことで、「素晴らしいもの」とは何なのだろうという観客が当然持つ期待を160分という作品中、ずっと持続させることに成功しています。
話に全く関係ないという「はぐらかし」もとても心地よいものでした。観ている人が見てみたいシーンをあえて見せないことで観客の想像を喚起してフィルムの世界に引きずり込んでいく手法はとても素晴らしく、これが二作目とは思えない出来栄えでした。はぐらかしの片鱗は『レザボア・ドッグス』の銀行襲撃シーンの欠落からも示されています。
二時間四十分という長い作品ですが、場面設定がどんどん変わっていく展開を採る事により、観客に適度の刺激を与え続けることで、作品への緊張感を保たせることに成功しています。観ていない方には、とにかく観てくださいとしか言えません。これは間違いなく90年代を代表する作品です。見て損はしない作品であると言えます。
総合評価 91点
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