良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『AKIRA』(1988)アキラの前に、アキラなし。アキラの後に、アキラなし。

 1988年に制作された大友克洋監督作品。この作品が公開され、はじめて見た時の印象は「なんて、細かいところまで拘った作りをしているのだろう」というものでした。なんの先入観もなく、情報を全く仕入れずに観た『アキラ』は大変衝撃的な映像美でした。  80年代に入ってからは『風の谷のナウシカ』、『カリオストロの城』など宮崎アニメの傑作があったにせよ、日本社会全体において、アニメ自体の地位は現在ほど高くはなく、「マンガ」という認識しか持っていない人が大半でした。  「アニメージュ」のような雑誌があり、ファンの人たちは購読していましたが、一般の人からすると、こうした人は「オタク」の烙印を押されている状況でした。多少大げさかもしれませんが、こうしたアニメ・ファンが鬱々としていた時に、その閉塞感を打破するきっかけとなったのが、『アキラ』なのです。  僕の周りでも、この作品が好きか嫌いかではなく、良い物として褒めないと、その人はアニメ・ファンではない、と見なされるというなんだか奇妙な状況だった記憶があります。ひとつの作品が爆発的にヒットすると、礼賛するか、完全否定するかに陥りがちな、わが国らしい状況だったのです。そして次に続くのが、はてしない模倣です。  まずオープニング・シーンの入り方に、大友監督がこの作品を、「映画」として製作したのだという意気込みを見てとれます。無音状態で超俯瞰ショット的な映像から作品が始まり、最初の滅びを表現します。エンディングでも、いわゆるクレーン・アップ退出の技術を使い作品を閉じました。  実写で使われる映画撮影技術を、敢えてアニメで使う事で、現実感が出てきています。映画を見てきた人が見れば、何の抵抗もなく、作品、そして作品世界を受け入れていける体勢を作り出しているように思えました。  これはアニメではなく、あくまでもアニメという媒体を使った、一本の映画なのです。根本として、この製作姿勢があったからこそ、一本の軸のぶれない作品を生み出す事に成功したのではないでしょうか。  バイク・ライトなどの光の残像、リアルで細かい環境描写、人物の影、ガラスに映りこむ人の姿、顔の表情、台詞に連動する口の動きなど現在のジャパニメーションの基本となった、偏執狂的な細かい表現方法のほとんどすべてが、1988年の『アキラ』で出揃っていました。そのことの意味するインパクトの大きさを理解できると思います。  ストーリーは荒唐無稽な物語ではありますが、ストライキ、学校崩壊、暴走族、孤児、新興宗教などが束になって押し寄せて、カオスを描き出し、同時に荒れた社会とその中でも存在する友情と連帯感、民衆が救世主を望む独特な世界観を表現しているようです。超能力はすべての人々にあり、覚醒していないだけであるという世界観は興味深いものでした。  サイキックが活躍するアニメといえば、真っ先に思い出すのは『バビル二世』ですが、これは原作の方が圧倒的に優れています。サイキックに名を借りた、男同士の誇りを懸けた戦いを描いた横山光輝の最も優れた作品は、個人的にも大ファンであり、今でも全巻所有しています。  物語の整合性を重視する方には、全くついていけない世界ですが、映像表現の精巧さと、映画撮影技法の使用により、最後まで見せきる作品に仕上がっています。何はともあれ、80年代の日本アニメを代表する作品である事に異論のある方はいない作品です。  今見ると使い古されたような表現の多さに唖然とするかもしれませんが、オリジナルはあくまでもこちらなのです。旧いといって、簡単に批判する前に、これを作り出した製作者の熱意を感じるべきでしょう。 総合評価 74点  AKIRA - DTS sound edition 〈初回限定版〉
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