良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『暗黒の恐怖』(1950)巨匠、エリア・カザンの隠れた名作。観客に優しい演出を見て欲しい。

 エリア・カザン監督、1950年製作作品ではありますが、ジェームス・ディーンの『エデンの東』や、マーロン・ブランド出世作『波止場』のイメージが強い映画ファンには、存在すら忘れられている感のある、毛色の違う作品かもしれません。しかしこの作品にも、彼らしいテイストが出ています。

 実際、当時の評価としても、この作品はアカデミー賞原案賞を受賞した作品でもあり、高評価を受けていたのです。評価されていたのに、歴史に埋もれてしまった不幸な作品です。でも良い作品です。綺麗なんです。

 芝居の連続性を保ち、俳優の緊張感を切らない為に使われている長回しで撮影されていて、カットを極力避ける意図が見えることに驚嘆を覚える。シーンの切り替えにも、ディゾルヴを多用したり、カットする場合にも、いったん画面の真ん中で芝居をさせた後にカットを入れ、次の画面では真ん中から芝居をさせた後に、芝居が左右に広がっていくなどの演出に、観客の視線をなるべく作品に集中させるような気遣いが見られ、好感が持てる。

 主に固定カメラを中心に撮影しながら、ドリー(車に乗せて撮影したり、線路を組んで、その上にカメラを載せて移動させる、ゴダール監督などは手押しの台車に載せて撮影)を効果的に使い、観客の視線を誘導していく。単純ではあるが、映画が観客のためにある、という基本に忠実に作られたこの作品は、後の監督に見られるような自分よがりの撮り方は皆無です。

 作品そのものは、ともすればB級と呼ばれるジャンルを取り扱っています。そのB級テーマを彼が撮ると、何故にこのように素晴らしい作品として残るのだろうか。殺人、パニック、追跡、病原菌の猛威、勘違い、港町の連帯感と移民の性などが絡み合い、味わいのあるパニック映画に仕上げられています。特に、港町の描写が素晴らしく、波止場の喧騒、潮風、活気、臭みが活き活きと写し撮られています。

 舞台はニュー・オリンズ、港町は独特の雰囲気を作品世界に与えます。細菌の猛威という非日常と、いつもの港の一日という現実感、この二つがあってこそ、突拍子の無い物語に(現在では十分考えられる感染の恐怖)リアリティーが加わるのです。厳しいストーリーと、観客に優しいカザン監督の演出に浸って欲しい一本です。

総合評価 88点