良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『薔薇の名前』(1986)演技派俳優、ショーン・コネリー誕生の瞬間。見事な作品です。

 ジャン=ジャック・アノー監督、ウンベルト・エーコ原作による、1986年度製作作品にして、主演俳優にショーン・コネリーを迎えたこの作品は、公開時は難解なテーマと、作品の舞台が馴染みの薄い中世イタリアであること、そして、作品中で繰り広げられる殺戮と、作品自体が持つ陰惨で重苦しいムードが祟ったためか、彼の主演作であるにもかかわらず、とても影が薄く、あまりヒットしたという記憶がありません。  しかし、この作品なのですが、実は個人的にはお気に入りの作品なんです。大好き!と言ってしまえる数少ない作品でもあります。とても地味で、マスコミ等で大々的に扱われることも無くて、人気俳優ショーン・コネリーが出ている割には、作品の知名度も、いまいちなのがとても不思議なのですが、彼の演技の中ではこれがベストなのではないでしょうか。これについては自信を持って言えます。  「007シリーズ」でのジェームス・ボンド役の印象が、あまりにも強かった時代に見たのが最初だったため、正直言うと「なんじゃこりゃー!?」というのがファースト・インプレッションでした。ですが、すぐにもう一度見直していくと、「こりゃあ、とんでもなく深いねえ」と妙に感心しました。  後々に『アンタッチャブル』など数多くの作品において、一流の演技派俳優として、彼は各作品の品格を高め、演技面での緊張感と現実味を作品に与え、多大なる貢献と役割を果たすことになるきっかけになったのが、この『薔薇の名前』なのではないでしょうか。  この映画は、彼の俳優人生のターニング・ポイントだったのです。ただのアクション俳優ではなく、一流へと彼は飛躍を果たしました。彼の存在感がここまで大きくなったのは初めてなのではないか。こんなに地味な役なのに、とても不思議です。  また、ショーン・コネリーだけではなく、彼の弟子を演じた、おかっぱ頭が妙に似合う、クリスチャン・スレーターも好演を見せ、年端もいかない少年でも、「業」の世界に巻き込まれ、純真さを失くし、悪魔の世界に組み込まれていく様子を痛々しく現しています。人間が、人間であり続ける限り、ずっと続いていくカルマの世界、原罪の物語を、飾ることなく、剥き出しにして曝け出した作品、それがこの作品が持つ迫力なのです。  数ある、宗教関連の映画作品の中でも、異端、同性愛、差別、魔女狩り、戒律破りなど、タブーというタブーを一手に扱い、しかも剥き出しの美しさを持ち、最も素晴らしく、しかも宗教だけでなく、ミステリーとしても、映像の美しさとしても(衣装、セット、調度品を含め)、とても丁寧に作り込まれていて、さすがテーマと登場人物を扱わせたら一流のヨーロッパの映画だなあ、と思わせます。  照明がもたらす陰鬱な雰囲気も、当時の欧州の感覚をよく表現しているのだろうと思いを馳せました。魔女狩りが横行し、あらゆる差別が徹底されていた当時のヨーロッパの封建的な様子を、切り取ってきたような映像の厳しさには、胸が張り裂ける思いがします。実際にこのようなこともあちらこちらであったのだろう。宗教と階級で、がんじがらめに押さえつけられていた、重苦しい閉塞感のあった、あの時代をよく表しているのではないでしょうか。  イタリアをはじめとする数々の書籍で有名な作家、塩野七生も、この作品について、彼女の著書で、たいそう絶賛されていました。なかなか巡り合う事は無いのですが、こういう素晴らしい作品には、頻繁にお目にかかりたいものです。難しいテーマではありますが、キリスト教関連の作品については、『パッション』や『最後の誘惑』、そして『奇跡の丘』などについても、これから書いていこうと思います。  ちなみに、うちの近所のツタヤには、なんとレンタルで二本も置いてあるんでびっくりです。しかも結構、頻繁に借りられている様子です。この作品の価値を知っている人は、難解でも何回も見る作品なのでしょう。何度も見ていて、結末も知っているのに、また見たくなる作品。名作の可能性があるのではないでしょうか。  万人に薦められるかというと大変難しいのですが、死ぬまでに見ておくべき映画100本のうちに入れて良いと断言できます。まあ、薔薇っていまだに漢字で書けないし、薔薇族って言ったら日本じゃホモだしね....。その意味じゃ、ある意味このタイトルって「名は体をあらわして」いるのかも知れませんね。 総合評価 95点 薔薇の名前 特別版
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