良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『大列車強盗』(1903)僅か15カットのこの作品が、アメリカ・アクション映画の始まりとなった。

 1903年に、エドウィン・S・ポーター監督によって、製作された『大列車強盗』はアメリカ映画の幕開けと言っても良いほどの大きな意味を持つ作品でした。アメリカらしい、アメリカ映画といえば、何といっても西部劇に代表される、男の匂いのするアクション映画でしょう。

 テンポの良いストーリー展開と子供でも理解できる正義と悪の対立構造、スピード感溢れるカーチェイス(ここでは騎馬警官と強盗のチェイスです。)などの追跡とその末に繰り広げられる派手な銃撃戦など、スリルとサスペンスを提供してきた、もっともアメリカ映画らしいジャンル、それがアクション映画です。

 正義は必ず勝ち、悪は必ず滅びる。アメリカらしい明快さに満たされたアクション映画は多くのアメリカ人の溜飲を下げさせ、観終わった後の気分はとても心地良く、颯爽と映画館を後に出来る、健全(暴力描写は多いのですが。)な作品群でした。

 なにも深く考えなくても観ることが出来て、なおかつ大いに楽しめる映画ジャンルであるアクション映画は、それを観る者だけの要求だけではなく、低所得者層の労働者からでも、多くの収益を得ようとする、製作側の要請でもあったのでしょう。

  「受けるもので稼ぐ」という、商売の基本は当時から存在している。20世紀の見世物小屋という、賎しいイメージでスタートしたであろう映画、オペラやバレーが一番で、舞台演劇が二番で、三番目が映画。誰が今の隆盛を想像できたのだろうか。

 19世紀後半及び、20世紀初期の映画ファンは労働者階級や低所得者層の人々がほとんどであり、芸術的な作品よりも、単純に楽しめる作品を求めたであろうことは間違いない。ニッケル硬貨で憂さを晴らしていた彼らにとって、この『大列車強盗』は万雷の拍手と支持を集めたことでしょう。

 

 この『大列車強盗』にはサスペンス、暴力描写、アクション、追跡劇などアメリカ映画のエッセンスが溢れています。それも、わずか15カットの中に、起承転結があり、構成に無駄が無く、魅力が凝縮されています。15カットは以下の通りです。

1.  『大列車強盗』のタイトルが現れる。

2.  強盗たちが鉄道の駅舎を襲撃するシーン。 強盗は画面左から右へ、駅員は右から左    へ発砲。

3.  列車に侵入するシーン。列車は右から左へ向かう。

4.  貨物車内での銃撃戦。強盗は左から右へ、乗組員は右から左へ発砲。

5.  機関車への侵入。強盗達は画面下から上へ移動していき、次々に乗組員を始末する。

6.  機関車を停止させて、貨車と引き離す。右から左へ移動させる。

7.  乗客乗員を列車から降ろす。そして金目の物を奪う。右から左へ逃げようとする紳士を    問答無用で射殺する。

8.  機関車を奪い、逃走を始める。右から左へ移動。

9.  逃走、その二。汽車を捨てて、逃走する。この時、パン(横方向の動き)とティルト(縦方    向の動き)を混ぜて使って、逃げていく犯人をカメラが追跡する。ワンシーン・ワンカットのカメラワークを見たのは驚きである。

10. 金を持った強盗たちが、川の向こう岸へ渡っていく。パンで逃げる方向が示される。

11. 少女が駅で縛られている、駅員を見つけ、事件が発覚する。

12. そうとは知らず、ダンスパーティに明け暮れている保安官達。知らせを受けて、捜査開

      始する。

13. 画面上から下に向かって、駿馬に乗って、追跡を開始して、強盗団とはぐれた犯人を   一人射殺する。

14. 逃げおおせたと思い、油断している強盗団を、保安官達が画面上から下に向かって、     包囲していく。そして、そうと気づいた強盗団との派手な銃撃戦が始まる。ひとり、また    ひとりとつぎつぎに強盗一味が射殺されていき、全滅させる。

15. 誇らしげな、保安官がクロース・アップになって、強さをアピールして、暗転。終了。

 たった15カット、上映時間は僅か10分30秒、そのなかに、これ程のドラマが凝縮されているのです。時間が長ければ良いのではないという、見本を示してくれています。現代の作品で、上映時間10分では興行にならないでしょうが、無駄な部分を削ぎ落とすヒントが隠されているのが、この作品です。

 しかも、現在でも使われている、映像テクニックが既に多く使われているのには驚きます。パン、ティルト、縦構図での奥行きの表現、斜め構図がもたらす不安感と不安定、仮想方向(観客が見ていて混乱しないように、誰がどちらに動くかを決めている)の設定には舌を巻きます。

 それだけではなく、他にもオフスクリーン(画面外で何かが起こっている事を観客に想像させることにより、拡がりを持たせる。)を感じる芝居の仕方などを見ることが可能です。

 製作年が1903年という事を考え合わせると、おそらく、20世紀初頭の映画界の重鎮達、D・W・グリフィス、チャールズ・チャップリンシュトロハイムウォルト・ディズニー、Ⅰ・タルバーグ、ジョン・フォードアルフレッド・ヒッチコックたちは、ある者はリアルタイムで、そしてある者はそれは無理にしても、すくなくとも彼らの青年期までには必ずこの作品を観ていたに違いない。

 彼らがこれを観て、どのような事を考えたのかと思い巡らすだけでも、大変興味深い。彼らがどう『大列車強盗』を観て、『月世界旅行』を観たのか。そしてどのように『シネマトグラフ』を観たのか。興味は尽きません。      

総合評価 100点